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俺が恋愛をする理由なんかない!  作者: 怜刻
暗闇の過去
3/10

相談部

4人目の笹原(ささはら) 椿(つばき)を勧誘し、一時空き教室へ戻ることにした大翔(ひろと)達は、教室の鍵を開け、中に入った。

「うわ、(ほこり)すげぇな!」

扉を開けた瞬間、尋常ではない量の埃が舞った。思いっ切り吸った日には恐ろしいことになるだろう。

「何年も使われなかったからね、すぐには使えそうにないかな。」

竜也(たつや)がマスクを装着して、どんどん奥へと入っていく。

「なるほど、これは手間がかかりそうね。」

音華(おとはな)(ほうき)雑巾(ぞうきん)を持って、奥へ進む。

大翔と椿は、そのまま中へ入った。

「あまり好ましくないな、この教室は。」

椿がうろたえた。

準備を整え、集まった4人は、掃除を開始する。

「いい?私は箒で(ちり)や埃を担当する、竜也は雑巾がけをやってね。」

「分かりました。」

竜也は雑巾とバケツを持った。

「大翔と椿はそこに積んである荷物の整理ね。」

と、音華が教室の後ろを指を指した。そこには、天井まで積み重なる大量のダンボールやガラクタがあった。

「は!?コレを片付けんの!?しかもこいつと!?」

「あまり望ましくは無いが、音華さんの頼みなら仕方無い、子狐(こぎつね)君、君にはピッタリの仕事だと思うよ?」

椿は、見下す目で大翔を見て、指さした。

「コレからその薄汚い子狐にお似合いな仕事をお前もやるんだよ!」

大翔と椿は、喧嘩しつつ教室の後ろへ歩いていった。

「さて、忙しくなるわよー!」

音華が、物凄い勢いで箒をかけ、竜也が物凄い勢いで雑巾をかけていった。

「あ、あいつら、何者なんだ?」

「人間の動きを超越しているね、あれは。」

大翔と椿が片付けの仕事の手を止め、見入っていた。

「あれ、なんだこれ。」

ダンボールを開けると、大量の湯のみが出てきた。

そこに、音華がのぞき込む。

「あー、茶道部が使ってた湯のみ、ここに置きっぱなしだったんだー。」

「うわっ、なんだよ。」

「なによ、おっそいわね、こっちはもう終わったのよ。」

「早くね!?」

大翔が教室の方を見ると、先程まで埃が絨毯じゅうたん化していたハズの床は、本来のタイルがピカピカに見えていた。

「beautiful、さすがは音華さん、素晴らしい!」

「椿、あんた大翔より仕事遅かったらそこから落とすわよ。」

そう言って音華は、窓を親指で指さした。ここは4階だ。

「じょ、冗談がすぎるよ、音華さん。」

「私は本気よ、真面目にやりなさい。」

「了解しました。」

椿は、さっきとは違う動きで片付けを始めた。

「さて、この湯のみは洗えば使えそうね。」

音華は、湯のみの入ったダンボールを、水道の所まで運んだ。

「竜也ー!洗うわよー。」

「分かりましたー、今行きます!」

そして、2人はまたとんでもない早さで湯のみを洗い始めた。

「まったく、あいつらは。」

呆れた大翔は、ダンボールを何個か片付け、最後のダンボールを開けた。

「!」

そのダンボールには、大量の手紙が入っていた。

「これ、全部1人が書いたのか?」

ダンボールにパンパンに入った手紙、1枚を見てみると、ラブレターらしき文章だった。

「書いたはいいけど、渡せなかったってことか。なんでとってあんだよ。それに…」

「それに、こんなことしても無駄って言いたいの?」

「た、竜也!?」

そこには、既に湯のみを洗い終えた竜也が立っていた。

「大翔は冷たいねぇー、人の恋愛にも口を出すのー?」

竜也の口調は、大翔を完全に馬鹿にしている。

「少し黙ってろ、竜也。それより、コレ、どうすんだ。」

後に立っていた音華に顔を向けて言った。

「さーね、いつか取りに来るかもしれないし、とっておけば?」

「こんなの、取りに来ないだろ。」

そう言いつつ、そのダンボールを端っこに追いやった。

「さて、こんなもんかねー?」

音華がそう言い、辺りを見渡す。薄暗くて、光が反射しなかった教室は、大翔達が学習する普通の教室と、変わらない感じになっていた。

「凄いな、ここまで綺麗になるなんて。」

その後、部活で必要そうな物や、報告書を持ってきて、整理をして、部室を完成させた。

「やーっと出来たわ、部室よ、新鮮ねー。」

音華が元気よく伸びをするのに対して、他の3人は椅子にへたっていた。

「あー、もう掃除したくない。」

「お母さんの気持ちが分かるねー。」

