デートが突然やってきた
08
呼び方がダブルスデートなのかダブルデートなのかは知らないが…… デートなぁ……。
どうすればいいんだ……。
エスコートしないとならんよな、小遣いはまだあるけど…… バイトも視野に入れるべきか。
と、目前から意識を逸らしていた僕の視界に入り込んできた伽耶ちゃん…… というか顔を両手で挟まれて向かい合っているのだけど。
「ねーねー。桂くん~」
「なっ、なにかな!? 伽耶ちゃん」
「この中でぇ、一番身だしなみにキビシイ大人ってだあれ?」
「身嗜み?」
「貴方をコーデしたい!」
彼女は楽しそうにそんなことを言った。
「こーで?」
「コーディネート! オシャレよ!」
「…… !!」
そうだった。
残念ながら、僕はそんなコトに気がついていなかった。
私服、というより、ファッションセンスなんてモノに自信がない。
羽月さんと一緒に居て、歩ける服が、ない。
ふと気になって、僕は横目で伸の様子を窺う。
「ぅぁ……」
「……っ」
伸と目線で頷き合う。
だよな…… 普段着だけに油断大敵だった。
同士よ、決行日前に整えねばな……。
無言で意志が通じた伸に、友情を確信した。
「あれ、あんまり乗り気でもない?」
「っいや、それより顔近いってか、いやっまぁ、ふっ服、あまり良いのなくて」
寄り掛かる羽月さんの熱が伝わり、触れる手が…… 柔らかいよ位置が近いよ真正面だよ唇可愛い目が綺麗だ……。
目が泳ぐってのは、こういう状態か。
「着こなしなんて合わせ方よ~?」
「伸君はジーパンと地味めのネルシャツか青系統のポロシャツくらいしか持ってないの」
「うわバラさないでくれよ」
「ははっ、僕もそんなもんだけどさ……」
羽月さんの手から逃れても、乾いた笑いしか出ない。
彼女は小さな口にタマゴサンドの最後の欠片を放り込み、ジュースで流し込んでから実に簡単そうにこう言った。
「それじゃあ、服だけ先に買おっか?」
「ええ、そうしましょ。今日の帰りで良いのかしら」
平さんと軽く話す羽月さんに、伸と二人でハモって呟く。
「「あなたが…… 女神か……」」
「なあに? ナニそのネタ、仲が良いわね!」
「「……ははっ」」
「それじゃあ帰り道変更ね。いい?」
「おっけおっけ…… えっ、今日、デートなの…… か」
「おぉ…… お、そうか……」
「やなの? なら伸君だけ来なくても」
「行きます、服買いに行かせてください!」
デートが突然やってきた。
そんな風に、女子が話し始めたら予定はあっさりと決まった。
素晴らしい、やっぱり男同士の話より状況が進むな。
「伸君…… 今日の手持ちはどれくらい?」
「ほーん、じゃあ、普段の服装と、手持ちのシャツの色合いとかおせーて」
「大幡君は何色が好き?」
「笠木くんはどんな系統の上着持ってんの?」
「軽いのとか重いのは気にしない?」
「靴に合わせるから、靴もどんなのかおせーて」
「肩幅ある男子は重ね着より一点張りかな……」
「小物使う…… キャラじゃないわよね、帽子はいっか」
残りの時間は平さんと羽月さんでコーディネート談義をしていた。
そして、昼休みは過ぎていく。
「……ん?」
スマホ画面に点滅が。
メッセージの通知、誰だろ。
学校ではサイレント機能を使っているので、画面が光っただけだ。
伽「放課後楽しみだね♡」
チラリと羽月さんを見る。
「……」
ニヤニヤしてた。
いや、ノールックタップで?
「うを、すげぇ……」
イタズラ好きだなぁ、僕には出来ない芸当。
返信は…… 仕方ない、口頭で。
「えっ、と、羽月さん?」
「ヤダ」
「え」
「呼び方が戻ってますよ?」
あ、ホントだ。
どこからだ…… コーデの話でビックリしたからか?
やっぱりいきなりは変わらないな。
しかし…… やるぞ。
本番までに、モノにする。(色んな意味で)
☆
「あー! アレアレ! 絶対合う!」
放課後。
UNICUROに入るなり、羽月さん……もとい、伽耶ちゃんは綺麗な声で賑やかに笑い、袖を引いて商品の並ぶ棚に誘導する。
因みに、スリーサイズはまだ教えてない。
何故かって?
恥ずかしいからに決まっとる。
「桂くんはこんなガッチリさんだから…… シャツで大人しい色使って、パンツは黒…… いや、足もガッチリだからスキニーはちょーっと……」
「……(腕に掴まられてくすぐったい)」
「深めの赤とか合いそうね、うわっ、こうみると胸板スゴ」
「……(右の胸に手を添えていやああああ)」
「おぉっ、兄貴よりスゴイ厚み!」
「……(下から胸筋掬い上げる手つきが、たすけてぇえええ)」
「腕、太いのねえ…… 私の脚と変わんないよー?」
確かにそうだろうけど!
