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解決3 キスしましょう

 

 

「あれだろ。幽霊って、未練があるからこの世に残ってるんだろ」

「食べながら喋るな。行儀が悪い」

 

 口にした白玉を飲み込み、肩に瀬奈の存在を感じながら続ける。

 

「だったら俺の未練は、お前と喧嘩したまま死んじゃった事。お前に、告白できないまま死んじまった事」

 

 秋斗と同じく、瀬奈も少し秋斗の方に体を傾ける。

 触れ合わないと、たまらなく不安になるのだ。

 この時間が、いつか終わってしまうと知っているから。

 一人取り残されるのが、恐ろしいから。

 

 

 互いに寄り添いながら食べるのは、生前よく一緒に食べていたイチゴ抹茶パフェ。

 誰が作ったのか、なぜテーブルの上に出てくるのか、実体があるのかもわからないが、美味しい事に変わりはないので二人はもう気にしない事にしている。

 

「あ、あとお前とデートしたり、イチャイチャしたり、チョメチョメしたりしないまま」

「うるさい黙れ変態……あと、こっち見るな。その顔やめろ。むかつく」

 

 ごちんと、肩に衝撃を感じる。瀬奈が頭突きをしてきたのだ。

 秋斗は体を前に倒し、瀬奈の顔を覗きこむ。伏せてはいるが、その表情は気恥ずかしさで真っ赤になっていた。

 上目づかいでこちらを睨むその強がりが、とても可愛らしくて。秋斗も、おもわずニヘラと笑ってしまう。

 

 と、瀬奈が顔を輝かせた。

 何かいい事を思いついたとでもいった雰囲気だ。とてもわかりやすい。

 

「あ、き、とー?」

「なんだその声。気持ち悪いぞ」

 

 げしっと足を踏まれる。秋斗も返す刀で瀬奈の艶かしい脚を自身の足でさわさわしてやった。

 いつもの事であるが、がっつり密着した状態でそんな事をされたため、二人の体がこすれあって大変よろしい。秋斗にとってはご褒美だ。

 

 瀬奈は、テーブルの下で繰り広げられる死闘など知らぬ存ぜぬとばかりに手を突き出してくる。

 その手の先にあるのは、フォーク。フォークの先に突き刺さっているのは、ここの名物。とっても甘いイチゴだ。

 

「にひひ。はい、あーん」

「あーん」

 

 ぱくり。

 秋斗はイチゴを口にした。

 甘くておいしい。

 

「馬鹿なっ。普通に対応された、だと……!?」

「こんな体をべったり密着させといて、今更あーんごときに何をうろたえろというのだ」

「う……」

 

 一瞬体を離そうとした瀬奈だったが、思いなおしたのか再びべったり密着してくる。

 背後から抱きしめるような体勢。先ほどまでよりむしろ近い。吐息がかかるほどの距離だ。

 

「てかお前、既に俺の膝の上を侵食してやがるな。顔ちけぇ」

「仕方ないでしょ。身長差があるんだから、こうしないと近づけないし。はい、こんどは秋斗が私に食べさせて?」

「え……まじで?」

「マジマジ。大マジよ」

「……これ、やられるよりやる側の方が恥ずかしくない?」

「私もさっき同じ事を思った。だから、やってもらう」

「お前、さっき自爆してたのな」

 

 恐る恐る、秋斗は膝の上の小動物にエサを届ける。

 なんか恥ずかしさが一周回って、そんな気分になってきた。

 

「はい、あーん」

「あーん……ちょ、こら」

「あ、すまん。こっちからだと見えにくいから」

 

 フォークが少しずれた。イチゴに付いたクリームが瀬奈の唇を汚す。

 瀬奈は、テーブルの上のティッシュに手を伸ばした。が、秋斗の体の上にいるのだ。おもうように体が動かせず、悪戦苦闘している。

 

「あ、いいこと思いついた」

「え? 何?」

 

 瀬奈の体をぎゅっと抱きしめる。

 そのせいで、瀬奈はもう身動きが取れない。

 ティッシュを取る事を諦め、不思議そうにこちらを振り向く瀬奈に秋斗は体をかぶせていった。

 

「瀬奈」

「ん、どうし――」

「ちょっとすまん」

「は――?」

 

 ペロリ、と。

 瀬奈の唇を舐めとる。

 一瞬で体をカチコチに固めた瀬奈の顎に手を添え、今度は唇を押し付けた。

 

 唇の感蝕。

 肉体もなく、温もりなどないはずなのに。とても熱い。

 胸が張り裂けそうなほどに、熱くて苦しい。

 

 

 やがて、お互いに目を閉じる。

 そして、求め合うように。二人は唇を重ね合わせた。

 呼吸が荒い。鼻息がこそばゆい。けれども、どうにも止まらない。

 

 やがて唇だけでは我慢できなくなり、互いの手足を絡めあう。

 握り合った指先が震え、触れ合った胸からは互いの心が流れてくる。

 

 ずっと、こうしたかった。

 ずっと、こうしていたかった。

 

 二人の願いは、ようやく叶い。

 そして、叶う事はなかった。

 

 

 

 どれだけそうしていただろうか。

 二人は、唇を離した。

 

 ぼうっとした表情で見つめあう。

 握り合った手は離さない。

 繋がり合った心は離さない。

 

 

 やがて、ぽつりと。

 瀬奈が、口を開いた。

 

「――私の未練も」

 

 未練。

 それは、先ほど秋斗が語った言葉。

 瀬奈も、秋斗に自分の気持ちを伝えておこうと思ったのだろう。

 

「きっと、同じだった。あんたが、私から離れていくのが辛くて。私が選ばれないんじゃないかと思うのが、不安で。怖くて。だから、私から離れようとした」

 

 離れれば、ずっとこの関係を維持していられる。

 離れれば、ずっと一緒にいられる。

 どうしようもない矛盾。

 

「自分の思いに、素直になれなかった。秋斗とずっと一緒にいたいのに、手を伸ばせなかった。それが私の未練」

 

 ずっと同じ関係を維持していられるわけがないのに。

 絶えず変化する関係を繋ぎとめておきたいなら、より強固な関係を求めるしかないのに。

 

 秋斗は、思わず苦笑した。

 

「カァーッ、お前めんどくせぇー。素直じゃないとかそういうレベルじゃないだろ。お前なんなの? 馬鹿なの?」

「う、うるさい! こういうのを乙女心っていうのよ!」

「乙女……ぷっ」

 

 頭突きを喰らう。

 抱き合い、両の手を絡めあっている状態なのだ。

 しごく当然の攻撃手段といえる。

 

「ぐへぇっ。ちょ、お前! 今のはマジで痛かったぞ。暴力反対! お詫びにおっぱい揉ませてくれたら許す」

「乙女の純情な心を笑った罰よ。あとおっぱいは却下」

「ええー」

 

 心底残念そうな秋斗の声。

 冗談めかして言わなければ、きっとどんな事だって許してくれるだろうに。

 けれども、秋斗はそうはしない。

 割れ物を扱うように、大切に。一歩ずつ。壊してしまわないように。

 

 と、こんどは瀬奈の方から迫ってきた。

 懐かしい、子供の頃のように悪戯めいた笑みを浮かべて秋斗の方を見上げる瀬奈。

 少しずつ、顔を近づけてくる。

 

「かわりに」

 

 キスをする。

 

 二度目のキス。

 触れ合った唇の感蝕が、柔らかくて。

 そしてほのかに、イチゴの香りがした。

 

 

 

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