音華 月寧(おとはな つきね)
音華 月寧
私は、幼稚園最初の1年間を拒み、年中から外にでた。見た事の無い広い世界が広がる外は、感動的なものだった。
小学校に入ってすぐ、私は彼に出会った。
彼はとっても元気の良い少年で、運動が出来て、そこそこ頭も良かった。
彼が廊下を歩いていると、彼のハンカチが落ちた。
「ねえ君。」
「ん?」
音華の呼びかけに、彼は反応した。
「ハンカチ、落としたわよ。」
音華がハンカチを差し出す。しかし、彼は私のことを見たまま、じっとしていた。そして、しばらくして、彼は口を開いた。
「お前、可愛いね。」
「!?」
彼の口から出た言葉を、一時たりとも忘れたことは無い。あまりにも衝撃的だったその言葉を。
それから、私は彼を気に止めるようになった。小学校の6年間、私はずっと彼を思い続けていた。今となっては、バカバカしいことだ。
彼は、幼稚園の時にも何度か見かけたことがあった。最初の方は、1人で絵を描いていたのに、ある日、少年が声をかけてから、楽しそうに笑うようになっていた。
いつからだろう、彼が変わったのは。
私がバカバカしいと思ったのは他でもない、彼の変わりようだ。中学に入ってからだろうか、彼の周りから人が消えたのは。居るのはいつも同じ人、しかも1人。何が彼を縛ったのか、私には分からない。
「月寧、部活行こ。」
友達の誘いに、首を縦に降った。今はそんな事はしてられない、私は部活でも、良い成績は残せていて、落ちこぼれに手を差し伸べる余裕も無かった。
中学2年の最後の大会、全国に繋がる大会で、友達の方は自信満々だった。でも私は違った。ピリピリした感情があり、少しのミスでもキレて、友達と殴り合いの喧嘩になった。こんなことをすると、女の私でも思う。
女って怖い。
部活は、両方が退部、私も、3年生に進級して、晴れて落ちこぼれの仲間入り。そこで私は、彼に出会い、あの縛りを解くため、部を設立したのだった。
「おい、また忘れたな!?」
大翔が音華にキレる。
「あんたが何も連絡しないのが悪いんでしょ!?大体、なんで私があんた達のエサを買って来なくちゃなんないのよ!」
「おま、エサって…。」
大翔たちのお菓子をエサ呼ばわりされ、大翔が落ち込む。
「安心したまえ、子狐君、そんなことだろうと思って、用意しておいた。さぁ!食べたまえ!」
椿が両手を広げた。それを見向きもせず、大翔はお菓子を食べ始めた。
私は何が好きでこんな連中と部活やってんのかしら。元気かな。美絢…。