男の会話はグダグダ
04
5月ももうすぐ終る。
今日は天気が悪い。
目覚めても朝日を浴びる事ができず、通学途中では雨に降られた。
予報を聞いて自転車通学を諦めていたので、被害は少ないけれど。
まぁ良いと思う…… 寒くなければ。
授業中も小雨が降り続いてた。
☆
「じゃっ、また後で」
「気を付けてね~」
「いちきますぅー」
3時限目を終え、羽月さんを見送ると、やっぱり教室内はいつもより静かになった。
彼女は今日も忙しい。
頭脳は真相究明…… だか、真実はじっちゃん…… だかと唱えて走っていく。
何かを調べているらしく、休憩時間の度に何処かへと飛び回っていた。
内藤の件が心配だけど、まぁ羽月さんだからね。
言っても止まれないだろうし止まらないだろう。
行き帰りはともかく、学校内でどうこうは…… ないといいなぁ。
「しばらくは、様子見か」
「大幡君、がんばってね」
「あぁ、まぁ、何をすることもないのが一番だけどさ」
「……それは伽耶ちゃんがかわいそう」
「えっ?」
「うぅん、何でもない」
「初穂、日直」
「あっ、ありがとう、黒板消してくる」
伸が促して平さんが黒板の清掃に行くと、今日の話題は意外な方向…… 友人から届いた。
伸が真面目な顔で言い出すのは、天文学の話題だけかと思っていたよ。
「なあケーマ、初穂のコト、どう思う?」
「平さんがどうかしたのか」
「いや…… どうかしているのは、僕なんだけど……」
「要約して10文字で」
チラッと日直仕事をしている平さんに目線を向けながら、伸は溜め息混じりに呟いた。
「告白したいんだが」
「お前、そうか、とうとう尻に敷かれる覚悟が」
そのセリフに、僕は思わず本音を漏らしてしまった。
「解せぬ…… じゃなくって、あのな、俺はずっと悩んでてな?」
「伸」
人差し指を自分の口に当て、ジェスチャーで口を塞がせる。
本人が戻って来る所だったのと、プライバシーに配慮したのはもちろんだが、周りの人に聞かせたら羽月さんに伝わるのも一瞬だと思って。
距離感あるクセに聞き耳は立ててるんだよなぁ。
女子の不和って一体……。
邪魔の入りそうな学校でする話題じゃなかろう。
表情で伝わったのか、この話は口にしなかった。
僕との、チャットで続けた。
伸「どう伝えればいいってんだ(泣)」
桂「モテるヤツに聞けや(笑)」
伸「彼女居るヤツはみんな敵だ(怒)」
桂「親も敵か(笑)」
一瞬、後ろから舌打ちのマネ。
伸「だ、ま、れ」
桂「モテてる知り合いは羽月さんくらい」
伸「確かに」
桂「しかし女子」
伸「相談したら即、拡散するな」
桂「でしょうね」
伸「どころか本人に直接言いに行く可能性」
桂「よし相談だな」
伸「おいばかやめろ」
基本的にノリのいいやつだから、こういったやり取りは楽しい。
だけど、伸の好意って、結構分かりやすかったと思うのだが。
呼び方もそうだし、気配りもあるし。
桂「告白ねー。って事は、平さんとの幼馴染みイベントみたいなのがイロイロあったんだルぉ?」
伸「ねえよ」
やり取りしながら、伸が机に崩れて呟く。
「どうしろってんだよぉ」
学校の中でも無数に存在、発生する、人との関り合い。
男子は女子との喋りが大体苦手だと思うけどな。
しかしそういった価値観やら行動指針やらが同じくあれど、僕ら少数派だから、相談相手が居ないのがキビシー。
伸「だって、行き帰りだけだろ、一緒なのって。俺は喋りのスキルが欲しい!」
桂「彼女が欲しいとかの発想ではないのはわかった」
伸「前々から悩んでると言ったが」
桂「はいはい。時間切れだーー」
そこで、予鈴が鳴った。
そして後ろ側の出入口から駆け込む女子が一人。
「りたーなぶるっ」
「空きビンなのかしら?」
「へ? ……なぜに?」
羽月さんが戻って、平さんが笑って出迎え、この話題は一旦中止。
こーいう話題は僕達にとって、初のシロモノ。
伸と友達になってからまだ一ヶ月位しか経っていないが、内面的に似た者同士だと分かってからは打ち解け、幾度となくバカな話を繰り広げた。
だからこそ、僕との会話で出てくる内容は役に立たないと理解して欲しいぞ。
実に不毛。
まぁ、現在に限って言えば。
僕には一応彼女がいることになっている。
偽だが。
もちろん、伸はそれを知っているし。
理由も全てわかってるし。
コレは演技だから。
あー…… 気持ちが悪い。
周囲への嘘は、引け目に近い。
僕は居心地の悪さを感じていた。
☆
帰宅してからまた、チャットが再開される。
伸「だいたいな、競争率が高そうに見えないからって告白しようというヤツが悪いんだよ」
桂「ほう? その話は初耳だな?」
伸「あー、うん。隣のクラスでな。みんな彼女を作ろうぜ、ってな運動が始まったらしくてな」
桂「僕もそれはちょっとだけ聞いた」
何でも、見事にカップルになった奴らが煽ってそんな風潮がうまれたらしくて。
伸「その流れでうちのクラスの女子にも狙いがつけられてるんだ」
桂「どっからそんな情報が?」
伸「トイレ入ったらたまたま聞こえちまった」
つまり、内気そうな平さんに告白して、あわよくば…… といった肉食系男子が居るから、先に告白しようか、と。
……それはそれでどうなんだ笠木伸?
