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下世話なあの娘が正直初心可愛いくて仕方ないから彼女にしたかったのに嫁になった  作者: 爆微風


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二言は無いよね



 25




 伽耶ちゃんちのお昼は凄かった。

 いや、食べ過ぎた。

 最後は周りのスピードに煽られての大食いになっていた。

 玄関まで見送られて、伽耶ちゃんをふりかえる。


「ご馳走になりました……」


 アジフライやエビフライが少し残っただけで、本当にあの料理の山がなくなったのには驚いた。

 毎度の食卓がああだと、何故伽耶ちゃんやお母さん…… いやお兄さんもか、何故あんなに痩せているのか不思議だ。

 それだけの運動もしている…… にしては、伽耶ちゃんは華奢で、柔らかく…… いや、いかんいかん。

 けしからん。

 またドキドキしてしまうから、思い出すのは、なしだ。


「本当に泊まっても、いいよ?」

「いや…… 色々と危険だから」


 情けない事に、僕が腕力的にも弱いので。

 実は、結構凹んでいる。


 伽耶ちゃん…… 初めてあんな所をみたけれど、強いな。

 そして、平さんもこの道場に通っていると聞いた。

 あの投げ飛ばした、って合気道だったのか。

 これは道場通いも視野に入れるべきかな。


 でも、今日でゴールデンウィークも終わりだから、明日の学校準備はしないとね。


「じゃあ、伽耶ちゃんまた明日、学校でね」

「うん、また明日」

「小テスト頑張ろう」


 去り際の何気ない言葉のはずが。


「あっ……え、そうね……」


 あれっ、この顔…… 冷や汗をかいてるし。


「伽耶ちゃん?」

「ゴメン桂くん」

「……忘れてたんだね?」

「あはっ、あはははっ…… 忘れてたぁ……」


 伽耶ちゃんは申し訳なさそうに頷いた。

 だけど、僕も勉強道具持ってきてないしな。

 何より、また伽耶ちゃんの部屋に入るのはマズイ気がする。


「……頑張れっ」

「桂"く"ん"ん"……」


 とりあえず、応援はするよ。

 連休明けの小テストは、成績に影響こそしないが追試があり得る。

 時間を削られるの嫌そうだったし、何か手伝いになりそうな事はないか。


「そうだなぁ…… 午後の稽古って、平さんは来るの?」

「あっ」


 親友だから、きっと勉強に付き合ってくれるだろう。

 伽耶ちゃんがスマホを使って、電話をかけた。

 うん、援軍が来るのなら、僕は離脱しよう。


「……もしもしっ」

『なあに、どうしたの?』

「今日って、稽古に来る!?」

『あっ、ご免なさい、いま、家族と一緒で……』


 伽耶ちゃんのスマホから、返事の後ろでぶつかり合う音と、ストライク! という声が聞こえた。


「あぁ…… うん…… ダイジョブ…… また明日ね」


 通話を終え、伽耶ちゃんは項垂(うなだ)れ、玄関の床に座り込む。

 ゆっくり僕の服を掴んで、泣きついた。

 うん、分かってた。


「何にもしないから、勉強だけだから……」

「仕方ないなぁ……」

「ありがとうございます桂馬さまぁ」


 この『仕方ない』は、自分に言ったんだけどね。



 ☆



「桂馬くん、これをつかってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 お兄さんが、僕にレポート用紙と筆記具をくれた。


「前日どころか当日に頼むなんてマナーのない妹ですまない」

「いや、普段から話題にしてたら良かったんですよ」

「気遣いまで出来るのかい。将来有望だな。やっぱり家の道場に入門する気はないかい? そのまま入婿も視野に入れてくれると良い」

「ははははは…… 覚えておきます」


 今はお兄さんの部屋に居る。

 正確には事務室か。


 僕からの二人きりが気まずいという訴えに、お母さんがもっとイチャつくべきと拒否を出したのでありがたく帰宅しようとしたのだが、伽耶ちゃんがしがみつき、お兄さんが部屋を貸してくれたのでここで勉強会、いや『小テスト対策』をする事になった。


