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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

王女の護衛は最強魔法師でも大変!

作者: 海ノ10



「ただいま参りました。一等級魔法師シュン・クロシマです。」

「そんなにかしこまらんでもいい。今日貴殿を呼んだのは、娘の護衛を頼むためだ。」

「ご、護衛ですか?」


国王には三人の娘と四人の王子がいる。彼らには一人を除いて優秀な護衛が付いているはずだ。

そう、一人を除いては。


「儂が護衛を頼みたいのは、三女のモミジだ。」


やっぱりそう来たかと思い、シュンは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「そんな顔になるのはまだ早いぞ。貴殿には、護衛だけでなく様々な面でサポートしてほしい。」

「それはどういう………」

「例えば、勉学や魔法の師。他には友人としてだな。って、見るからに嫌そうな顔をするな。」

「失礼ですが、モミジ様は少々……いえ、あえて言わせていただきます。かなり破天荒で変わっていらっしゃるとか。護衛や従者をつけてもつけても城から抜け出し、城下町やダンジョンへと行くとか。正直、私などではその役ができるとは思いません。」


全力でこの面倒ごとから逃げるために、シュンは言葉を重ねる。

だが、国王はそれを笑い飛ばす。


「何を言うか。貴殿は我が国……いや、世界レベルで見ても最高の魔法師。むしろお主以上の適任者はおるまい。」


そんな優秀な人材をそんなところで使ってもいいの?と問いかけたくなったが、シュンはその言葉を呑み込む。

この王は大丈夫だと分かったうえでこんな無茶ぶりをしているのだ。

しかもシュンは国王直属の配下。拒否という選択肢は初めから無いのだ。


「では、私はモミジ様の脱そ……いえ、外出を抑えればよろしいのですか?」

「いや、その必要はない。経験するのはいいことだ。だが、どんな危険があるかわからぬからな。危険から身を守ってくれればよい。あと、モミジに言われたことには従わなくていい。それと、モミジには敬語で接するな。良いか?これは『命令』だ。」

「はい?いいんですか?」

「ああ、問題ない。いや、むしろ、貴殿には友人としていてもらいたいのだ。モミジは友人と呼べるものがおらんからな。心配する親心だ。」

「はぁ………」


シュンは内心混乱しかけていたが、とりあえずは「気負わずに接するか。」と、切り替える。


「では、この任務受けてくれるな?」

「………………はぁ……わかりました。」


国王の前であることも気にせずに深い溜息を吐くと、シュンは降参したかのように頭を下げる。

そして、シュンは考えていた。


(大丈夫かな?この任務。)


と。



























「では、こちらがモミジ様のお部屋になります。」

「ありがとう。」


使用人に案内されてシュンは大きな扉の前に立つ。

「はぁ……」っと大きなため息を吐くと、少し強めにドアをノックする。

しかし、返事も物音もしない。

もう一度、魔力で手をガードしながら、今度はさらに強く叩く。

やはり、返事はない。


「…………居るのかなぁ?」


そんなつぶやきを漏らしてみても返事がないのは変わらない。

仕方なくシュンは魔眼を発動して、魔力を見る。

これによって中に魔力の反応があるかを見るが………


「ない。」


部屋には魔力の残留があるだけで、人の気配はない。

そうと分かれば部屋に入るのに躊躇はない。

扉には内側から鍵がかかっていたので転移魔法で中に直接入る。


中にはやはり人はおらず、机の上にペンと紙が置いてあるだけだった。

なにか書いてあったので、シュンはとりあえず読む。


『遊びに行くね!』


思わず灰も残らないほどの高温でその紙を燃やす。


「はぁ………めんどくさい。」


そう言いながらシュンは部屋に残っている魔力の性質を記憶する。

人によって魔力の質や属性の偏りなどは違う。

同じ魔力を持つ者はいないとまで言われるので、今記憶した魔力と同じ魔力を持つ者がモミジである可能性は限りなく百パーセントに近い。この魔力がモミジのものであればの話だが。


