目印のいらない景色
最終話
告白の翌日は、少し早く妹を送り出し、伽耶ちゃんと一緒に登校した。
今更ながら、何故やらなかったのだろう。
これからは毎日、一緒に登校しよう。
学校では、心配してくれていた内藤一味に事情を説明した。
悪い奴らでは、ないんだよなぁ。
内藤が小悪党なだけで。
「パニック起こしてしまったんですね…… ごめんなさい」
「それは、俺のせいだな…… 悪い」
「おい! ナイトが謝ったぞ! 雨が降るな今日は」
「槍でしょ、たぶん」
「お前らなあ……」
石崎さん、内藤、山崎、谷崎さん。
皆、伽耶ちゃんを心配して、内藤を経由してメッセージを送ってくれた。
さっきも、伽耶ちゃんが明るく挨拶した途端に、笑顔を向けてくれた事が…… 中々嬉しかったのは内緒だ。
「相変わらず、仲良いな」
「や、もうヘーキ。あと、折角だから連絡先交換しよ、石崎ちゃんと谷崎ちゃん」
伽耶ちゃんからはそんなリクエストが出るが、二人とも満更ではなさそうなのでそれはいい。
「個別にインタビューもしたいしぃ~……」
問題は、コレだ。
「うえっ、羽月のチャットはクドそうだな」
「私はいいですよ、是非」
「でもインタビューって何さ」
「それぞれの馴れ初めとか……」
「ええっ……」
「石崎ちゃんは一歩先に進んでるみたいだし……?」
「どっ…… どういうコトだナイトっ!?」
「なっ、なななはな、何を言い出すのかこの女はぁ!!」
「……どうして分かるの……?」
伽耶ちゃんは相変わらず、下世話だった。
あーっ、良い天気だなあ(涙目)。
☆
彼女と正式に付き合い始めてから、2日が過ぎた。
僕らが付き合っている事は大分広まっていて、むしろ、交際を隠さないのが普通になりつつあった。
……いつの間にか僕らが普通なんて、考えてもみなかったけどさ。
それに、もう交渉なんてこりごりだ。
かくしごとも、嘘つきもしたくない。
……あと数日で、また定期考査だ。
伽耶ちゃんは何かを探して駆け回っているから、平さんと協力してノートをまとめておこう。
「桂馬君、私達は先に帰るわね」
「ケーマ、また明日」
「おう、じゃあまた明日」
昨日、伸は平さんに告白した。
「もっと知性を感じられないと、私としては弟にしか見えないの」
と言われてしまい玉砕…… かと思われたが、改めてお友達からという形で保留してもらえたとか。
何だかんだで、平さんも嫌いではないんだ。
好きでもない相手の洋服なんて覚えていないよ。
がんばれ、伸。
くたびれたスポーツバッグを持って立ち上がったところで、木場さんに声をかけられた。
どうやら、仲間との会話が終わるのを待っていてくれた様だ。
「大幡くん」
「どうしたの木場さん」
「江田が、バイト面接はキャンセルだって。アイツっ、メッセージ送ったけど未読だからって私を使い走りにするのはどうなのよ」
「ああ、そうだね、ホントだ。ありがとう」
「灯花がお気に入りなのも気に食わないってのに……」
「あ、うん、何か、ごめん。樹には言っておくよ」
自分の使えるお金が欲しくなったから、樹の紹介でバイトの面接を予定していたが…… まぁ、急ぎじゃないし。
メッセージによると、もう一人のバイト仲間が急な用事だとかで、昼から居ないのはそれか。
そのまま手が足りず忙しくて、面接どころではないのだそうだ。
生田さんには、あの時からあまり顔を合わせない様にしている。
だって伽耶ちゃんがまた『気になるの?』とか言って拗ねたら嫌だから。
……可愛いけどね、そういう様子も。
周りを見回すと、もう人も疎らになっている教室の中で、彼女の席に鞄だけが残っていた。
「今日はバイトの面接だっけ。私はまだ、先生に聞きたいコトがあるから気にせず帰ってね~」
そう声を掛けて教室を飛び出した伽耶ちゃん。
「……待ってみるか」
僕はイスに座り直し、スマホの履歴を眺める。
『毎日の惚気がうるさい位なので、早く色々と貰ってあげてください』
……まあ、追々ね。
『誰かにとられたりしないでくださいね』
平さんの激励。
『金以外なら相談に乗るぞ、がんばれよ』
伸の友情。
『自分の気持ちに素直に生きれば、100%の力が出せるさ』
樹の言葉は、何か歌詞みたいだな。
『兄ぃ、今晩はハンバーグだよ、何個食べる?』
おっとこれは大事だがちがう。
3~……いや5個かな、と。
『わたしは桂くんと一緒の時間が楽しいの』
うん、コレ、伽耶ちゃんからの、メッセージ。
はしゃいだ時間に思いを馳せながら、伽耶ちゃんを待った。
……伽耶ちゃんの部屋で抱き締めた辺りまで回想したら、彼女が戻って来た。
