相談部初合宿
4月の半ば。桜が散り始め、空と道を両方ピンク色に染める、幻想的な時期だ。新しいクラスには少しずつ馴染み、新たな友達と談笑などをする頃だろう。普通の人達は。
有馬 大翔、先日、相談愛好会を相談部に昇格させ、見事落ちこぼれを脱却した。しかし、落ちこぼれを脱却しようが、状況は変わらず、恋愛を拒んで、友達も中学入ってから、倉沢 竜也、1人である。
なんの面白味もない授業と、なんの面白味もない昼食を済ませ、なんの面白味もない午後の授業を終らせた大翔は、何かと忙しい竜也を置いて、先に部室へ向かっていた。
部室に向かう途中で、1人の少年に声をかけられる。
「大翔、これから部活?」
後ろからの声、その方向に振り向くと、身長が低い少年が立っている。彼は、香山 祐。1度、相談愛好会が相談を受け、茶道部を復活させた起点となる人物だ。茶道部兼相談部である香山は、両方を行ったり来たりしている。
「ああ、そうだが、今日は来るのか?」
「ごめん、今日は茶道部の方に行く予定。」
香山が申し訳なさそうにする。言っておくが、香山とは同い歳だ。
「そうか、じゃ、またな。」
「うん。」
香山と別れ、しばらく歩いて、部室にとうちゃくする。嵐山中学の、D棟校舎にある、元茶道部部室が、我等相談部の部室だ。因みに、この教室は2つに繋がっており、片方を茶道部に譲っていて、すぐ隣には茶道部がワイワイやっている。相談が来ない暇な日は、茶道部から漂うお茶やお菓子の匂いや、漏れてくる笑い声に、虚しさを感じる。
そういえばさっき、香山は反対方向に向かっていったな。忘れ物か?
そう思いつつも、部室の扉を開けた。
「ういーっす。」
大翔が適当な挨拶で中に入る。広めの教室に部員が2人、既に座っていた。
「あ、やっと来たわね、サボってるのかと思ったわ。」
「んなわけねえだろ。」
「まあいいわ。」
そう言って、視線を逸らした。彼女は音華 月寧。相談部設立者で部長。俗に言うパーフェクトと言う、落ちこぼれを脱却した勝ち組。
それと対照的に大翔は、落ちこぼれを脱却したにも関わらず、落ちこぼれである。
「やあやあ、子狐くん、相変わらず陰気な目付きをしている。」
「黙れ、ワルさん。」
「そのあだ名、やめないかい?ダサイにも程があるが。」
「お前にはピッタリだ。」
入室早々、大翔を罵る彼は、笹原 椿。大翔は、悪口生産機、通称ワルさんなどとも呼んでいる、世間一般のナルシストの類に属する。
「まったく、今日もワイワイやっちゃって。」
月寧が呆れた表情で2人を見つめる。
「まったくワイワイやっていないが?」
大翔が否定する。
「ま、それはいいのよ。」
月寧が、1枚の紙を持って大翔に近づいた。
「な、なんだよ。」
大翔の前まで来ると、その紙を大翔に渡す。大翔が紙を受け取ると、何やら装飾の施されたポスター的な物が描かれている。
「相談部創立記念合宿?」
ポスターには、第1回、相談部創立記念合宿と書かれている。
「場所は、江ノ島?近場だな」
「しょうがないでしょ、部員が少ないってことは、部費も少ないって事よ。」
「なるほど、で、いつになるんだ?その合宿は。」
「夏休みよ。」
夏休み、と言うと、現在は4月、あと3ヶ月は待つ事になる。
「夏休みか、随分長めに待つな。」
「いいのよ今から行っても、寒中水泳でもしてらっしゃい。」
「そういうことか!」
江ノ島の海へ行こう、という計画のようだ。うちの部員はさほど多くも無いので、電車で行ったって迷惑にはならないだろう。
「そういうことだから、お金、貯めといてね。」
