O.N.I. - Optical Nation Insanity
空がどんなに澄んでいても・・・
星がどんなに瞬いても・・・
風がどれだけ心地よく撫でても・・・
人がどれだけ呼びかけても
おまえは殺し続けるんだな
わかった
おまえは覚悟しておけ
"最悪の覚悟"をな・・・
幹人の趣味はとにかくゲーム全般。自室の中は所狭しにゲームのハードウェアやPC、小型のゲーム機や通信できない旧型のスマートフォンをゲーム専用にしてまで、三昧の限りを尽くしていた。
以前は普通に仕事していたものの、無能な上司のいびりを受け続けた上に、人員削減によるリストラを食らってしまい、社会に対して絶望していた。そんな中、動画投稿サイトでアテレコ風の実況動画をあげたところ、内容がウケたのか再生回数がうなぎ登り、現在では動画から得る広告収入のみで全く生活に困らなくなくなっていた。もちろん勤労意欲はとうの昔に失せ、いかに視聴数を増やして稼ぐかの毎日を送っている。
そして唯一外出するとすれば、広告収入の受取に銀行へ行って口座出金するのと、ゲームショップへ足を運び様々なソフトを集めていた。もちろん動画の題材の為である。
最近では、ひと昔前に流行したハードウェアの名作から駄作まで幅広く取り扱うようになっており、幹人もこれに遅れをとられないように、そういった題材をハードウェアごと集めていた。もちろんゲームショップだけでは買えないものもあるので、リサイクルショップにまで足を運んでいた。
ある日立ち寄った、個人営業のような佇まいのリサイクルショップにて、ゲーム関係がまとまった売り場を物色していた。この日余りにも大量に買ってしまった為、わざわざレンタカーまで繰り出して、店の前で路上駐車している為、違反切符を切られないかドギマギしながらの物色であった。しかし、ソフトが大量に入ったコンテナの奥に手を忍ばせると何かが手に触れ、幹人の動きが突然止まる。
ソフトの山から掻き出して取り出したソフトは、黒のラベルに白字でロゴが描かれたソフトが出てきた。
対応機種は軽く20年程前のもの、ドット絵がかなり鮮やかになりだした時期の時のものであろうか、時の刻みを物語る手垢のような汚れがびっしりとついていた。値段のラベルを見ると、スタンプシールが直接貼られていて、100円の表記があり、何を感じ取ったのか幹人は物色をやめて、そのソフトだけを持って会計を済ませ、すぐに店を出た。
帰宅した幹人は、大量買いしたゲームの山を置いてすぐ、その100円のソフトを起動できるか確認を始める。専用のハードウェアに差し込んで起動すると、ゲーム会社のタイトルロゴが表示された。どうやら正常に起動するようである。
ソフトのラベルが経年劣化ですり減っていたのでタイトルが読めず、やっと起動して確認することができた。
O N I
おに・・・?
幹人は呆気に取られた。
ラベルの配色といい、すり減っていたとは言え残っていた文字のカケラを見てかなりシンプルなタイトルは何となく想像していたが、余りにもシンプル過ぎた事により、少し肩透かしを食らった気分になった。
もしかしたら"クソゲー"の分類かもしれない。そう思い幹人はスマートフォンで検索を始めた。
「O、N、I・・・、ん、やっぱりレスが少ないな・・・」
大手まとめサイトや動画サイトでも見たものの、どうやら眉唾物のような話が見受けられる。
売り場に並んでるの見たことあったけど、どうもクソゲー感がw
ホントそれな、でもホントに見ないんだよねそのソフト
ONIて何の略だよkwsk
※このコメントは削除されました。
深層Webからきたブツ?