桂「流れは把握した。それでどうするよ」
伸「だからどうしたらいい」
質問に質問で返すんじゃない。
桂「はっはっは。同類に聞くな」
分からないモノはしょうがないが、彼女なあ。
相手の事を紗程知らないでいきなり一目惚れ、ってのは僕は出来そうにない。
だから、知らないままに告白なんて考えが理解できねえ……。
桂「そもそも話が合わないかも知れない人と一緒に居たいかね?」
伸「俺らは知らない仲じゃない」
桂「そらそうだが」
伸に応えつつ、少し過った風景。
羽月さんと、本当のお付き合いを想像してみた。
騒がしくも楽しい時間しかない。
……ああ、絶対楽しいわ。
付き合ってみたい。
でも、まだダメだ。
伸「こっちはどうしょーもねーなー。そっちの、羽月さんとの話は、どうなってる?」
妄想を見透かされたかと錯覚してしまったが、そんなこたぁなかった。
桂「こっちも…… どうにもなってねえよ」
伸「あー…… なあ」
僕等にはこういうこと自体が、向いてないんじゃなかろうか。
ましてや、告白なんて……。
桂「羽月さんがデートしようとは言ってたが」
伸「いつにするんだ?」
桂「まだ決まってない」
はい男の会話はグダグダぁ。
しかしもうすぐ連休だ。
出掛けるには、丁度良い。
休日で「結婚を前提にしたお付き合い」をしている二人なら、一緒に居るものだろう。
……たぶん。
伸「恋人らしく振る舞うにも、二人でいる時間が大切だとは思うんだけどな。だからと言って二人してバラバラに自分の趣味に没頭すんのは違う気がするし……」
桂「あー、小説を読むのも漫画を見るのも、それは一人で出来る事だからな」
伸「……まあ、そうなんだけど、じゃあ何したらいいんだかも分からんのはマズイだろ」
……おいおい、まずは告白してからだ。
桂「こっちの話は良いんだよ、これから女子に告白しようかなんて話をしている伸がメインだろ」
伸「ケーマは優しいなあ(笑)」
桂「きも」
そんなやり取りは、別の通知で止まる。
ピロン♪
伽「やーほー、桂くん(*´▽`*)」
伽「今、ダイジョブ?(°▽°)」
驚いてスマホ取り落としかけたのはナイショだ。
伸とのチャットは、話が進まないしどうでもいい。
いやどうでもよくはないが…… 羽月さんとの会話に比べたら。
桂「大丈夫だよ…… 何かあった?」
伽「うん、ない( ^▽^)」
桂「ないのかよ。じゃあお休み」
伽「うそん(゜ロ゜)」
桂「いや、ちょっと待って。今さっきまで伸と会話してて」
伽「オトコノコだけでナニ話してたのお?(ФωФ)」
桂「大した事じゃないよ、趣味バナだから」
伽「ほーん?( ´Д`)」
そう言ってから、グループを切り替える。
桂「伸、羽月さんからチャット入ったから抜ける」
伸「ほうほう、お付き合いがあるもんなぁ」
桂「それとなく聞けるか分からんが…… 流れが良かったら平さんの事も聞いてみる」
伸「お前が…… 神か……」
桂「言ってろ、じゃあな」
伸「すまん、恩に着る」
コレは天の配剤か、ちょっとは頑張るか。
僕のトーク力に期待して欲しくないけどね。
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