月寧がさらっと言う、が、残念ながら大翔にお金の発生源は無い。ケチ臭い親がおこずかいなどくれる筈もない。
「あ、あのー、音華さん。」
月寧は反応しない。
「あー、もう、月寧!」
「何かしら。」
名前を呼んだところですぐに振り返った。
「俺、お金発生しません。」
大翔が肩をすくめる。
「あなた、中学3年生にもなって、財布に万札を入れることも出来ないの?」
「金持ちの基準で話すな!」
さらっと普通ではない事を口にだす月寧、家が金持ちで、大翔との差は相当なものだ。
「情けないわね、分かったわ、明日私の家へ来なさい。」
「え、月寧の家に?」
月寧の家は、大翔の家の10倍、又はそれ以上の広さがある大豪邸。初めて行くと必ず迷う。と、誰かが言っていた気がする。
「そうよ、場所分かるでしょ。」
「まあ、そこそこ有名な建物なので…。」
月寧の家は、近所では有名な建物で、誰もが知っている。
学校が休みの土曜日、大翔は、大豪邸である月寧の家へ向かった。
「ここ…だよな。」
門の前に立っていると、遠くの方にある、本館の扉から誰か出てきた。
しばらくして、門の近くまで来た。
「お待ちしておりました。有馬 大翔様ですね?」
執事服を着た老人が、大翔の名前を聞いた。
「は、はい。」
「さ、こちらへどうぞ、月寧様がお待ちです。」
すると、大きな門がゆっくりと開いた。
しばらく歩いて、本館へ入ると、エントランスらしき場所に入った。天井には大きなシャンデリアがぶら下がっていて、左右対称の階段がついている。
そこへ、月寧が階段から降りてくる。
「いらっしゃい、大翔。」
「月寧。」
「さ、こっち来なさい。」
階段を上がり、案内されたのは月寧の部屋だ。
「うわ、広いな。」
そこもバカみたいに広かった。
「ちょっと、女の子の部屋をあんまりじろじろ見ないで。」
「へ?」
よく考えたら、女の子の部屋に来るのは初めてだ。
「あ、ごめん。」
「さて、ゲームでもしましょうか。」
そう言うと、最近発売した最新型のゲーム機を取り出す。
「俺、何しにきたんですかね!?」
「私の家に遊びに来たのよ。」
「合宿の話じゃないの!?」
「それは後よ。」
そう言って手招きをする。
仕方なく大翔は、月寧の隣に座って、コントローラーを持った。
しかし、10戦10敗で、大翔はボロボロに負かされる。
「ちょ、お前強すぎだろ。」
対戦式の格ゲーで勝負していたが、大翔は手も足も出ない。
「あんたが弱いのよ。」
月寧はコントローラーを置いて、電源を切り、椅子に座った。
「さ、合宿の話をしましょう。」
「やっとか。」
大翔も、向かいの椅子に座った。
「あんた、本当にお金無いのね。」
「無いよ、財布の中身みる?」
そう言って、大翔が財布を渡す。
「じゅ、十円玉ばっかりじゃない…。」
「本当だろ。」
「そ、そうね。」
月寧があきれる。
「駄菓子屋になら行けるぞ。」
「駄菓子屋にしか行けないじゃない。」
大翔が肩をすくめた。
「あなた、ここで働きなさいよ。」
月寧が、唐突にとんでもない事を口にした。
「はあ!?何言ってんだ、まだ中学生ですよ!?」
「お手伝いって事なら問題ないでしょ?」
「な、なるほど…。」
大翔は、頭の中で、執事服を着る自分を想像した。勝手に妄想したせいで、顔を赤くする。
「どうしたの?」
「なんでもない!」
大翔が首を横に振る。
「まあいいわ、こっち来て着替えなさい。」
「え、今からやるんすか?」
「1円でも多く稼ぐのよ、当然。」
月寧が素早い足取りで部屋を出る。
お金の無い大翔の、お手伝い生活のスタートである。
相談部初合宿は、上手くいくのだろうか。