夏の日 good end
眩しい日差しが顔に当たる。
その瞬間、視界が暗くなり周りの認識がおぼつかなくなる。
僕は、それが嫌いだ。
だって、その瞬間に何が起こるかわからなくなるから。
身の危険があっても可笑しくないから。
ある日のことを思い出す。
夏の日、僕は駄菓子屋の外にあるベンチでかき氷を食べいた。
甘いシロップに冷たい氷は、夏の暑さを消し去ってくれるようだった。
今はアイスが好きだけど。
食べている時、隣に女の子が来て、隣に座ってもいいか聞いてきた。
僕は、いいよと言った。
女の子もかき氷を買っていたようで一緒に食べている形になった。
それで、女の子から話をしてきて僕はそれを答えるだけだった。
その日はそれだけで、また会ったら一緒に食べようって約束をした。
この時の僕は何も思わなかった。
幾日かになってまた女の子はやってきた。
この時の僕はかき氷ではなくアイスキャンディを舐めていた。
女の子は相変わらずのかき氷。
女の子は、僕のアイスの感想を聞いてきて、僕は美味しいよと答えた。
そしたら、女の子は興味を持ったようで、今度食べてみようかなと言った。
そして、また与太話。
内心、それが楽しかった。
僕は、また話したいなと思った。
その気持ちが顔に現れたようで、女の子はにこやかになっていた。
僕は下を向いた。
また幾日か経った日、女の子はやってきた。
今度はアイスキャンディを買って来た。
そして、女の子は笑って話しかけてきた。
だから、僕も笑って話した。
その日はいつもより楽しかった。
楽しくて仕方がなかった。
この時からだろうか、少しずつだったが密かに気になり始めたのは。
僕は、女の子を見るたびに心臓の鼓動が早くなっていった。
鼓動が早くなったのが見透かされたのか、女の子は僕の手を握った。
そして、笑いながら言った。
「君の手、暖かいね」
僕は言葉が出なかったから、頭で返事をした。
僕も同じ事を思ったから、何も言えなかった。
それ以外、言葉が浮かばなかった。
また女の子は笑った。
この時、女の子の顔は赤くなっていた。
僕の鼓動は更に早まった。
それから何回も同じことの繰り返し。
会って、話しをして、冷たいものを食べて。
それがただ楽しくて、仕方がなくて、嬉しかった。
女の子の笑う姿が、ただ好きだった。
でも、夏は過ぎてしまう。
僕は、心からこの夏が続けばいいのにと思った。
だけど、突然夏は終わった。
ある日、いつものように駄菓子屋へ向かっていた。
なんも変哲もない道を歩いていた。
だけど、眩しい日差しが僕に降りかかった時、僕は事故に遭った。
意識不明の日々。
家族はただ泣いていた。
皆、泣いていた。
笑顔がなかった。
ただひたすら、悲しみだけが病室に満ち溢れていた。
日にちが経つにつれて、体が衰退していった。
だけど、僕は目を覚まさない。
身体も、頭も、何もかも動かない。
この時、僕は夢を見ていたのかもしれない。
あの夏の日々を見ていたのかもしれない。
この状態が何年続いたのだろうか。
ある日、僕は身体の熱が覚めていく感覚があった。
何故か、その時意識が戻った。
今、自分はどこにいるのか不安になった。
だから、声を、微かな声を出した。
喉から、お腹から、とにかく出した。
すると、手に何か触れた。
暖かくて優しさに溢れた感触だった。
僕は声を失った。
自然と涙が出た。
その涙を拭き取る手。
思い出す。
あのときの感覚だ。
この時、横から声がした。
湿った声が聞こえた。
「おかえり」
と、言う言葉が聞こえた。
僕は出来る限りの力で手を握った。
僕は、奇跡的に退院することができた。
不思議と、僕の身の回りであった出来事が断片的だけど浮かび上がった。
だから、今までの事を思い出せた。
人間って不思議だなと思った。
今は彼女と共に道を歩いている。
眩しい日差しが水田の水面を反して輝いている。
怖いけど、嫌いだけど、今は大丈夫だと思える。
彼女と共に歩く道には、きっといいことがある。
そう信じて。