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俺が恋愛をする理由なんかない!  作者: 怜刻
暗闇の過去
7/10

強さを増す鎖

それは突然やってきた。大翔(ひろと)の中で何かが警報を鳴らしている。「ここにいちゃダメだ、にげろ、まずい。」頭が自分の感情でいっぱいだ。うるさい。

彼女は何か言っていた。しかし、警報がうるさくて何を言っているのか聞き取れなかった。

「なんで…お前…。」

大翔にとっては当然の質問だと思っていた。しかし、彼女側からしたら、何を言っているんだ、という様子だ。

「ど、どうしたの?大翔君?」

名前を呼ばれる大翔。

大翔はそれに反応し、ピクッと動く。視界が歪んで、立ちくらんだ。

「き、きき、今日は、もう活動終了です…。」

そういって大翔が静かに廊下を出た。

「ひ、大翔君?」

その出来事があった次の日、大翔は部活を休んだ。


「あれ、今日大翔は?」

「なんか、気分が乗らないから帰るって。」

「ふうーん。」

辺りが静かになった。聞こえるのは、運動部の爽やかな掛け声のみだ。

「あ、俺、そろそろ陸上部の方に行ってくるよ。」

竜也(たつや)がバックを持って、扉を出る。

「竜也。」

音華(おとはな)が呼び止める。

「ん?何?」

竜也が振り向く。

「大翔に何があったか、聞けたら聞いといて頂戴、少し心配だわ。」

「アイツ、隠し事すると俺にも話さないんだ、多分無理だと思うよ、ま、一応聞いて見るけどね。」

「頼んだわよ。」

竜也は、音華の話を聞いた後に、走って陸上部に行った。今日も香山(かやま)は、茶道部の方に行っていて欠席して、部室には、椿(つばき)と音華のみだ。

「子狐が休むなんて、珍しいね。」

さすがの椿も心配を隠さない。

「何かあったのは確かね、ま、そんな事情は知らないけどね。」

音華が椅子にもたれて天井を見た。

「あなた、大翔と幼稚園、同じだったんでしょ?」

体制は変えず、視線だけを椿に送る。

「そうだが?それがどうしたっていうんだい?」

椿も視線だけを向ける。

「何か知らないの?あいつの過去とか。」

「幼稚園児の過去を引きずるかい?」

「あいつならやりかねないわ」

音華が愛想笑いを振りまいた。

「それに、子狐が僕に会った時の反応は、前に1度会った反応では無かった…忘れているのだろうね。」

「そうかー、あとは竜也ねー、彼なら何か知ってるかも。」

音華が脱力しながら喋る。

しばらく沈黙の時間が流れたが、その後、1人の来客者が来た。

「あら、相談部に何か用?相談?それとも、入部希望者?」

音華が来客者に視線を向けた。

「こんにちは、相談部で合ってますか?」

そこには、美しいと言うのがふさわしい女性が立っていた。それは、音華ですら見とれるほどだ。

「な、なんの用かしら?」

音華が動揺を見せた。

「あの、大翔…有馬(ありま) 大翔君、居ますか?」

「何?あのバカに用なの?悪いわね、今日は部活を休んでるわ。」

音華が女性に近づく。

「あれ、あなた、どこかで会ったことあったかしら?」

音華が女性の顔を見入る。

「い、いえ、それより、やっぱり来てないんですね。」

「や、やっぱり?何か知ってるの?」

女性の話を聞くため、音華が部室の中へ招き入れた。

椿、音華の向かいに、女性を座らせた。

「私、神坂(こうさか) 芽衣(めい)、と言います。」

神坂が丁寧にお辞儀をした。

「私は音華よ。」

「僕は椿、ところで神坂さん、僕とお付きあ…痛い!」

椿のナンパを瞬時に察知し、音華がグーで後頭部に打撃を食らわす。

「はいはい、ナンパは後、てか、ナンパしない!…さて、本題に入るわよ。」

音華が頬杖をついて話を始める。

「あなた、芽衣さんは、大翔が休んだ理由を知っているのね?」

「はい、実は昨日、私を見て、逃げたんです、大翔。」

芽衣がうつむいてそう言った。

「逃げた?随分失礼な話ね。」

音華が顔をしかめた。

「私もよく分かりません。小学校からの付き合いだったのですが…。」

「え?小学校から?もしかしてあなたも、嵐山(あらしやま)小?」

音華が問う。

「ええ、大翔の事は知っていました。」

「なるほど、じゃあ、大翔が変わったのも知ってるのね。」

大翔は変わった。何があったのかは分からない。恋愛を拒み、人を避けようとする大翔は、何か自分の鎖に縛られていた。

「私も、気にしていました。中学に入ってからというもの、大翔は何故か部活には入らず、1人で過ごしているのを、見たことがあります。」

芽衣も気づいていた。だが理由は分からない。付き合いのある芽衣でさえ、理由を突き止めることはできない。それほどまでに謎が深い人物なのだ、大翔は。

「ま、大翔がそれでヘコタレようが、どうでもいいわ。」

音華が椅子から立ち上がる。

「おやおや、いいのかい?」

椿が問う。

「いいのよ、まさか、簡単にヘコタレる奴だとは思わなかったわ。」

音華が窓を眺める。


大翔は、部活を休み、自宅へ帰っていた。大翔は、過去の出来事を思い返した。

「何なんだよ…。」

大翔は頭を抱えた。何故かは分からないが、胸が痛い。

「意味わかんね、誰だよ、あいつ…。」

次は頭が痛む。

「ダメだ、分からない。」

彼女が、分からないのだ、どこの誰なのか。いや、そうではない、彼女の素性など、どうでもいい。

「何で、俺の名前知ってんだよ…。」

彼女は自分の名前を知っている。どうして?

