先生、ご心配をおかけしました
06
天然無垢のお陰で話が進んだ。
今朝は気分がいいなぁ、雨だけど。
徒歩通?
余裕です。
『今日の昼休み、GWの予定話せない?』
彼女のグループメッセージが届いて、頬が緩む。
夢ではない。
よくやった昨夜の僕。
桂「おっけ」
伸「了解」
初「いいよ」
勿論、平さんからの返信も含まれてる。
さぁ、伸、お前の力を見せてみろ。
よしよし、まずは第一段階クリアだ。
☆
「大幡あ」
「あ、センセ」
間釣先生はクラス担任で歴史担当。
1時限終了のチャイムが鳴ってすぐに、教室に現れた。
凪いだ無気力な無表情、感情の見えない三白眼と、ボサボサの髪に猫背…… 顔立ちは整っていて、よく「モッタイナイ」と伽耶ちゃんが言っていた。
女子人気はわりと高いらしい。
「あぁ、ちっとこっちこい」
「はい、何でしょう」
「羽月は?」
「逃げました」
「……はぁ…… まぁいいや。いくぞ」
「えーと、どちらに」
「とりあえず生徒指導室に移動な」
何だろう、嫌な予感しかしないぞ?
「今日は、とりあえず…… 確認だけしてぇんだ……」
「……はい……」
一階の生徒指導室は、折り畳みの長机とパイプ椅子が並べられただけの狭い部屋だ。
「あ~…… じゃあ質問が二つ…… 注意も二つ」
「はい」
「ホントは羽月が居なくてホッとしてる」
「……はい?」
「まず、調理実習で金儲けしたか?」
「……あ~……」
「まぁ…… 羽月だろ、分かってる」
伽耶ちゃんが食工(調理実習)クッキーを転売ってか販売して上級生にも名前が知られたらしく、そこから先生に漏れたのだそう。
本人から『広まっちゃった☆』と聞いたので知ってるけど。
彼女は、女子が作ったという謳い文句を掲げて男子生徒に小遣い稼ぎを…… いや、荒稼ぎをしていた。
元締めとして暗躍(隠せてないが)して、全校男子達に知れ渡っている様だ。
取り分として5:5を守ると言ってたなぁ。
目敏いとも言えるが、流石に目を付けられていたワケだ。
「お金が関わっちまうと、教師側としちゃあ…… な?」
「アッハイ」
「マジでな」
「マジすか」
「……被害者が居なくても…… 俺からは言わんが、停学はあり得るぞ?」
「分かりました、僕からも注意します」
「ん、じゃあ質問と注意は一つずつ消えた」
「…………」
羽月さんによると、間釣浩平先生は歴史を語るとイケメン化する、職業特化型先生らしい。
普段は幾分抜けているのに授業では情熱的な先生は女子人気が高く、なんでも高畠教頭が狙っているとかいないとか。
今の言葉、「教師側」のセリフじゃないしね。
カッコイイな、普段も充分イケメンだこの人。
その先生が、何故か僕を見つめてる。
……そっちの気はないよ?
爆弾発言は、声を潜めて投下された。
「残りの質問だ。お前達が結婚するという噂を聞いたんだが」
「っ!!」
「出所はクラスメイト、で、分かるかね」
「………… 」
「本当か?」
……内藤だ。
あいつ、発端があの噂だってのに先生に話すか!?
やられた……。
そうかよ、こんな揺さぶりかけるのか。
頭が良いやつはヤラシイなっ!