ボディタッチが激しいです、人の目を気にして欲しい。
ぴとぴと、冷たく柔らかい伽耶ちゃんの手が上半身に触れる。
僕のサイズ知らないから、まあ仕方ないにしたってなっ!?
「ふぅわぁ、仁王さんだ」
「……いやそこまではないっす」
「ありそう~♪」
「……(えいあっ、らめぇ)」
幸せの感触って、コレだな。
両手で左腕に抱きつかれた。
柔らかぁ…… っあ、まずい…… 教えていた方が恥ずかしくなかった。
「……うえから、98、82、90っす……」
伽耶ちゃんは会心のニヤリを浮かべ、離れてくれた。
「桂くんのスリーサイズ、とったどー♪」
「おーみごとー!」
「うっ、うっ、男のプライド汚された……」
「泣くなケーマ…… 相手が悪い……」
そんな取調べをされた後、彼女は自分の脚と僕の腕とを見比べながら店内の物色を再開した。
見本の出ている手近な白いYシャツを広げて見ている。
襟にワンポイントの付いた可愛いデザインだ。
解れとかも片手間にチェックして、器用だなぁ。
「あぁ、こんなのも良いわね!」
賑やかに、それでも色々と見比べながら何点か見つけ出すスピードは流石としか言えない。
「笠木くんには…… コレだよ、初穂ちゃん」
「ふふっ! だと思ったわ。私もコレくらいしか思い付かないもの」
「なんだよ、やっぱりネルシャツだ」
「まだポロ単品の時期でもないし、羽織るのにもつかえるし、今の流行り色とか入れたらコレかなって」
「「えぇ……」」
伸と二人でハモった溜め息をついてしまった。
……茶系統の革靴とジーパンに合わせるなら寒色かな、ここら辺の水色のが映えるし、流行りとしてなら黄色の混ざったチェックパターンが使いやすい……
矢継ぎ早に喋りかけられて僕らは圧倒された。
「……すげえな女子」
「なぁ……」
感心して見ていたら、何着かまとめて渡される。
「はい試着してー」
「え? いいよ、それ買おう」
「ダメ~、着てみないと分かんないでしょ。それに……」
「それに?」
「お店のサイズって、割りとあやふやなの」
「そうなのか……?」
人差し指を振り上げて、ポーズをとりながら伽耶ちゃんが教えてくれる。
その綺麗な仕草さに、僕は見惚れてしまった。
「大袈裟じゃなくて、違うのよ。例えばここは日本人向けだから割りと信用出来るんだけどね? 桂くんみたいなガッチリさんがフツーに着られる洋服のサイズはLじゃ足りないでしょ」
「お、うん、足りないね」
普段着は大体2Lか3Lだ。
胸はLで収まっても、首が苦しくてダメだったりする。
伊達や興味で体に触ってたわけじゃなかったね。
「だから、大きめで襟の開けたのを選んだけど…… それが一番変わるところでもあって。Lと3Lが変わらないお店もあるって知ってた?」
「……え?」
「~㎝って書いてくれてるのはダイジョブなんだけどー」
店毎の表記基準だけではなく、海外製品輸入の店舗ではサイズに使われる単位が違うので、S、M、Lしか使われないコトが多く、それを信用すると「まるで子供用を着てしまった大人」になったりしてしまうと。
「桂くんの体だと、胸周りに合わせたら肩が足りなそうだし…… でも首周りはキツくしちゃうとダメだし……」
伽耶ちゃんはそう言いながら他のパターンを考えて、頭を揺らしていた。
やっぱり真面目で、気配り上手な人だ。
根掘り葉掘り聞いてこないで、オススメを言いつつ好みを見付けようとしてる。
「……着てみるよ」
いろいろと心配だったけれど、これなら。
……いや、無駄な心配だった。
彼女はこういう温かい人だ。
だから「気取って」とか、見栄を張るのは無意味。
むしろ、肩の力を抜いてていい。
つまり伸の方だけ心配してられるな……?
「……そっちの方は?」
僕は伸の姿を探して店内を見渡した。
「……あれ?」
「初穂ちゃんも居ない」
こちらを見る彼女も、平さんを見失っていた。
すると、試着室から声が掛かる。
「はーい、こっちー」
「あっ! 初穂ちゃあん!」
「もう伸君に試着してもらってるの。良い合わせだとは思うけど」
「じゃあ、まずは笠木くんからだね」
先行して着替えていたのか……。
いや、着替えさせられていたんだな。
なんで女子はこんなにオシャレが好きなんだろうか。
「で、桂くんはこっちのチノパンと、白いVネックシャツとストライプの青いYシャツ合わせて着てね♡」
「えぇ…… はい」
「はーい、伸君、着れたって」
平さんはそう言って、注目を集める。
「オープンん」
「ひえっ……」
伸…… 晒し者の気分はどうだ?
俺も、すぐに…… そちらにいくからな……。
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