どうしてこうなった……
放課後、おしゃべりな女の子が、不意に黙って……
頬を赤く染めて、こっちをじっと見ていたら。
そんなシーンが書きたくて始めました。
どうぞ、よろしくおねがいします。
プロローグ
羽月 伽耶さんは口数が多い。
それは『比較的』以上にスゴイ。
女の子なんだからお喋りだなんて普通…… では済まないレベルだ。
いや、彼女を悪く言うつもりとかではなく事実でね。
教室の中でも、彼女はいつも賑やかだという印象がある。
誰と話すにも、にこやかに楽しげで。
「……そんなわけで、私からの発売は暫く中止だからね~」
「はいはい、わかったよ」
「稲村さんのクッキー、とても美味しかったと伝えてくれ」
「甘利さんにも、すばらしかったと」
「了解~♪ で、告白イベントの予定はいつなの?」
「ははっ、まだだよそんなん」
「予定はあるのよねん♪」
「いや、言わないよ?」
「言わせるよ? うしししぃ」
そして、下世話だ。
男子3人と彼女が賑やかに談笑していると。
「何なの……」
「近付きすぎよ……」
「馴れ馴れしい……」
ボソボソと、後から後から呟きが聞こえる。
隠す気はなさそうだけど、陰口だな……。
男子女子の間の見えない壁をすり抜けて話す羽月さんが、一部の女子から嫌われているのはクラス全体が周知の事実。
今回は、話している男子に好意を持った奥手女子(?)からの悪意ある視線が振り撒かれている。
本人がまったくその空気に動じず、悩んだ素振りも見せないから、尚更に拗れている様だ。
「自分よりもコミュ力が高いモノだから、直接張り合う気にはなれないんでしょ~。オマケに、女子力高くって可愛い!」
「伽耶ちゃん自分で言っちゃうもんね……」
「だって、誰も言ってくれないしぃ」
「ふふっ、可愛くてムテキよ伽耶ちゃん、好きっ」
がしっ、と二人は固く抱き合う。
「「うしししししぃ」」
戻ってきた羽月さんは躊躇いもなく、平 初穂さんと笑い合っていた。
しかし、こっちをロックオン。
「ほおら、桂くん?」
「おっと、何かな」
「恋人らしくぅ、私達も、もっと密着しましょ♪」
桂くんと呼ばれる僕は、大幡 桂馬。
右腕に絡んでくる彼女の柔らかな手のひらに、体が緊張で強張る。
「近い近い密ぅ……(小声)」
「ケーマ、御主、やるやん」
「御主ってな……。悪な代官なら、斬るぞ……」
僕をからかう男子は、笠木 伸、親友であり、このグループのリーダー(ジャンケン弱者)だ。
入学直後、クラスでオリエンテーションの為に5~6人のグループが組まれたんだが、距離をとっていた最後の僕らは余り物としてヒトマトメにされた。
つまり済し崩しのグループだったワケだけど、今では感謝している。
そのグループ分けは継続されて、各委員会活動に振り分けられた。
一番人数が少ない僕らは、清掃美化という月に一回校内美化活動に参加するだけですむ委員になったからね。
それより今の現状だ。
『桂くん』呼びされ、腕を組まれ、隣に並んでいるが、羽月さんと僕はまだ恋人じゃないし、本当は付き合ってもいない。
なのにこんな零距離まで接近していて羨ましい?
そうだろう、そうだろう。
本当にお付き合い出来るんならな。
面倒な状態なんだ。
色々な事情があったんだが。
うん、あそこにいる、内藤が悪い。
アイツがまず、羽月さんに声を掛けたりしなければ……。
『結婚を前提にした』お付き合いを演じる羽目にはならなかったハズなんだ。
あ~、胃が痛あ……。
「桂くん、はいっ」
「あ、ありがとう」
教室には次の授業の小テストが配られていた。
青木先生はこうして予め配って、調べても良い方法で教えてくれる。
休み時間が無くなるという不評と、準備が出来るという好評に分かれてはいるが…… 先生の人徳もあってうちのクラスでは好評だ。
「英語の単語プリントって多くな~い?」
「あぁ、まぁ」
「覚えきる前に次のプリントくるじゃん、毎回」
「そだね」
「センセも大変だけど、私らの方がかわいそう」
「まぁ……」
「使わないと覚えないって青木センセ言ってたし、使うような単語でまとめてくれたらなぁ」
「うん……」
「そうそう、間釣センセがお見合いするんだって♪ ヤバくない?」
「マジか」
「歴史オタクに春は戻って来るのか? 続報が待ちきれないッ」
「……程々にね?」
話す言葉も多いが、この情報網はどうやって構築したのだろう?
情報通な羽月さんの名前は他のクラスまで知れ渡っている。
更に、上の学年にも交友関係を持っているというのは凄いと思う。
「名詞っからいこうか。ん~、responseって何だっけ……」
「ヒント、スポーツとかでも使われます」
「くんずほぐれつ?」
「……プロレスかな?」
「しゃぶしゃぶとかのタレ……」
「ポン酢かぁ、レスが無くなっちゃったよ」
「ぷぷっ、良い反応♪」
「……正解」
「え…… あ、反応! レスって普段言ってるし、バカじゃん私」
「次。factor」
「役者?」
「それはアクター」
「何か作る所…… 工場?」
「……それはファクトリー…… 惜しいっ」
「良いツッコミよ♪」
「いやお笑いを目指してないでしょ」
「じゃあお酒を料理にかけて火をつけるコト?」
「それはフランベ…… 全然違うよ、ボケは求めてないからね」
「うしししししぃ」
……楽しそうだなぁ。
うん、可愛い。
順番がおかしくなってしまったが、僕は元々、彼女のことが気になっていて…… 正直、好きだ。
告白の準備もしてた。
自分の見た目に似合わないとは思いながらも、ラブレターなんか書こうとして断念、を今まで5回した。
「……改めて何を言えば良いのか分からない……」
「ナンか言った?」
「……いや?」
「で、正解はなぁに?」
「要因、要素とか」
「ほーん、なるなるぅ」
「じゃあ、次…… reason」
二人で小テスト対策のこの時間。
甘い、彼女の香りが近い。
ずっとドキドキして落ち着かない。
周りにはゴツくて目付き悪いから落ち着いている様に見えるだろうけどな?
心臓が口から出そうなんだ。
何でだ…… どうしてこうなった……。
「それは理由ね?」
「おっ、正解」
「いえぃっ!」
そう、理由だよ、一体どこから間違ってしまったのか……。
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