放課後Pタイム
02
羽月さんの言葉に空気と時間が凍り付いた……。
「……っと」
僕としては脱力感が酷かったので、思わず自分の自転車のハンドルを握ったら、伸の自転車を倒してしまった。
わるい。
そしてその音に内藤も意識を取り戻す。
「……嘘、なんだろ?」
「………………」
羽月さんは、顔を真っ赤にして俯いている。
恋した少女の姿、にも見える。
そして、揺れる髪が綺麗だ……。
おっといけない。
彼女をフォローしなくちゃ。
「内藤、お前が羽月さんに何を言ったか知らないが、僕との仲を疑うのはどうなんだよ」
位置的に座った内藤を見下ろしているけれど、僕の内心はビクビク。
だが、はっきりと宣言しておかないと。
とっととこの場を乗りきろう。
「……僕達、付き合ってるから」
「まさか……」
「だから離して」
まだ掴んだままの腕を見て更にイラっとしてしまう。
そして、睨んでしまった。
「っ?」
目付き悪いのは自覚してるぞ、たぶん5割増しでゴツかろう?
……誰がゴリラだ。
彼女のほっそりとした腕から、内藤の手を引き剥がす。
「他に何かあるか」
「……いや、それなら、いい」
そして、内藤は顔をしかめながら立ち上がり、小声で何かを羽月さんに言うと学校の方向へ行ってしまった。
☆
「まぁ…… 結婚を前提にとか…… 普通科高校の一年生が、んなわきゃねーんだよなぁ……」
「……いっやあぁ…… ありがとー、大幡くぅん」
「ふふっ、お二人、そんなカンケイだったんですね」
にこやかに、平さんがからかう。
やっといつもの羽月さんだ。
「いやぁん、ちがうのぉ、初穂ちゃん一筋は永遠だからぁん」
「……説明をしてもらえたら嬉しい」
「……うん、ごめんねぇ、実は……」
やっぱり、内藤から…… 告白されてたのかな。
それを断るため、僕は代役となったんだろうか。
「上級生のやってるらしい、エッチなサークルに一緒に行かないかって誘われててね?」
は?
……『エッチ』な ……『サークル』 ……
…………
……………… は?
その時、頭の中に5羽の鳥が浮かんでいた……。
放課後Pタイム。
「あ、刺激が強過ぎた?」
「………… マジなの?」
いつになく低いトーンで平さんが問いかける。
こんな話題に、僕は対処できずに黙るしかない。
「本当かはわかんない。でも、女のコ一人を連れていかないと参加できないらしいよ? これもウワサなんだけどねぇ」
「……でも、だってさ……」
「うん、だからこそ、わたしだったんだろなぁー」
羽月さんは内藤の消えた学校の方を向いて言った。
「下っ品な事に興味のある、尻軽な女だと思われたんだろうねぇ、あのヤローに」
彼女には珍しい、他人への嫌悪。
拗ねたような、諦めたような表情も可愛いなぁ。
……いやいや。
そうじゃない。
「わかってるとは思うけど、これは秘密にしてね? 話が広まったりでもしたら、内藤君が何かしでかすかも」
「まぁそうかもだけどさ? 羽月さんはそれでいいの?」
僕は、悔しい。
「そうよ。伽耶ちゃんがそんな風に見られたままなのは私はイヤよ……」
しかし、当人はキッパリと。
「大幡くんと付き合っている事になってる今は、もうダイジョブよ! 大幡くんには、嫌な思いをさせちゃうけど」
そういう事なら責任重大だ。
仮の関係とはいえ、僕は彼女を守らなくちゃ。
「なにをいってるんだよ、羽月さんみたいなキレイな娘、嫌がるヤツなんか居ない」
「そんなお世辞ぃ。だって、わたし、こんなソバカスばっかりだしぃ」
……ソバカス?