「流石にハードだったよ、僕も危うく薄汚い子狐になるところだった。」

「それどーいう意味だ!?」

大翔が、薄汚い子狐に反応する。

「ちょっと、まだ一息つくのには早いわ。」

音華が報告書を持って、机の中央に置いた。

「コレ、報告書か?」

大翔が椿との口論をやめ、目をやる。

「そう、報告書に書かないといけないことがね、書けないのよ、初っ端から。」

そう言って、音華は報告書の部活名というところを指した。

「ああ、そういえば、この部活、何するかまだ決まってなかったね。」

竜也が、背もたれに寄っかかりながら言った。

「そう、コレが一体何部なのか、決まってなかったわ、盲点だったわ…。」

「お前、なんでそれで顧問確保できたの?」

大翔が呆れ顔で音華を見た。

「それで、この部活は、一体何をするんだい?」

椿が問う。

「どうすっかねー?ま、運動部ではないってことは確かだろ?」

「ええ、このメンツで運動部は…」

そう言って音華が3人を見る。出来ない、とは言えない。竜也はそもそも運動部で、大翔も小学6年生まで、サッカーをしていたそう。椿は体育の成績が5で、音華も同様だ。

「できない、訳ではないけど、運動部にする気はないでしょ?」

「ああ、出来れば楽な物で頼む。」

大翔は手を挙げた。

「となると、文化部ね、基本何でも有りじゃない?」

「茶道部にするなら、僕はここからいなくなるから。」

そういって椿は、いつの間にいれたのか、お茶をすすっている。

「それは分かってるわ、竜也、何か意見ないの?」

「俺?んーー、そうだな、文学部なんて…」

「却下よ。」

「ひどいっ」

竜也の意見をガン無視で会議が進む。

「ん?」

すると、音華が何かひらめいたように、目を見開いた。

「どうしたー?トイレかー?」

大翔が棒読みで問う。

「相談部…そうよ!相談部がいいわ!!」

「うお、ビックリした、て、相談部?」

大翔、その他2人も、音華の大声に体が飛び跳ねる。

「相談…てことは、ここの生徒の相談に乗るってことかい?」

「そう、落ちこぼれを脱退するには、まずは他の生徒の信頼を得ないと!」

「なーるほど、面倒くさそうだが、やるしかないか。」

大翔が椅子の背もたれに寄っかかりながら、天井を見た。

「こうしちゃいられない!早速ポスターを貼るわよ!!」

そう言って、音華とその他3人は、作ったポスターを学校中に張り出した。


――嵐宮(あらしみや)中学 相談部――

――悩み事、恋愛相談、その他、 ――

――なんでも受け付け! ――

――御用の方は、D棟4階相談部 ――

――部室まで!! ――


「ポスター、貼り終わったぞー。」

大翔と、椿が、汗を流しながら教室へと戻ってきた。

「あ、お疲れ様。」

音華が、済まし顔でお茶を飲みながらあいさつをした。

「お、音華さん、僕と子狐に対しての仕事がハード過ぎないかい?」

椿が汗を流しながら椅子に座った。

「あんた達は不器用なんだから、力仕事くらいはやりなさいよ。」

「なるほど、そういうわけか。」

大翔が苦笑いで椅子に座った。

「来るかな、依頼者。」

竜也が心配そうに話した。

「さあね?でも、問題はそんなことより、部員よ。」

現在の部員は4名、正式に部活と認められるのは、5名からだ。最低でも、あと1人は必要になる。

「ポスターにも、相談「部」て書いちゃったし。」

「それなら、僕に任せてくれたまえ、僕の知り合いにも1人、僕と同じ1匹狼が…」

「椿と同じ落ちこぼれがいるのね、紹介しなさい。」

椿をガン無視で話を進める。

「その言い方は心が痛むね。」

教室を出てから、少しして、3年1組の教室へやってきた。

「ここ?」

音華が指を指す。

「ああ、少し待っていてくれ、すぐに呼んでくる。」

そう言うと、椿が教室へ入っていった。

少しして、教室から、椿と、もう一人男が出てきた。

「さぁ、紹介しよう、僕の知り合いの1人の、香山(かやま) (ゆう)だ。」

「こんにちは、香山 祐です、祐でも香山でも、好きな呼び方でどうぞ。」

身長は中1に間違えられそうなくらい低く、とても男とは思えない顔立ちだ。

「か…」

大翔は、隣にいた音華に違和感を覚える。

「な、どうした、おとは…」

「可愛い!!」

その瞬間、音華が、香山に飛びかかり、抱きついた。

「!?」

3人はその場に立ち尽くした。

「ちょ、やめてください。ちょっと、3人とも助けて…て、聞いてます?」

もがく香山を、3人は見つめるだけだった。