まあ、部屋の窓に魔力の跡が伸びていって、窓から外に出たあたりから急に魔力の跡が強まっていることから、窓から飛び出した後、風魔法などで勢いを殺しながら着地したと推測できるので、本人である可能性が非常に高いのだが。


シュンは窓から魔眼で魔力の跡を辿っていく。

真っすぐに街の外へと向かっていく魔力は、城下町の外壁を飛び越えた形跡があった。

とりあえずシュンは外壁まで転移すると、街の外に繋がっている魔力の跡をさらに追う。

その方向は、中級者向けのダンジョンリベルンのある方向。


(ダンジョンとか面倒くさいなぁ……)


シュンはため息をつきながらダンジョンの入口へと転移する。


やはりというべきか、魔力は確かにダンジョンの中へと入っていってるが、魔物の魔力が多すぎて見分けられない。

シュンはあきらめて魔眼の『魔力視』の機能を切る。


シュンは特に武器も持たずにダンジョンの中に足を踏み入れる。


周りに光の球を出現させながら少し足早に歩いていると、通路の陰から二体の熊に近い見た目の魔物が飛び出てくる。

普通の冒険者ならば、一歩下がって回避するのだろうが、シュンは絶対零度の氷の棺に閉じ込めることで動きを封じることで対処する。

そのまま氷の棺ごと砕くと、魔物は粉々になり息絶える。


しかし、シュンはそんな魔物だったものには目もくれずにシュンは急ぎ足で奥へと進む。

またしばらく歩くと、シュンの耳が荒い息遣いの音をとらえた。

慌ててそちらに走ると、二人の男の冒険者が血みどろの状態でシュンのほうにに走ってきていた。


「た、助けてくれ!」

「どうしたんですか?」


慌てた様子の男たちに、シュンは回復魔法をかけながら問いかける。


「ジャイアントアントの群れに襲われて、それで今十六歳くらいの子供が俺たちの囮になって食い止めてくれてるんだ!」

「頼む!助けてくれ!」


こんな状況でも冷静に対応できるのは流石冒険者というべきなのかもしれないが、今はそれどころではない。


「情報感謝します。これを持って行ってください。」


シュンは亜空間から二本の回復薬を取り出して、ほぼ回復した男たちに渡すと、身体強化をフルに使いながらダンジョンの奥に駆ける。


ジャイアントアント。

確か一体の強さは初級者でも張り合えるぐらいだが、集団になると上級者でさえ死ぬ恐れがあるほどの強さを誇る。

つまり、普通中級ダンジョンに出現するモンスターではない。


すると、少し前から爆発音が聞こえてくる。


慌てて通路を曲がると、そこは少し開けた広場になっており、その広場と通路の境のあたりでシュンと同じくらいの年の少女が戦っていた。

少女は黄緑色のショートカットで、顔は中性的。一見男子にも見えなくもないが、可愛らしい髪留めと、女物の服から少女とわかる。

既に体はかすり傷だらけで、剣にはひびが入っている。


シュンは彼女がモミジだと魔力の色で確信し、加勢………いや、救助をすることにした。

まずはモミジを転移魔法でこちらに引き寄せる。


「きゃ!!」


急に場所が変わったのでバランスを崩して転びかけるが、それをシュンは難なく支える。

そして、回復魔法で治療。

それと同時進行で広場と通路の境目を塞ぐように結界を設置し、蟻の侵入を防ぐ。


「大丈夫?」

「うん。何とか……ところで貴方は?」

「後でね。まずはあれを全滅させないといけないから。」


見たところ三百は下らないだろう。

体長一メートルほどの大きさの蟻がそんなに集まっているのだから脅威だ。

しかもその皮膚は鉄のように固い。


「じゃ、ちゃんと見ててね(・・・・・・・・)。」

「え?」


大体の怪我は治ったモミジをシュンは地面に下ろすと、前に出て結界を解く。


瞬間、蟻がすごい勢いでシュンのほうに来るが、モミジの剣をいつの間にか持っていたシュンは、剣に綺麗に魔力を纏わせて、一閃。

炎の属性を付与されたそれは、切断面を炭化させながら蟻をバターのように切り裂く。


また一閃。

今度は断面が絶対零度の斬撃により凍り付く。