「もういい…今日は寝る、頭が痛い…。」

大翔は、体が倒れるままに、ベッドに倒れこんだ。

次の日、大翔は相談部部員が無理矢理部室に連れ込んだ。

「俺は、1週間休むって言ったろ!!」

大翔がもがくが、椅子に座らされた。

「何で俺が来なきゃいけないんだよ。」

「会って欲しい人がいるの、ね、芽衣さん」

「っ…!」

大翔が座る席の向かいに、芽衣が座っていた。

「こ、こんにちは…。」

大翔が愛想笑いで挨拶をした。

「こ、神坂 芽衣です、よろしくお願いします…。」

沈黙した。大翔は口を開こうとしないし、芽衣も挨拶したきりだ。

「そ、その、貴方達は、初対面なのよね…?」

音華が口を開く。

「は、はい。」

芽衣が(うつむ)きながら答えた。

昨日のその後に(さかのぼ)る。

「いい?大翔はきっと、あなたの事を知らないわ。」

「え!?」

芽衣が驚く。

「だって、私、小学校の頃…!」

「落ち着きた前、芽衣さん。」

椿が足を組んで座った。

「芽衣さん、あなたのことだけを忘れている訳では無いんだよ。」

「どういうこと?」

芽衣が椿の方を見た。音華は考えるように、目を(つむ)っている。

「僕も同様に、忘れられているんだ、幼稚園の時だから、忘れるのも無理無いかもしれないけど。」

椿が、やれやれといった仕草を見せる。すると、黙っていた音華が目を開け、口を開いた。

「芽衣さん、あなたは、大翔の事を知らないという設定にして。」

「え、どうして?」

「大翔には何かがあるわ。知らない女性に名前を呼ばれて、彼は戸惑ってる。」

「わ、分かりました。」

芽衣が俯く。

それからというもの、3人は口を合わせて知らないという設定にした。

「俺も、初対面だ。なんで名前を知ってるか知らないけどな。」

「め、名簿で知ったの、進学名簿、全員分あるでしょ?」

「あー、なるほど。」

アホなやつめ、チョロイな。音華が思う。

「んで、お前ら…」

大翔が音華と椿を睨む。

「は、はい?」

音華が椅子を後ろへ引いた。

「こんな事のためにわざわざ引きずり回してくれたのかなー…?」

大翔が立ち上がる。

「い、いや、その…えっと…つ、椿が!」

「ぼ、僕かい!?」

音華が椿を売る。

「ほお、椿、どうせまた、「あの子狐はアホだから、連れ回せばすぐ…」なんて言ってたんだろうなぁ?」

大翔がゆらりゆらりと歩く。

「お、おおおお落ち着いて!!」

音華が焦る。椿が立ち上がる。芽衣が後ろであたふたしている。

すると、大翔は立ち止まった。

「ま、起こる気も無いわ、もうこれで終わりか?なら、帰りたいんだけど。」

大翔がだるそうな顔を上げる。

「へ!?あ、うん、これだけ…あはは…。」

音華がため息をついた。

「じゃあ。帰るわ。」

大翔が踵を返した。

「あ、そう、また明日…。」

「神坂さん…だっけ?」

大翔が顔を芽衣に向ける。

「は、はい。」

「あんたを見てると、頭が痛くなってくる。何かこう、頭の中のタンスをグチャグチャにされるんだよ。」

「え、え?」

芽衣が落ち込む。