「あれっ、桂くん」
こちらに気付き、手を振り駆けてくる伽耶ちゃん。
ニコニコの笑顔が、輝いている。
「ごめん、待っててくれたのね!」
「待っちゃったね」
既に教室は空で、僕ら二人だけだ。
傾き切った太陽が山に隠れ、夕焼けが窓の外に広がっていた。
「だから、気にしなくていいって…… あれ、バイトの面接は?」
「中止になった。なんか、バイト先輩が急な用事とかで、樹も引っ張られて忙しいらしい」
「あー、なら仕方ないね。じゃあ、帰ろ」
「うん、一緒に帰りたくて、待ってた」
僕の言葉に、伽耶ちゃんは不意に黙りこむ。
……頬が赤く染まっているのは、夕陽だろうか。
じっと見て、笑顔が零れる。
「あーっ! もうダメ! 私! 好き!」
飛び付かれた。
彼女は心底楽しそうだ。
反論なく、僕も好きだが。
「ガッコでは、過度の 接触 禁止だよ」
「無理、もガマンできなぁい」
何かのモノマネしながら、伽耶ちゃんが擦り寄る。
首筋に髪の毛や耳が触れてくすぐったい。
クセになりそうだから、引き剥がす。
「チャージは、またねの時に」
「おあずけ……?」
上目遣い禁止。
「だからね、伽耶ちゃん家の近くの公園まで…… ああもう、仕方ないなあ」
「多めにお願いしまあす」
僕らは結局、どちらからともなくハグをしていた。
初志貫徹出来ないのは仕方ない。
彼女が手強いから、臨機応変でないとまた投げ飛ばされそうだし。
帰り道は、お互いに自転車があるので手は繋げないけど、ゆっくり並んで歩いた。
「桂くんが教室でまっててくれたの、ビックリだけど嬉しかった」
「そりゃ何よりだなぁ」
「目印のいらない景色って言うか、ランドマークって言うか」
「建造物レベルまで育ったか僕の筋肉」
「ぷっ、あははっ」
伽耶ちゃんと僕はあの日以来、ずっとどうやって会うか、共有できる時間をどうやって増やすかを話し合っていた。
僕らは、何でも話せる関係になりたかったんだ。
真っ正面から向かい合って、お互いの価値観や常識を比べる事が大切なんだと話して分かったし、身の丈に合った歩みが大事だと僕から言ったら、伽耶ちゃんも強く頷いてくれた。
「けーいーくんっ」
「どうしたの?」
「……なんでもないよ?」
「……うん、そっか。僕は今日も伽耶ちゃんが元気で嬉しいよ」
「うんっ、元気だよ」
僕が言うと、彼女は満面の笑みで頷いた。
釣られて、僕も笑顔になる。
いや違う、最初から笑顔だった。
お互いの気持ちを伝えて、確かめ合ったのだから、あとは僕らなりのペースで歩むだけだ。
でもえっちなコトはまだしません。
今しなきゃならないワケではないからね。
「桂くんは頭が固い…… 筋肉ヘッド…… まあ、私はもうちょっと育つと思うので、期待しててよね」
「伽耶ちゃん。お外でそういうこと言わない」
「あ、また妹ちゃん向けッポイ口調」
「あ、しまった」
「……にしし、もう、今日は大分長いハグになりますよぉ?」
僕らなりのルール、お互いの決めごとが出来た。
1、高校卒業まで、清い交際をする。
……キスまでは、うん、清いハズ。
2、お互いを尊重する。
伽耶ちゃんには罠を仕掛けない事を約束してもらった。
僕からは、伽耶ちゃんを彼女として扱うこと。
妹対応をしたりは、1分間ハグで償わなくてはならない。
3、なるべく気持ちを伝える。
気持ちを隠しても、良い事はないから。
「……公園到着っ」
「じゃ、お休み……」
「だーめーでーすぅ!」
僕の『左手』を引っ張って、公園のベンチへと急ぐ伽耶ちゃん。
僕が座ると、その上に座って寄り掛かる。
「今日はこの形でね」
……こんな姿は、ささら姉さんには絶対に見せられないな。
「……ねぇ」
「なに」
きっとこれからずっと、僕らは笑い、泣き、はしゃぐのだろう。
そして色々と間違って、ぶつかって、泣いて、泣かせて、喧嘩もするかも知れない。
それでも、伽耶ちゃんとなら何でも楽しめる。
「桂くん、大好き」
「……大が付いたね」
彼女となら。
ぶつかっても間違っても。
どんな事も乗り越えていける。
「僕も、大好きだよ」
「これからも、末永くお願いしまあす」
ずっと。
愛しく想っていよう。
長々お付き合いいただいた方には全身全霊の感謝を。
(*´∇`*)初ラブコメ完結です。
まだ登場してない人も居ましたが。
これにて閉幕です。
楽しんでいただけたなら何より。
ここら辺どうなの?(°▽°)とか、
誤字脱字、ツッコミは完結後もお待ちしております。
では、またの機会に御逢いできます事を。




