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俺が恋愛をする理由なんかない!  作者: 怜刻
暗闇の過去
8/10

記憶のピース

自分の過去は自分にしか分からない、だが、忘れてしまっては話は別である。それが記憶喪失なのか、はたまた、ただのド忘れなのか、事の重大さは相当変わるだろう。ただのド忘れなら、その内思い出す。が、それが記憶喪失となるなら、戻る可能性は極めて低いのではないだろうか。


大翔(ひろと)が、中学以前の記憶を失って、3年が経過した。そこで出会った女性、神坂(こうさか)芽衣(めい)が、大翔の頭を悩ませる。

事情を知っている竜也(たつや)が、相談部全員に話をする。

「それで、あいつに何があったの?」

音華(おとはな)が、腕を組んで竜也を睨んだ、音華は、現在の状況に腹が立っているらしい。

「大翔、中学から前の記憶が無いんだ。」

「え!?」

音華が目を見開く。

「そういうことか、それで、僕の事も初対面の接し方をしたのか。」

椿(つばき)が目を(つむ)る。それを眺めていた竜也は次に、芽衣を見る。

「芽衣さん、あなたは、大翔の事を知っているんだね。」

「はい、小学校の時に。」

芽衣が頷きながら話す。

「残念ながら、大翔は君の事を知らないよ。」

芽衣は、顔をうつむけたまま、動かない。

「ま、しょうがないわね、記憶が無いなんて、私達の手には負えないわ。」

音華があきれた表情を見せ、目をつむった。

「芽衣さん、あなたは、大翔をどうしたいの?」

音華が、芽衣を鋭い目で見つめた。

「え?えと、わ、私は…。」

芽衣がもじもじしながら、音華を見たり、俯いたりしている。若干の苛立いらだちを見せる音華が、ワンテンポ置いて口を開いた。

「まあいいわ、あなた、部活は?」

「合唱部に入ってます。」

「そ、あなた、掛け持ちする気は?」

音華がさり気無く勧誘モードに入る。

「か、掛け持ちですか?でも、2つも部活なんて、大変だし…。」

「うちは、あんまりハードにはやらないわよ?」

「でも…。」

音華の勧誘を、もじもじ否定する。音華は、決定的な言葉を付け加える。

「大翔に協力できるなら、ここしかないわよ。」

「っ!」

芽衣が反応した。

「どうするの?」

音華が再度、確認する。

「わ、分かりました、やります。」

「OK、あなたは、大翔の記憶戻しに参加して貰うわ。」

芽衣は、首を縦にふった。

「さて、もう大翔はいいわ、ほっときましょう。」

「お、音華さん!?」

芽衣が立ち上がって音華を見る。

「今の私達には、どうこう出来る問題じゃないでしょ。せっかくあいつが部活にはいってくれたんだもの、大翔のしたいようにやらせればいいわ。」

大翔の記憶に、音華や椿達は存在していない。音華達が当然のように知っていることも、今の大翔にはわからない。なら、少しづつでも思い出して貰えるようにするのが、今の自分達に出来ること、そう考えたのだ。

「子狐の場合、気性が荒いからね、そっとしておくのが妥当(だとう)だね。」

椿が立ち上がり、部室を出ようとする。

「どこ行くの?」

竜也が問う。

「今日はもう帰るよ、明日からまた、大翔を誘うとしようじゃないか。」

そう言って、椿は手を振りながら部室を後にした。

次の日の放課後、大翔が部活に来た。気まずそうな表情で、辺りを見回し、ゆっくり部室の(すみ)にある椅子に座った。

「ちょっと、なんでそんな隅っこに座ってんのよ。」

音華が書類を整理しながら大翔を睨んだ。

「え、いや。」

「さすが子狐君だ、やはり陰気なところがあるよね?」

椿が大翔を指さす。

「大翔、部室でもそれで通すの?」

竜也が笑う。

「大翔、後でなんかしようよ。」

香山(かやま)が大翔に視線を向けた。

「え、え?」

大翔が動揺する。昨日、大翔が怒鳴って部室を飛び出してから、あまり時間は経っていない。

「お、お前ら、気にしてないのか?」

大翔が恐る恐る問う。

「は?あんなの今更気にすることじゃないわ、ほら、早くこっち来て仕事手伝いなさい。」

音華が書類を見せつける。両脇には大量に書類が積み重なっている。

「お、おう。」

動揺しつつも、(かばん)を置いて、音華の隣に座った。

「おい、音華。」

「なによ、まだなんかあんの?」

音華は手を休めずに、耳だけを傾けた。

「ありがとな、あと、ごめん、昨日あの後、頭冷やした。」

大翔が俯きつつ話す。

「ちょっと、大翔らしくないわね、気持ち悪い。」

音華が拒絶反応を見せる。大翔を見る目は、異臭を放つ腐った卵を見る目だ。

「な、なんだよ、反省してんだよ、怒鳴ったこと。」

「過去なんて振り返らなくていいわ、でも、記憶は取り戻しなさいよ、大事な記憶だってあるんでしょ。」

「そうだな、俺、がんばる。」

そんなやり取りをしていると、部室に、新入部員の芽衣が入っていた。大翔は、若干芽衣に反応したが、すぐに正気を取り戻した。

芽衣が真っ先に向った先は、大翔の所だ。座っていた大翔は、下から芽衣のオドオドしている表情を眺める。

「あ、あの…。」

手を前で組み、モジモジさせながら小さい声量で、大翔に話しかける。大翔は、それを黙って見つめていた。

「私、合唱部と掛け持ちで、ここに入部する事になりました、よろしくおねがいします。」

芽衣が勢いよく頭を下げる。

「おう、よろしくな、芽衣さん。」

「あ、あの、さんは()らないですよ?」

芽衣が訂正を求めた。

「え!?いや、初対面で女の子に呼び捨てなんて…。」

大翔が顔を赤く染めて下を向く。

「芽衣でいいですよ。」

そう言って、芽衣はニッコリ笑った。女性嫌いな大翔が、不覚にもときめいてしまう。

「わ、わかった…その…芽衣。」

大翔はあちこちに視線を()らしながら芽衣の名前を呼んだ。

視線を逸らしていると、音華と目が合った。何故か睨まれている気がする。否。睨まれている。殺気が溢れていて、大翔の体から汗が吹き出る。

「お、音華?」

大翔が恐る恐る喋りかけると、音華が立ち上がり、芽衣の横に来る。

「芽衣のことを下の名前で呼ぶなら、私のこともそう呼びなさいよ。」

音華がそう言って、芽衣の肩に手を掛けた。

「はあ?別にいいじゃねえか音華で。」

そう大翔が要求を否定すると、音華が大翔を睨み倒す。その殺気の鋭さに、とっさに大翔は椅子を背後(うしろ)に引いて、遠ざかる。

「わ、分かった、月寧(つきね)!これでいいだろ!」

大翔があっさり月寧の名前を口にする。

それを聞いた月寧は、驚いた表情を見せた。その後、何故かとっさに後ろを振り向き、作業に戻る。

「ん?どうした?」

大翔が異変に気付き、問いかける。

「な、なんでも無いわよ!それより、仕事手伝いなさい!今日中に終わらせるわよ!」

そう言って作業に没頭する月寧は、心なしか顔が赤かった気がした。

大翔には無い過去の記憶、大翔の思い出は、言わば、全く揃っていない記憶のピースである。そのピースを探すのは、そう簡単では無い。大翔は自覚しつつも、希望を抱いていた。記憶が戻ったら。どんな記憶なのか。

いつ戻ってくるだろう。大翔は、今日も、記憶のピースを探す。

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