第二話 料理店とダンジョンとアパート
お嬢様の屋敷があるのはプランタン王国の都会のほうである。俺はそこから西の方角に馬車で進み、都会から少し外れたクロッシュタウンまで来た。
「うわ~! 朝日が眩しいな~!」
俺は、馬車から降りる。
クロッシュタウンの町並みが朝日に照らされて輝きを増している。
「綺麗な町並みが俺を歓迎してくれているような気がする!」
商店街には色々な店が散見している。
「ここら辺で住めば居心地が良さそうだな~! 今日ぐらいには、住むところを決めたいな~!」
大きな商店街の中を探検していると、プレートが釣られて開店する店がある。
「そうか。今は、料理店が開店する時間か」
粒状の光が煌めくと、料理店のドアのプレートが自動で反対になり、開店の文字が掲げられた。
俺は店の看板を見上げた。
「フェアリーシェフズ料理店か……妖精が料理を作っているらしいな」
微粒子がきらめき、マジックアイテムの四つ足のメニュー表が店先に現れて、椅子を置くように片足ずつ地面に着く。
良い匂いが店先から漂ってきた。
「腹が減った……」
お給金は、旅費でほとんど使い果たした。残金は残りわずかだ。
「これじゃあ、ご飯を食べただけでなくなるな」
メニュー表を確かめる。
「好きな料理のどれか一つとブラック茶付きで500Gというのがあるな。かなり良心的なお値段だ。残金ぴったりで朝食にありつけそうだ……」
俺は手を叩いた。
「よし。まずは、ご飯を食べよう」
料理店のドアを開ける。店内は清涼感のある空気で満たされていた。
「掃除が行き届いていて、清潔感がある感じの良い店だな」
俺が来店すると、後ろから客がわんさかやってきた。
「ここに座ろう」
俺はカウンターの席に座った。
「いただきます!」
俺は二食ぐらい抜いても大丈夫なように、一番腹持ちの良い特大トマッティライスを選んだ。
「やっぱり、腹持ちが良いのはライスだな」
特大トマッティライスで胃袋を満たしていると、旅人風の人たちが隣で話し始めた。
「この街は時計台が名物らしい。鐘の音がきれいなんだと」
「でも、時計台は壊れているみたいだけどな」
「それは、まあ、仕方ないよなー」
「だよなー」
魔法使い風の人たちが右手の後方のテーブルで話し出した。
「ねえ、しってる?」
一瞬、俺が話しかけられたのかと思ったが、連れと会話を楽しんでいただけのようだ。
俺は、食後のブラック茶でのどを潤す。
「ここら辺のアパートってほとんどがモンスターのダンジョンの巣になっているらしいよー」
「まじで~? 田舎だからかな~?」
まじで~?
アパートにダンジョンの巣ができているとは。
アパートがダンジョンだったら住むのが不便ではないんですかね。
格闘家の人たちが、向こう側のカウンターの席で楽しそうに話している。
「それでね、それでねー! ダンジョンでね、沢山アイテム収集してお店で売ったらね! 一週間食べていけたんだー!」
「一週間も!? へー、やるなぁ」
またしてもダンジョンが話題だ。
見渡す限りこのフェアリーシェフズ料理店は、冒険者たちで賑わっている。
そこかしこからダンジョンという単語が端々に聞こえてくる。
「困った。俺は魔法も使えないし、戦えるほど強くない。俺には、鑑定スキルしかない」
頭を抱えていると、元気な声がここまで聞こえてきた。
「あのねあのねー! ダンジョンの一階って敵が出てこないでしょ! 部屋もランダムでしょー!」
「うんうん!」
「それでね、出口付近で宝箱開けまくってお店で売ったら一か月の家賃払えたんだよ!」
「まじでー!」
ダンジョンの一階は敵が出てこない……?
……。……。
「はっ!? こ、これだー!?」
頭の中で今までの会話のピースが一つに繋がる。
俺は指を折りながら、計画を整理する。
まず、ダンジョンのあるアパート借りるのが第一だ。
それで、そのダンジョンの一階でアイテムを収集して換金する。
そのうえ、ダンジョンは自動でランダムで生成されるので、アイテム収集することが可能だ。
「おおお! これで、一生食いはぐれがない!」
俺の視界が覚めるように明るくなった。
俺は、ブラック茶をたらふく飲んでから会計を済ませると、アパートを契約しに向かったのだった。