夜半の妻
悪霊退散コメディです
よろしくお願い致します
妻が夜中に起き出す。
最近多いのだ。そのまま数時間帰ってこない。俺が起きてるなんて、気づきもしやがらねぇ。
もしや、浮気?
夫婦の寝室を抜け出してとは、ふてぇ奴だ。許せん。
神霊をこんなことに使うのは気が引けるが、そっと後を着けてもらう。妻は、俺が神霊を使う事も、気づいてねぇ。
ま、そこは普通そうか。
妻は、台所に行く。寝巻きのままだ。外出じゃ無いみたいだな。化粧もしてねぇ。ついでに、髪も寝癖のまんまだ。
台所の床下収納が、二重底になっていた。
まさか、アルコール依存症なのか?
妻は、変わった装飾のある針のようなものと、白糸が巻かれた糸巻きを点検し始めた。
桐箱から和蝋燭を取り出し、糸に引く。ただの蝋じゃないな。蝋燭に書かれた模様に、霊気を感じる。知らない流派だ。
パジャマのポケットに、針と糸巻きを無造作に突っ込んで、立ち上がる。針、ケースとかないのな。霊気で包んでるみたいだ。妻は、俺の神霊に気づいた様子はない。玄関に向かうようだな。
おい、そのまま外出んのかよ。
財布は持ってないな。靴は裸足にデニム地のスリッポン。靴擦れ大丈夫かね。絆創膏あったかな。テーブルに出しといてやるか。
まあ、あれだ。仕事、だよな。
隠し事って言うか、言っても信じねぇと思ってんだろうね。
念のため、もう少し着いてくか。行っとけ、神霊ちゃん。
神霊ちゃんに、名前はある。
だけど、呼んじまうと、やばい。力が大きくなりすぎて、俺の生命力が、ごっそり持ってかれるのさ。
まあ、力貸してくれる神霊は沢山居るから、神霊くんとか、神坊とか、神さんとか、呼び分けはする。全部一緒じゃ、不便だからな。渾名でも、名付けに近いらしく、呼ばないよりは生命力を奪われるが。ま、大したことない。
とか言ってるうちに、妻、悪霊と遭遇。どす黒く渦巻く塊の中に、辛うじて人の顔っぽい物が見えるな。
妻は、なんか凛々しい目付きになった。おお、惚れなおしちゃうね。タエちゃん、好きだ~。
ん?悪霊増殖したじゃねぇの。何やってんだ、妙子。その糸張り巡らすの、逆効果じゃね?
霊が暴れて、自ら切られに行ってるけどよ。千切れた奴が、全部オリジナルと同じ大きさまで膨らんでんぞ。
見てらんね。
行くか。
俺は、ごそごそ起き出した。千切れても汚しても構わないボロシャツとボロズボンを身につける。パジャマでオソトに出ませんよ、俺は。靴下だって履く。そんで、駄目になってもいいスニーカーも履く。
ポケットには、お仕事道具もちゃんと入れたぜ。
次回、陰ながら
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