このゲームの時代にそもそも深層Webの概念なかったダロw
やはり大した情報はない、あるとすれば中古ショップにしか置かれていない、当然と言えば当然の情報ではあるが、そもそも販売会社も制作会社も情報がそもそもない。いったい誰が作ったものなのか。
ゲーム会社の名前とソフト名を合わせて検索してもそれらしいものは出てこない。
それに、わざわざアルファベットにしてるから、これは"おに"と読むのではなく、本当に何かの略語なのだろうか。幹人は各サイトの書き込みの内容に目を配ると、必ずと言って良い程の共通点を見つけだした。
略語を教えて欲しいという質問な対して返答したコメントが、どのサイトでも必ず削除されているのである。返信の時間帯を見ても、どのタイミングも関係なく無条件で削除されているようだ。
幹人の体に何やらザワっとしたものが走り、とあるサイトの名前を検索バーに勢いよく打ち込んだ。
どうやら過去に掲載され現在では閉鎖されているHPなどの古い情報をサルベージするサイトのようだ。そのコメントが入力された日付を指定して過去の履歴を見つけだした。しかし、それでもピンとくるものではなかった。
Optical Nation Insanity
意味はそれぞれ、どうしても繋がりにくい。光学的?国家?心身喪失?包んでいるオーラみたいなものはたしかに怪しげではある。
しかし幹人はどうにも気になって仕方がなかった。
しかも、その削除された数あるコメントの中で、一つだけ、アドレスが貼り付けられたコメントがあった。このご時世の、数字だらけのアドレスではなく、個人で作るようなシンプルなアドレス。やはり文字列にもoniと入っており、幹人は躊躇わずそのアドレスをクリックした。
そのページが開かれたが、何も表示されていない。ただただ真っ白。ひとつも文字がない。
バクかと思った幹人は、更新ボタンをひたすらクリックするが何も変わらない。閉鎖されてアーカイブすらも残ってないと判断し、閉じるボタンをクリックする直前に、PCのスピーカーから突然、呻くような叫び声が流れ出した。耳を不快にさせるには充分な甲高い呻き声。その声と共にページに変化が現れた。
余りにも不快な音声に幹人はページの変化に目もくれずスピーカーの音量を下げようとしたが、音量をゼロにしても呻き声はおさまらない。
パニックになり始めた幹人は、そこでやっとページの変化に気づいた。
先程まで何もない真っ白なページは、そのソフトと同じモノトーン調の色で、黒と白で構成されていて、そこの真ん中に拡大で、顔の形が崩れた性別の区別がつかない生気のない人間の顔が映し出され、断末魔の叫びのように開かれた真っ黒な口に、禍々しいフォントでO.N.I.と書かれていた。
幹人は画面を確認したものの、音声が余りにも不快で、強引にPCの電源ケーブルを引っこ抜いた。
アクセスした事に後悔した幹人は、そのソフトを捨てようと思い、ゴミ箱に入れようとしたところ、スマートフォンの通知が鳴動した。
ゴミ箱に捨てずとりあえず足元にソフトを置いた幹人は先にスマートフォンを確認した。
すぐにきどうしろ
わたしたちはみている
幹人は青ざめた。見られている?
