命をかけた戦い
「グルルルルルッ……」
キラーウルフが、鋭い目で僕を捉えていた。体が震えだし身動きがとれない。
「なっ、なんでここに……」
この山にはいないはずの魔物。猪よりも大きく、凶暴な肉食性。白銀の体毛が大きな特徴で、た、たしか生息地はもっと北だったはず。
いつも町の図書館で読みふけっていた図鑑の知識を必死に思い出す。そうしないと、頭が真っ白になりそうだった。
その間にも、キラーウルフはゆっくりとこちらに向かってくる。真っ赤な眼光が僕を凝視している。まるで鮮血のような色だ。
すごく印象的で、これも確か、図鑑に……。んっ? そんなこと、書いてあったけ?
急にわいた疑問。そのおかげか、キラーウルフをよく観察するために、震えながらも身構える。
「う~ん、おかしい……。図鑑では目なんて赤く塗られてなかったよな」
もしかして、感情が高ぶると目が赤くなる? いや、そんな特徴があるなら図鑑にちゃんと書いてあると思う。それに確か、キラーウルフは感情が高ぶると―。
ブワッ。
「おおっ! そうそう! 白銀の体毛が逆立って臨戦態勢になるんだよなっ! 図鑑に書いてあった通り! ……って、それだめじゃん!?」
思わず立ちあがったしまった。と同時に、こっちに走り出したキラーウルフ。
「わわわっ!? しまった!?」
もう選択は1つ! 逃げるしかない!
大きなリュックを持ち上げそのまま駆け出す! はずが―。
「ちょっ!? リュック重い!?」
バランスが崩れたところに、キラーウルフが大きな口を開け飛びかかってきた。
「うっ!? うわああああああああっー‼‼」
大きな声をあげたと同時に、盛大に布地が破られる音が辺りに響いた。そして宙に舞う本日集めた素材の数々。
咄嗟にリュックを盾にした。そのおかげで、体は無傷。でもっ! せっかく集めた素材が台無しだよ! って、そんなこと考えている場合じゃない! キラーウルフは!?
「ウウウウウウウッッ!? ガウッッッ!? ガフッ! ガフッ!」
激しくむせていた。そして、大きな口から草やらキノコやら、石ころと、辺りに吐き散らしている。まるでゲテモノを食べてしまったみたいだった。
「はははっ……」
集めた物が役にたっている。
から笑いしながらそう思った。
まだ口をもごもごさせて苦しんでいるキラーウルフ。い、今のうちに逃げなきゃ。だって僕は―。
力の無い者だから。
ボロボロになったリュックを手に取り、キラーウルフに背を向け駆け出した。
僕じゃ戦えない。こんな凶暴な魔物と。今出来るのは全力で町まで戻る事。町まで戻れば、誰かが戦ってくれる。守ってくれる。……命をかけて。
急に足が走るのを辞めた。
気づいたら、キラーウルフに向き直っていた。大きな口からは盛大に唾液が出ていて少し苦しそう。でも、戦意は失っていない。真っ赤な眼光でこちらを睨み、何時でも襲ってきそうだった。
足がすくむ。でもなぜか今が好機に思えた。敵は1匹。倒せなくても、追い払うことぐらいできるかもしれない。誰かがやらなきゃこいつは、僕の大好きな町を襲う。誰がやる?
「グルルルルルウッ……!」
「ぼ、僕だ。僕が、やるんだッ……!」
拳を握りしめた。無能の自分でも、戦える事を証明するための決意。
「グワアアアアアアアアアッー‼‼」
大きな方向とともに、僕へ猪突猛進のキラーウルフ。
これが僕にとって初めての、命をかけた戦いだった。