実際にヤラシイ奴なわけだが。
「……えっと、ですね」
「ただのお付き合い、なら口出ししない」
「はい」
「だが、結婚まで視野に容れているのは気になる」
「……はい」
「出来たのか?」
「ッ?」
先生が顔色を変えずに話していたのでビックリした。
僕の脳内では、ニタニタしている内藤の顔が浮かぶ。
たぶん『あの二人が出来ちゃった婚らしい』とか吹き込んだな。
「……不純とは思わないが、そういった事はまだ早いぞ」
問い詰めたいわけではなく、心配そうに話している。
こんな良い先生を、内藤は利用して、振り回しているわけか。
少し。
苛立ちが抑えきれなくなりそうで、深呼吸。
……先生を振り回してるのは、僕らも同罪だ。
「結婚もな…… お前達の年で考えるのは悪い事じゃねえが…… 判断するのはもう少し金と見識を増やしてからのが良いぞ」
内藤は、僕らの仲について、先生から言われたら拗れる程度だと考えたわけだ。
自分の手を汚さず、破局せざるを得ない様に。
そうならなくても、風評を気にするなら距離を取らせる様に。
直接的にではない所が、キツいし腹立たしい。
内藤は僕の『過去』を知っていて、暴力的には恐れているんだろうし、見下してもいる。
だから大人を利用してきた、か。
「先生、ご心配をおかけしました」
「ん?」
「ですが…… それは、噂ですよ」
「事実無根、で、いいのか」
「いや、僕らはお付き合いを始めたばかりです」
頑張れ僕のトークスキル。
「彼女…… 羽月さんが、結婚を前提に考えているので」
「……………… それは、おう」
意外ですよね、まぁそうだろうけども。
伽耶ちゃんが言ったセリフだから、嘘じゃない。
「それに、清い交際をするつもりですので」
「具体的には?」
「具体的?」
「アレコレしたい年だろうが」
あれっ?
割りと下い話もイケる口ですね先生。
「……在学中は、最終段階に行かないつもりです」
「よし、分かった」
「……軽い」
「良いんだよ、無かった事だからな」
先生イケメン(笑)。
こんなに話せる先生だとは知らなかった。
「やれやれだ…… 後は羽月だが…… 青木に任すか」
「あっ、投げた」
「違う、分担作業というだけだ」
成る程、伽耶ちゃんのテンション嫌がっていたっけ。
……先生も大変だなぁ。
ごめんなさい。
「じゃあとりあえず残りの注意だけな」
「はい」
「買い食いは非推奨」
「アッハイ」
「以上、教室に戻ってヨシ」
内藤の企みは、不発に終わった。
伽耶ちゃんへの注意についてはまた後で…… あ、伝言しておくっすね、わかりやした。
何にしろ、噂だと分かっても影響を本人に自覚してもらわないといけないからだとか。
「あ、先生」
「ん、何だ」
「その『噂』ですが、内藤からですか?」
ダメ元で聞いてみる。
「うむ、そうだ。ナイショだが」
「言ってます(笑)」
意外に簡単に明かしてきた。
やっぱり、内藤の良い様に操られた感があったのかもな。
「何か企んでたんだろうな、何かは知りたくないが」
「噂を流したアイツも、噂に踊らされてるんですよ、きっと」
「……とりあえず聞かないでおく」
とりあえず、は間釣先生の口癖か。
内藤の考えは分かった。
あとは伽耶ちゃんと相談しよう。
☆
伽「……そんなビックリイベントが!Σ( ̄□ ̄;)」
生徒指導室から戻ると、直ぐに授業が始まるところで、情報共有が出来なかった。
なので、こっそりグループチャットに打ち込んでおいた。
……こっそりに返事しない。
桂「そんなワケで、間釣先生には話しました」
桂「伽耶ちゃんはこの後、青木先生に注意されます」
桂「真面目なお付き合いを始めたばかりと言ってあるので」
桂「話を盛るの禁止」
伽「先生には真面目なお付き合いをすると誓ったのね( ゜ε゜;)」
伽「この授業最初に出頭命令がでたのはそーいう(´<_` )」
桂「報告終わり」
伽「分かった☆ 内藤君の企みをおぼろげに詳しく漏洩しとく☆(°▽°)」
何を分かったのか伽耶ちゃんはそんな書き込みをするが、内藤の企みを遠回しにでもバラすのは危なくないか。
危なくないなら、良いけど。
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