また一閃。

風の属性が宿されたそれは、前の二つの属性よりも速く振りぬかれ、蟻を切り裂く。


また一閃。

地の効果により、今までとは桁が違う重さの斬撃により、勢いで壁に剣が刺さるどころか、壁ごと蟻を切り裂く。


そこまで見せると、今度は剣を鞘に戻す。

魔力の奔流が起こり、シュンの足元に巨大な魔法陣が形成される。


「〈疾風迅雷〉」


わざと魔法名を言い、シュンは蟻の群れに荒ぶる風の刃と圧倒的な雷の嵐をぶつける。

蟻は何の抵抗もできずに散っていく。

そのまま殲滅してもよかったのだが、あえて別の魔法を使おうと半分ほど削ったところで魔法を止める。

シュンは、普通は使えない筈の、空間に充満している魔力を集め、別の魔法を構築する。


「〈炎界〉〈氷界〉」


どちらかを放つだけでも一般的な魔法使い三人分の魔力と長い詠唱時間を必要とする魔法を、同時に詠唱を破棄して発動させるのは、並大抵の技術ではない。


左側は燃え盛る業火の世界。右側は静かなる氷の世界。

二つの魔法は互いに拮抗しあい、中心でせめぎあう。

もはや蟻などはただのおまけにもならないほどの威力。


「ま、こんなもんでしょ。」


この世のものとは思えない空間を作り上げた張本人は疲れた様子もなく平然としていた。

蟻の殲滅……もとい蹂躙を終えたシュンは、茫然とした様子でそれを見ていたモミジを見る。

視線に気が付いたモミジは慌てて立ち上がる……が、まだ完全に回復していないせいか、はたまた衝撃的な光景を見たせいかは分からないが、力が抜けて結局はその場に座り込んだ。


「あ、起き上がらなくていいよ。」

「じゃあこのまま失礼するよ。ボクを助けてくれてありがとう。本当に危ないところだったよ。」


そう言うとモミジはニッと笑う。

それを見ていたシュンは、(え?ボクっ娘っているんだ!)とか考えていたのだが、モミジが知るわけもない。


「本当に危ないところだったね。モミジさん。」

「え?ボク名乗った?」

「名乗ってはないけど、護衛対象くらいは分かるよ。」

「へ?」


モミジはシュンの言葉にキョトンとする。

が、次第に驚愕の表情へと変わっていく。


「えぇぇぇぇぇえええええ!!確かにお父様、『凄腕の護衛兼教師兼友人候補を用意する』って言ってたけど、言ってたけど!」

「そんなこと言ってたんだ………あ、まだ僕名乗ってなかったね。僕はシュン・クロシマ。以後よろしく。」

「え?いま、シュンって言った?」


ピシリと効果音が付きそうな感じで、モミジが固まる。

そうした後、「はぁ」と深――くため息をつく。


「お父様………なんで最高戦力をボクなんかに?迷惑かけるに決まってるじゃん………」

(自覚あるんだ。)


シュンは心で突っ込みを入れると、鞘に納めた剣の存在を思い出す。

レンタル料代わりに魔法でひびを直し、ガクッという擬音が似合う感じになっているモミジに渡す。


「ああ、ありがとう。ということはキミがボクの護衛ってことでいいのかな?」

「そうだね。」

「じゃあ一個聞くけど、何でため口なの?」

「国王様から、『モミジには敬語で接するな』との命令がありまして。」

「………まあいいけどね。その方がボクも気が楽だし。よろしくね、シュン!」


少し顔を赤らめながら、モミジはシュンに微笑んだ。


「じゃ、帰ろうか。」


シュンはそう言うと、モミジに手を差し伸べる。

モミジはそれを掴んで立ち上がろうとするが、疲れのせいか足に力が入らず立てない。


「ありゃ。駄目そう。」

「うーん。じゃ、失礼。」


シュンはそう言うと、ふわりとモミジを横抱きにする。


「え///……えええ!!ちょ/// えええ!!!」

「ちょ!暴れないで!落とす、落とすから!!」


シュンは慌てながらも、落とさない。

一方、モミジはやはりいくらやんちゃでも年頃の女の子。お姫様抱っこは恥ずかしい。


「お、降ろして!」

「え?歩けるの?」

「……む、無理。」

「じゃあ我慢して。」

(僕そんな嫌かなぁ?)


