化物と約束
何でしょうね、よくわからないものが出来ました
「うぅ…ぐす」
「知らない子だ。なんで泣いてんだ?」
「…私は泣き虫だから、立派な大人になれないって…」
「…はぁ〜、そんなわけないだろ。泣き虫な大人なんて沢山いるっての!」
「でも…」
「もうそんなこと気にすんなよ!俺が一緒に立派な大人になってずっと守ってやるからさ!」
「!…ほんとう?」
「おう!約束だ!」
ーーー
ーー
ー
魔女を裁く裁判官を育てる学校
そこには優に数百の生徒が集まり、日々勉学に励んでいた
「ふふ、懐かしいなぁ。今あの子はどこにいるのかな?」
名前も思い出せないけれど、確かに昔にあった事のある少年のことを思い出す
「さて、頑張らないと。大丈夫、あの子がついてる!」
少女は、彼とした『約束』の為に今日も夢に向かい歩き出した
ーー
「君、ちょっといいかな?」
「?」
「君は勉学においてはこの学園随一の優秀さだ」
「!…ありがとうございます!」
「しかしだね。やはり君の性格が君を完璧な裁判官にするのを邪魔しているようだ」
「…え?」
「君のその気が弱く、誰に対しても優しくしてしまう性格は、裁判において邪魔になるだろう」
「…そんな」
「だから、提案と言ってはなんだが私達の言うとうりにしてくれないかな?」
「えっと…どういうことでしょうか?」
「ふむ、着いてきてくれ」
そう言って、連れてこられたのは薄暗い部屋
「まずは真ん中にたってくれ」
「…嫌です。私帰ります」
「…頼む。私だってこんなことはしたくないんだ。脅されてなければこんなことは…」
そう言うと教師は泣き出した
「頼む…私の家族を助けてくれ」
様々な感情が、少女の内を駆け巡った
「…わかりました」
少女が部屋の中心に立つと、床に魔法陣が現れて少女を飲み込んだ
「これは?!」
「…ありがとう。こんなに下手くそな芝居に乗ってくれて」
「そんな!騙したのですか!?」
「そうだ、騙した。しかしこれは最高機関の命令なんだ、それだけ君は優秀だという事だよ。その性格を覗いてね 」
「私に何をするつもりですか…」
「なに、簡単な魔法さ。」
「君の人格、そして記憶に蓋をするんだ。強力な呪いで」
「…!」
「そんなに絶望感を出さなくてもいいじゃないか。ちなみにこの呪いは解くことはまず出来ないよ。解くには代償が必要だ」
「代償?」
「命さ。さて、君は自分の為に誰かを犠牲に出来るかな?」
そんな非人道的なことが出来ない程に、彼女は人格者だった
ーーー
「まさに100年に1度の天才だな。彼女は」
「それに容姿端麗だ。天は二物どころか彼女に全てをさずけた」
「素晴らしい、彼女は冷酷な判断で魔女を次々と裁いていくぞ 」
彼女を褒め称える声が、鳴り止まない
「…どうして」
1人の少年が呟いた
「彼女に一体何が…」
向け先のない、怒りのような感情をぶら下げたまま少年は逃げ出した
気づくと少年は見知らぬ小屋の前にいた
「誰だ」
「…世界を憎む者、かな」
「…入れ」
入るとそこには老婆がいた
「ふむ、なるほど」
「…心を読んだのか?」
「うむ、どれ。お前に力と真実を教えてやる」
「何の代償もなしにか?」
「なに、実験のついでだ」
「…わかった。頼む」
そこで少年は彼女に何が起こったのかを知り、力を手に入れた
その体は異形のものとなった
皮膚は硬く、銃弾さえ弾くほど
顔からは表情が消え、鉄の仮面のような顔になった
力は強く、岩を砕き
それに答えるように体は大きくなり、3mと言ったところだろうか
まさしく『化物』だった
ーー
人々は恐怖に支配された
最強のセキュリティを誇っていた、裁判官の学園が一夜にして跡形もなく破壊されたのだ
捕らえられた犯人は、化物
すぐに裁判にかけられた
「おお、裁判長だ」
若くして、裁判長の座に上り詰めた少女は、変わり果てた少年に向き合った
しかし
「初めまして」
彼は崩れ落ちた
「…」
「貴方のした事は、絶対に許してはいけないことです」
「…」
「判決はきまりました。最後に何か言い残すことは?」
民衆が耳を傾ける中、彼は言葉を紡いだ
「…幼い頃に、出会った人に謝りたい」
「…どうぞ」
「守ってあげられなくて、ごめんな」
民衆は皆、野次を飛ばすつもりでいた。
しかし出来なかった
民衆の代表である彼女が、泣いていたのだ
「…これは?涙?なぜ」
「…判決を、どうか」
「…判決は」
死刑
銃も刃も効かない彼を殺す方法、それは餓死だ
彼はこれから、想像を絶する苦労を味わうことになる。それなのに彼は笑っていた
「俺の最後を決めてくれてありがとう。泣き虫は、治らなかったな」
そう言うと彼は連れていかれた
ーー
彼は独房で1人、自身の死を見据えていた
しかし、ふつふつと湧き上がる感情があることに気がついた
それは何者かの声となり彼の耳に届いた
『これが彼女とした約束なのか』
(違う)
『思い出せ、彼女の為に何をするべきかを』
(…)
『これがお前の望んだ答えか?』
(違う!)
刹那、独房は破られた
化物の姿はそこには無かった
ーー
「貴方は…どうやってここに」
彼女の前に、彼は立っていた
「…君とした約束を、果たしに来た」
「私と?」
「大丈夫、俺はすべて知っている」
彼は彼女を抱き上げると、凄まじい速さで外へと連れ出した
「ここは…」
「君と、約束をした場所」
「…ごめんなさい。思い出せない。泣かないで」
彼は泣いていた
昔、少年と少女が約束をした。
今、同じ場所に同じ者がいる
しかし少年は化物となり、少女は記憶を、人格を鎖された
「君の呪いの解き方を知ってる」
「…!それは…」
「俺の命で、君を救うよ」
「いけません!私の為に貴方の命を使うなど…」
「…あいつらは、君の使える性格だけは残していたんだ。腹が立つよ」
「…本当に、知っているのですか」
「知ってるよ。全部。」
彼は、彼女の首に手をかけた
「さようなら…愛おしい約束の人」
彼の体が強く光、彼女の呪いは解かれた
彼の命を代償に
数分の後、彼女は目を覚まし目の前の事実を嘆いた
「あぁ…そんな!どうして?!私なんかの為に貴方が死ぬ必要なんて!」
「お願い!お願いだから!目を覚まして!」
しかし彼は目を開けない
「あ、あ、…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
彼女は彼を抱えたまま、その声の枯れるまで泣き続けた。
彼女は彼の亡骸を引きずりながら、歩いていた
その前に見知らぬ小屋が現れた
「誰だ」
「私は…」
「世界を憎む者です」
この後彼女と彼がどうなったかは誰も知らない
今もどこか、人の居ないところで歳を取らない少女と死なない化物が暮らしているという