アボカド
種がきれいに取れたから植えてみようと言った君がこの部屋を出てから6年になる。コロコロとよく笑う人だった。
些細な喧嘩がきっかけでその関係は終わってしまった。別れも告げず、帰って来るとその姿は見慣れたリビングになく、風が吹くだけで飛ばされてしまいそうだった荷物と共に寂寥をもたらした。
僕のことを今でも怒っているのかも知れない。呆れているかな。連絡することさえ出来ず、だたひたすらに仕事に奔走した。いつか君がまたひょっこりとこの部屋のドアを開け、ソファにうずくまりながらコーヒーをねだるんだ。南向きの窓をいつも眩しそうに昼寝をしていた君を今でも思い出す。
6年の歳月は僕を見た目も立場も大人にした。
高いオーダーメイドのスーツを着て、乗りたいと一緒に雑誌を見ていた高級車にだって今は乗れている。仕事も今では沢山の部下を持つ立場になったよ。きっと僕のことをどこかで見ていてくれたりしないかな。成長したけれど、君に連絡ができない意気地なしの僕は今でも健在だ。
アボカドは木になる事を君は知っていたのかな。
もうそろそろベランダの木がその高さに限界を迎えてしまう。6年君を待った。君を待つこの部屋、君との思い出。今の僕にはまだ手放せそうにも無い。
せめて最後に。君がこの部屋の鍵を渡してくれていたのならば。
僕は明日の君の帰りを、心待ちにしなかったかも知れない。