シュンは自覚が無い様だが、シュンは相当な美少年であるうえに、モミジからすれば危機から救ってくれたヒーロー。

まさに、女の子なら一度は憧れるシチュエーション。恥ずかしくない訳がない。


「っと。」


飛び出してきた大きな蜘蛛の魔物を目線だけで氷の棺に閉じ込めて砕く。

これを使うのは、単純に汚れが付きにくいからというのと、確実に仕留められるという理由だからだ。

素材は全く使い物にならなくなるが、そもそも売る気が無いので問題はない。


「すごい……」

「練習すればできるようになるよ。簡単だし。」


いや、簡単なわけがない。

全ての生物には魔力強度がある。これは魔法耐性と言い換えてもいいだろう。

魔力強度の高いものは、それだけ魔法の影響を受けにくく、魔法の威力が上がる。

ちなみに、シュンの魔力強度の場合、モミジや中級程度の魔物の魔法は、魔力強度が高まる半径一メートルほどで分解される。

この魔力強度が一気に上がる範囲を、魔力圏という。逆に、発動した魔法は体内の魔法強度に比べて魔法強度が低い。

なので、他者の魔力圏で魔法を発動させることは隔絶した魔力強度の差がなければ不可能である。

つまり、相手の体内を直接凍らせることのできるこの魔法は、相手との隔絶した魔力強度の差がないと発動すらしないのだ。

しかし、複雑な魔法構成とそれを詠唱する時間があれば、相手の魔力圏でも魔法が使えないわけではないが……


「簡単なわけがない!だって、魔法構成自体は、『相手を周囲も含めて凍らせる』と、『氷を粉々に砕く』だけでしょ!?単純な魔力強度だけで相手を凍らしてるじゃないか!」

「え?よくそこまで分かったね?魔眼持ってるの?」

「うん。持ってるけど………ってそこじゃなくて!!」

「簡単だよ。ただ魔力強度を上げる訓練をすればいいんだもん。」

「え!そんなのあるの!?」


シュンがさらりと言った、魔力強度を上げるというのはあまり一般的ではない。

それは、優秀な魔法師が近くにいないと、未熟なうちは魔力が暴走する可能性があるからだ。


「うん。ほら、僕武器に属性魔法を纏わせて相手を斬ったでしょ?あれを体に纏わせるようにすればいいんだよ。こんな感じで。」


そう言うとシュンは自分の体とモミジの体に魔力を纏わせる。


「なんか……暖かい。」

「弱めの火の属性にしてるからね。」

「うん。でも、それだけじゃない気がする。」


そう言いながら、恥ずかしがっていたのが嘘のようにシュンの服をギュッと掴む。


「ボク、眠くなってきちゃったよ………」

「まあ、あんな状況にいたらそりゃそうだよね。寝ていいよ。運んでおくから。」

「うん。おやす……み。」


そう言うと、すうすうと寝息を立てる。


「はぁ………初日からこれかぁ………これなら上級ダンジョンの単独撃破のほうが楽だなぁ………」


そうこぼしながら、モミジの寝顔を見る。

その顔は見てるこっちにまで幸せが訪れそうなくらいとても幸せそうだった。


「こうしてみるとかわいいな。もう少しお淑やかにすればいいのに。もったいない。って、僕は護衛なのに何を考えて………」





こうして、最強の魔法師の色々な意味での苦労の毎日は始まった。


最後までお読みいただきありがとうございます!


最初は連載にしようかなーと思って書いていましたが、自分文章力的にファンタジーの連載は無理そうだったので、短編にして出してみました。いかがでしたか?

魔力とかの説明がわかりにくいかもしれませんが、気合で読み取っていただければありがたいです。


誤字脱字などがありましたら、教えていただければ幸いです。


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