大翔がそう言うと、ゆっくり部室を出た。

次の日、放課後。

「ひ、大翔!?大丈夫!?」

大翔のゲッソリとした顔を見て、竜也が驚く。

「ん?大丈夫だ、少し疲れただけだ。」

「昨日、部活言ったんでしょ?一週間休むって言ってたのに。」

「無理矢理連れてかれたんだ。会わせたい人が居るとか言って。」

大翔が前を見ながら言った。

「大翔も大変だねえ。」

「ふん、まあな…」

くまのできた大翔が苦笑いした。

「竜也、今日は相談部、行くのか?」

「うん、陸上部は、大会後だから、休みに入ってる。」

「そうなのか。」

「大翔は?どうするの?」

大翔は黙ったまま、頬杖をついた。

「大翔…さ、もしかして…」

「ご察しの通りだ。「まだ」記憶が戻らない。」

「やっぱりか…で、中学入って初めて、記憶が戻りそうなの?」

「分からない。神坂 芽衣…あいつを見ると、ぽっかり空いてた暗闇の記憶が()けようとする。そこに踏み込んだら、奈落へ落ちそうで、怖かった記憶が戻りそうになる…。」

「大翔…。」

竜也が大翔の背中に手をやる。

「大翔、部活、行こう。」

大翔は少し間を置いたが、頷いた。

部室には、すでに香山を含む部員が揃っていた。

「あ、大翔さん!」

香山が手を振った。

「香山じゃねえか、珍しいな。」

「今日は茶道部お休みです。」

その会話に、音華が割って入る。

「大翔、来なさい。」

「…。」

大翔が俯きながら歩み寄る。音華は腕を組んで、足を組んで構えている。

「何があったのか…話しなさい。」

音華はトーンの低い声で言う。全員が心配そうに見つめた。

「話せない。」

「どうして!?どうして1人で抱えるの!?」

音華が立ち上がる。

「話そうが話さまいが、変わらねえからだよ!!」

大翔が机を叩いた。

「何なんだよ、何が理由で、こんな事になってんだよ!」

大翔が俯く。

「神坂を見ただけで、頭痛がする…!椿!」

「っ?」

椿が反応する。

「お前を最初に見た時、頭が勝手に、記憶を辿り始めた…。」

大翔が音華に視線をやった。

「音華、お前もだ、何故か、特定の人に会うと、勝手に記憶を辿るんだよ!!意味わかんねえ!」

「ひ、ろと?」

音華が怯える。落ち着いた大翔は、椅子に座った。

「もういい、俺は大丈夫だ。」

「今のを聞いて大丈夫だなんて、思えないわよ!!」

音華が大翔による。

「今日はもう帰る。」

大翔が勢いよく部室を飛び出した。沈黙を、竜也が破った。

「お、俺が話すよ、あいつの事情、いつか…誰かに話さなきゃならないと思ってた。3年もたったけど…。」

大翔に何があったのか。竜也のみぞしる知る世界に、相談部は、耳を傾けた。


「なんなんだよ。」

大翔は、帰り道に頭が勝手に整理を始めた。そして…。また、鎖が締められた。

「意味わかんねえ!ああ、くそ!」

大翔が壁を殴る。

大翔を3年間縛ってきたものが、3年目に、更に縛られた。強さを増す鎖。大翔は、更に恋愛を拒んだ。

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