可愛い顔なのに。
平さんみたいに、からかいたいな。
そして、いつものお返しに笑わせたい。
「華奢で可愛いと思ってるよ」
「ふぃゃっ!?」
「むしろそれも含めて見ていたいから」
「……あ、はは…… でっで、で、でも、胸もつるぺただし」
羽月さん、慌ててるのもレアだけど、顔が真っ赤だ。
クソっ、可愛い過ぎる。
なんだこの可愛い生き物は。
「そこしか見れない奴は人生を損してるね」
「ない胸は揺れないのにっ!?」
「そんな事、気にしないよ?」
「……わたしは気にしてますぅ! あははっ」
彼女もからかいに気付いたのか、平さんと笑い合う。
「やだ、私とのお付き合いは遊びだったのね」
「お願い分かって初穂ちゃん! これは浮気じゃないのぉ」
「うらぎりものー♪」
「そこをなんとか!」
なんて言って、じゃれあってると。
「……なあ、ケーマ」
後ろから、伸が話し掛けてきた。
「お前ら、いつの間に? 裏切り者ぉ!」
マジ泣きしながら掴みかかられた……。
もちろん、ギャグだよな?
☆
まあ、突飛な事態が発生して。
カレカノ(仮)になりましたよ?
「僕が仮の彼氏として…… しばらく様子を見てれば良いんだね」
「そのまま彼氏でもいいのよお……?」
「伽耶ちゃん?」
「はぁい、ごめんなしぃ~」
「からかってる場合じゃないよ、な」
平さんの前で縮こまった姿もコミカルで可愛いな。
さて一旦、整頓しよう。
そして、まとめて確認していこう。
噂の『サークル』には、女の子を連れていかないと参加出来ない。
羽月さんを誘った内藤は、割としつこい性格だ。
サークルの実態は不明だけど、内容が内容だけに、大っぴらに出来なさそう。
「無駄にプライド高い内藤が、このまま何もしてこないとは思えないんだよな。しばらくは演技してるしかないな。特別にどうこうは、思い付かないけど……」
「うんうん、わたしぃ、フツーにデートしたい!」
「……伽耶ちゃん?」
「うっ…… わりと真面目にそゆコトもしてれば、聞かれたり見られてたりで証明されるなーって思ったんだケド……」
「よろしい、100点」
「わぁあい、ひゃくてん!」
「二人とも楽しんでるなぁ」
伸の言葉通り、彼女にはいつもの笑顔が戻った。
でも僕は少し居心地が悪い思いをしている。
これじゃあ羽月さんと本当のお付き合いは出来ない。
とても残念だけどね……。
一段階親密になった気持ちもあるが、ここで「実は……」なんて告白したら、弱みにつけ込んでる様で嫌だから。
だからこそ僕は、今回の件で彼女を守り切り、本当の告白をいずれしたいと決心した。
「大幡くん、二人のチャット作ろう!」
「ぉお、分かった」
彼女とこの事件を乗りきったら……。
「あっ! 呼び方、下の名前で呼んでもいい?」
「あ、うん、じゃあ僕も……」
「桂馬くん…… ケーマ…… 桂くん!」
「桂くん、か」
「ダメかな? 呼びやすそうなんだケド」
「わかった。僕からは…… えぇ、と。伽耶、さん」
「はっひ、ププッ」
吹き出して顔を赤くする羽月さん。
その背後から、平さんが肩にアゴを乗せて呟く。
「まだ堅苦しい……」
「や、やややや、ぃ~ょぃ~ょ! 好きに呼んで!」
「嫌なら、元のままでいこうか?」
「ちょっとくすぐったかっただけ!」
くすぐったいのか……。
「じゃあ、伽耶ちゃんは?」
「ふぃゃっ、んははっ」
「ええぇ…… 名前呼ばれて笑い出すのは病気なんじゃない?」
真っ当な質問だと思ったのに平さんが。
「違うわ、乙女心なのよ」
と、切り返し宣告した。
わからん。
「な、慣れるまでま、待っぷぷっ」
「大幡君の外見との落差がダメージに」
「ひでえ」
「まあケーマはゴツいもん」
「理不尽だ……」
とにかくコレを乗り越えたら。
もっとちゃんと偏見も弱味もない状態で、気持ちを表せるように。
それがお互いにとっても良いはずだから。
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