ギルドマスターは襲われているようです
「あそこに人が倒れてないか?」
クエストを終えてギルドに帰る途中、俺達はボロ雑巾のようになっている男性が道端に倒れているのを見つけた。俺達は男性の元へと向かう。その時、森の中から3体の狼が倒れていた男性を連れて行った。
「……連れてかれた」
「だな」
「ですね」
「いやいや、連れてかれたじゃないよ。すぐ追いかけるぞ」
そう言って狼達の後を追う、しばらくすると狼達が集まっている場所へと辿り着く。ここが狼たちの縄張りなのだろう。奥の方にボスらしき狼が居座っており、狼達はその狼のもとに先ほどの男性を渡していた。その光景を俺達は茂みの奥から覗いていた。
「そんで追いついたのは良いが、どうやって助ければいいと思う?」
「ノープランなんですか!」
「だってどうしろっていうんだよこの状況。どう見たって頭数はあっちの方が多いし、それにどう見たってそこら辺のモンスターより強いぞ多分」
正直言ってあれならあの人ごと、フィルに焼き払ってもらった方が早い。
「だったらどうやって助けるんですか」
「まあまあ、落ち着けって殴りゃ倒せんだからさ問題ねえって」
「ルーク(ルークさん)少し黙ってろ(下さい)」
俺達は、あの男性をどう助けるのかを話し合っていた。すると先ほどまで無言だったフィルが口を開きつぶやいた。
「…ヘルファイア」
すると狼達のいる範囲が燃え出した。
「…狼がいる範囲だけ囲った。今ならあの人を助けられる、だから…ルーク行ってこい」
「よしきた。ついでに狼達狩って来るからおれが出てくるまでそれ張っといてくれよ、フィー」
「…了解」
そういってルークは、炎の中に突っ込んでいった。すると狼達の遠吠えや悲鳴が聞こえてきた。しばらくすると、狼達の鳴き声が止みルークが男性を抱え戻って来た。
「全部倒したからもういいぞ」
「…わかった」
フィーが魔法を解除する。すると辺りには魔石や毛皮などが落ちていた。
「よく生きてたなお前」
「だってそこまで強く無かったからな。実際、モンスターや動物は火を見たことないからパニックになって狩りやすいんだよ」
「そんなこと知ってんのか。てっきり俺はただモンスター狩りたいから一人で行ったもんだと思ってたよ」
「体動かしたかったから行ったに決まってんだろ。あとフィーに頼まれたからな」
まあそんな事だろうと思ったよ。
「…頭撫でないでよ、恥ずかしい」
ルークはフィルの頭を撫でる。やはりフィルは、恥ずかしそうにしていながらも、内心どこか嬉しそうだった。
「ところでこの人どうしますか?」
そういってシャルロッテは地面に倒れてる男性を指差した。
「気絶してんだろ。だったらエリクサーでもぶっ掛けてやれ」
「エリクサーを何だと思ってんですか!」
「回復薬だろ。だったら飲ませなくても掛けときゃ効くかと思ってつい」
「まあそうですけど、勿体ないです」
確かこいつエリクサーしか出来たことないって言ってたよな。
「シャル、お前あと何本エリクサー残ってんだ?」
「…810本ほどあります」
「お前そんなに有るくせしてケチってんのかよ!」
「仕方ないじゃないですか!こんな知らない人に貴重なエリクサーなんか使いたくないですよ!」
貴重なの?そんなにあるのに貴重なんですかね、それ。
「お前貴重の意味調べてから言えよ」
そんなことを言い争ていると、ルーク達が俺達に言った。
「そんなことより二人とも」
「…あの人、起きた」
「「えっ」」
ボロボロの男性が、震えながら起き上がった。
「うぅっ、ここはどこ?」
「気が付きましたか」
「君は?」
男の人は、俺の方を見て言った。
「俺はカイトです。こっちにいるのは、右からルーク、フィル、シャルロッテです」
「そっか、僕はラック。迷惑かけてしまってすまないね」
「いえ問題ないですよ。狼に襲われてたのを見かけたので助けに行ったまでです」
(そういえばラックって名前どっかで聞いたことあるような)
「あの、良ければこれどうぞ」
そう言ってシャルロッテは、貴重だとあれ程言っていたエリクサーをラックさんに渡した。
「あ、ありがとうございます。それではいただきます」
そういってラックさんはエリクサーを一気に飲み干した。するとさっきまでボロボロだった体が、見る見るうちに傷が癒えていき目に見える傷が無くなっていった。
「これは、エリクサーじゃないか!こんな貴重な物使っても良かったのかい?」
「使えるものは使いますから。ただエリクサーをあなたにぶっ掛けようとしていた人もいましたけどね」
そういってこちらを睨む。
「だって、傷口に掛けた方が直ぐに効くと思ったんです」
「いや良かったよ、傷口にかけられなくて」
「それってどういう意味ですか」
俺はラックさんの言った意味が分からなかったので聞いた。
「実はエリクサーはね、直接傷口にかけるととてつもない激痛が走るんだよ」
「そ、そうだったんですか」
俺は、意外にも恐ろしい事をしようとしていたらしい。それなら気つけにも使えるのではと思ったが、流石に言わないで置いた。
「そうですよ、ほんとあれは体が焼けるように痛いんですよ」
「実体験かよ。それならそう言って欲しかったんですが」
「いや、貴重な物ですからね。使いたくなかったんですよ」
ならエリクサーじゃなくて普通の回復薬しろよと思ってしまった。
「もう突っ込まないぞ俺は」
「そういえば、君たちにはお礼をしなくてはいけないね。良ければ僕についてきてくれ」
「付いて行くと言ってもどこに行くんですか?」
俺はラックさんに聞く。
「ギルドだよ。こう見えても僕はギルドマスターやってるから」
そこで俺はやっと思い出した。この人があの疫病神と言われているギルドマスターのラックさんだと。
「ラックさんがあそこのギルドマスターだったんですね。実は私達もクエストを終えたのでギルドに向かうところだったんですよ」
「そうでしたか。それならば話が早い、早くギルドへと向かいましょう」
そういって俺達は、ラックさんと共に、ギルドへと向かった。
俺は、今日死ぬんじゃないかと不安だが、言わないで心に留めて置いた。だって言ったら多分死ぬと思うから。