 緩いかな。


「伽耶ちゃん、範囲は分かる…… よね?」

「あはは、流石にそれは分かるよ」


 ……じゃあ何を探しているのだろう。


「折角、初穂ちゃんが、まとめてくれた……」

「うん」

「……ノートで、確認しながら……」

「うん、うん?」


 あ、ないんだね。

 『詰んだ』かな。

 通学カバンをひっくり返し、面倒になったのだろう、広げて探しだした。


「あったあ」

「良かった……」


 最初に出した教科書の間にあったとかのグダグダはご愛嬌。


「じゃあ、やろうか。最初は英語と数学だったね」

「あ、数2はパスで……」

「パスはないよ」

「じゃあやらないもん」

「じゃあ帰るもん」

「ぴえん」

「真面目にやろう」

「うぅうっ、せめてちゃーじさせて」


 嫌な予感。


「ハグちゃーじぷりーず」

「こら伽耶、はしたない」

「じゃあ兄貴は出てってよ」

「桂馬くんに頼まれて居るんだけど、あとこの部屋は私の事務室」

「さっきもしたもん、ね、もう一回!」

「伽耶が飛び付いたんだろう?」


 すいません、抱き着いたのは僕です。


「桂くんから抱き締められて…… 気持ち良かった……」

   挿絵(By みてみん)

 ばきゅーん☆


 幻聴が、聞こえた。


 ヤバい今のは僕の予想以上に可愛らしい。


 もちろん、僕が好きだと伝えられない現状で、流されたりはしない。

 しないけれど、彼女のことを知れば知るほど、彼女と一緒に過ごせば過ごすほど、僕にとって非の打ち所ない素敵女子だという事に気付かされてしまう。


『やるじゃない』


 誰かが口の端から焼き肉のタレを溢しながら笑った気がする。


「さぁ、はよ」

「何故そこでキスの一つも出来なかったのかね……」

「兄貴うるさい」


 そんな彼女が、僕に向けて照れたり温かい笑顔を向けたり、甘い言葉を囁いたりするのには(ほだ)されるだろ。


 守りがどんどん甘くなってく。


 しかも、彼女の家族は家の母さんとの繋がりもある。

 お互いの家族公認…… 家族ぐるみのお付き合い、になるんだろうな、コレも。


 つまり、意識するしないに関係無く。


 外堀を埋められていたのだ。


「これは…… まずい」


 自分の言葉で、心を重くしてしまったが。

 いや、まだまだ。


 意志を強く持て。

 泣いてた彼女を慰めたのも、家に呼ばれたのも、抱き着かれたのも、たしかに僕だ。

 だが告白は自分からでないと、彼女の可愛らしさに流されてテキトーな関係になってしまう。


 伽耶ちゃんの魅力に負けてしまいそうだけど……。

 僕の覚悟不足が原因だからね、自業自得だが、対策を立てないといけない。


「初めてじゃないんだろお…… じらすなよお……」

「うん、伽耶ちゃん真面目に」

「私、真面目、ハグしたい」


 オッサンみたいにしてた後は、カタコトか。

 楽しそうだけど、時間はないよ。


「何を言ってるんだか…… じゃあ、こうしよう」


 カバンからスマホを出して、タイマー機能を起動する。

 伽耶ちゃんが本気で頑張れば、テスト勉強なんて余裕だと思うんだがなぁ。


「一教科30分で、5分休憩。30分内でちゃんと勉強に集中出来ていたら、休憩時間にハグしてあげてもいいよ。ただし、僕が危険を感知したら帰ります」


 伽耶ちゃんの、顔付きが変わった。

   挿絵(By みてみん)

「桂くん、二言は無いよね……」



 ☆



「桂く~ん♪」


 そら見たことか。


 彼女が理由を付けずに諦めがちな所を、僕を囮にするのは抵抗しかないけれど…… 自然な形で目標があれば、伽耶ちゃんに死角はない。

 方法は考えなくたって知っているんだから。


「さあ、約束よっ」

「わかってるよ、はい」


 諦めと期待と、なんだか大きい罪悪感と。

 うっとりとした伽耶ちゃんを抱き締める時は、流石にお兄さんには席を外してもらえば良かったかもね。





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