これにはさすがに参ってしまい、ゲーム実況仲間の友人にすかさず電話をかけた。
「おおー、ビクシーくん、元気?」
電話に出た快活な男の声を聞いて、幹人は心底安堵した。声の主である"メガリア"は、うるさい程底抜けに明るく、普段は幹人もうんざりはしているが、この状況下ではとても頼もしく感じた。
「突然かけてごめん、聞きたいことあって」
幹人は"ONI"について一から説明し、どうすればいいか聞こうと、"ONI"の言葉を発した途端、通話が途切れた。
「え、なんで切るんだよ」
幹人は少し苛立ち、もう一度かけようと通話ボタンを呼び出そうとするが、画面が全く反応しない。それどころか、勝手に通話画面が立ち上がり、ゼロとイチが羅列した、明らかに十桁以上の番号に発信され、通話が開始された。
おそるおそる幹人はスマーフォンを左耳にあて、声の主が誰なのか確認した。
『すぐにきどうしろ、ひとりできどうしろ』
幹人はたまらず叫びながらスマーフォンをベッドに放り投げた。異様に野太く、生気のない機械じみた声だった。幹人は年も憚らず涙目になっていた。
「ちくしょう、しなきゃならないのかよ・・・」
幹人は諦めがつき、PCを再起動し、ONIのサイトを再度開いた。
今回はあの不快な大音量の音声は鳴らなかったが、相変わらず生気のない性別不明の人間の顔がこちらをじっと見ている。ソフトを読み込んだ地点で、もう全てが監視されている。そう悟った幹人は画面を睨みつけて向き合った。
よく画面を確認してみると、生気のない顔の口のONIのロゴに、マウスポインタを重ねると、リンクが開けるようになっていた。おそらくこれがサイトへの入り口だろう。
意を決し、幹人は"入り口"を開いた。
次に表示されたのは、デザインが陰鬱な色合いである事を除いては、至って普通のホームページの構成だった。
ウィンドウの中央部にリンクが並び、それぞれに英語でバイオグラフィーとアクセス、スタートの三つだけが表示されている。
兎にも角にも真っ黒、アクセントに白が入っているのは、どうにも黒魔術か悪魔教のようなイメージがついてまわる。これだけでも陰鬱な気分になるのに、左側のバイオグラフィーを開くと、もっと陰鬱な気分にさせられた。ドクロのイラストが幽霊のように描かれた背景画像に、暗い赤文字で説明文が載せられていた。
「いよいよヤバいじゃないかよ・・・」
ぼやく幹人は、英語で書かれた文章を右クリックの翻訳機能で日本語に変換した。
このゲームをお買い求め頂き誠にありがとうございます。
ゲーム起動時に、ちょっとしたギミックを仕込ませていただきました。
1999年現在に置きましてはとても斬新な"演出"であると我々開発陣も自負しております。このゲームのコンセプトは、"現実世界と仮想世界の融合"であります。
そして、唯一無二の存在に昇華させるべく、開発陣一同は当ソフトの開発に全身全霊を込めました・・・
このソフトに対しての意気込みが語られているが、それにしてもこの自信の持ちようは普通ではない。方向が少し違うマッドサイエンティストのような念が込められているようである。
まだあいさつ文に続きがあったが、これ以上はとても読む気になれず、幹人はページを戻し、隣のアクセスを開いた。
バイオグラフィーとは打って変わり、アクセスは異様にシンプルなページだった。黒の背景に白文字で、重要箇所らしき文面は赤文字で記されていた。
その文章も相変わらずの英語なので、幹人は変換クリックを押したが、文章を読み始めて、更にとてつもない後悔の念が押し寄せた。
・プレイにあたり、TV、ゲーム機以外の家電製品は一切電源を入れないでください。
・プレイヤーの方に危害が及ばぬよう、通信手段は一切切断して下さい。
・プレイ時、一切外部との接触を避けて下さい。
・各ステージクリア毎にしかセーブ出来ません。
・セーブした時のみに限り、ゲームを中断することができます。
・ただし、中断してから24時間以内に必ず再開させてください。
・セーブせずにゲームを終わらせますとプレイヤーの安全の保障が出来かねます。
・ゲームスタートまでのタイムリミットは1時間となります。
かなりのゲーム好きだった幹人にとって、これ程後悔するゲームは人生初めてであろう。
背中がうなだれる程ため息をついた幹人は、ゲームの指示書き通り準備を開始した。
「冷蔵庫まで切らなきゃいけないのかよ・・・」
冷凍庫から氷と一緒に文句を吐き捨て、全ての家電製品の電源を切っていく。
そして後はリビングのライトだけとなった時、幹人は画面に目をやり、残り時間が30分を切ったことに気づいた。
「・・・やってやろうじゃねえか」




