しあわせは腕の中
彼の太く大きな腕は、ついに最期まで私を抱いてはくれなかった。
その腕は今、私の細すぎる不健康な白い首に向かって伸びている。
喉に強い力が加わり、息をすることもできず苦しいはずなのに、初めて見る彼の必死そうな顔が可愛らしくて、つい笑みがこぼれてしまう。
雨が強くなっていく、彼の身体は先程から小刻みに震えていた。
彼はきっと寒いのだろうと私は勝手に結論づけた。
私は彼を感じてこんなにも熱いのに…。
脱力しきったまま、彼の行為を受け入れる。
抵抗なんてしない。
初めて彼が私にしてくれたことなのだから。
彼の腕の力がまた少し強くなる。
ボキリという鈍く大きな低音が鳴り響き、私の視界は大きく傾いた。
死、彼が初めてくれたもの。
あゝ、なんて幸せなのだろう。