しばらくして、音華は正気を取り戻す。

「と、取り乱したわね。申し訳ないわ。」

「野獣め…。」

ボソッと大翔が呟いた。

「なんか言った?」

「いえ、何も…。」

音華が咳払いをした後に、自己紹介を始めた。

「私は音華(おとはな) 月寧(つきね)、よろしくね。」

有馬(ありま) 大翔(ひろと)だ。」

倉沢(くらさわ) 竜也(たつや)、よろしく。」

全員(椿の事は知っているので)の自己紹介が終わって。早速本題に入った。

「香山君、うちの部活、入ってくれるわね?」

「実は…まだ、入れません。」

香山はか細い声で言った。

「まだ?どういうことだ?」

大翔が問う。

「僕は、依頼主として伺いたいんです。」

「へぇ、悩みがあると?」

竜也が後ろから言う。

椿が、補足で説明する。

「祐君の依頼を聞いてくれたら、祐君自身も相談される側になるみたいだよ?」

「なるほど、俺らに出来ることなら、なんでもしようじゃないか。」

大翔が、強気にでる。

「じゃ、ひとまず部室へ行きましょうか?」

4人に連れられ、香山は相談部部室へ向かった。

「あれ、ここ空き部屋になったはずなのに、こんなに綺麗になってる。」

香山は、何年も使われていなかった空き部屋に驚く。

「そうでしょ?私達が掃除したの。」

「それはいい、早く本題に入って貰おう。」

机に座っていた大翔が、香山を()かす。

「は、はい、頼みっていうのは部活の話で。」

大翔に()かされて、少し焦り気味に話す。

「部活?香山君、部活に入っていたの?」

「はい、茶道部で…。」

「なっ」

4人が驚きを見せる。廃部になった部活の部員だった。

「ほう、廃部した部活の部員か。」

大翔が威圧するように問う。

「ちょっと、大翔やめなって。」

竜也が止めに入る。

「部活の部員は、どんどん辞めていって、気づけば、部員は2人に…。」

香山は俯いた。

「ん?2人ってことは、最後にはもう1人いたってこと?」

「はい、相談の内容は彼女のことです。」

香山は顔を上げた。

「彼女は、荻名(おぎな) 梨乃(りの)と言います。部長をやっていました。」

「荻名さんか、彼女は最近少し、暗い雰囲気を醸し出しているような…。」

椿は思い出しながらそれを口に出す。

「そうなんです、荻名さん、部活が廃部になってから、まったく元気が無くて…それで…。」

香山は、そこで話を止めた。

「なるほど、話は分かったわ、要は、その荻名さんをどうにかして欲しいってことね?」

音華が問う。

「は、はい、頼みはそれだけです。」

「よし、香山君は、入部届け、書いときなさい。」

音華は、香山に入部届けを渡した。

4人はひとまず、荻名のいる3年5組へ来ていた。

「失礼しまーす。荻名さーん、いますかー?」

大きな声で音華が教室に呼びかける。

「ちょっ、声がでけーよ、」

すると、怪しい目でこちらを見つめる、ポニーテールで小柄な少女がいた。

音華がそちらをチラリと見る。

「あなたね、荻名さんって。」

「な、何の用?」

「あなた。茶道部だったんでしょ?」

音華は直球で聞いていく。

「っ!」

荻名は目線を逸らした。

「だったら、何だって言うんですか。」

荻名は音華を睨む。

「あなた、元気が無いみたいね。」

「当たり前じゃないですか。」

荻名は窓の外を見つめながら言った。

「ずっと率いて来た茶道部の部員が、次々に辞めていって、ついには廃部、それって、部長の私の責任。そんな責任を背負って生きて、楽な顔は出来ないわ。」

荻名は髪を(いじ)って立ち上がった。

「もう寄ってこないで。」

「待ちなさい。」

教室を出ようとする荻名を、音華が止めに入る。

「茶道部、またやりたいんでしょ?」

すると、荻名の体が反応した。

「で、出来るんですか?」

「100%ではないわ、でも、出来る確率は高いわ。」

荻名が音華の方へと歩いていった。

「わかりました。では、任せます。」

「任されました。」

音華は、荻名を連れて部室へとむかった。

「あ、香山君。」

「お、荻名さん!?なんでここに!?」

突然の登場に香山がビックリする。

「来ちゃ悪いかしら?」

荻名が香山を睨む。

「さて、御三方、仕事よ。」

音華が腰に手をやって3人を呼んだ。

「茶道部を作るって話、勝算はあるのかい?」

椿が音華に問う。

「正直。この作戦は成功しにくいわ、部員が集まるかなんて分かんないし、しかも廃部した部活なんて…。」

4人はしばらく考える時間があった。4人とも「うーん。」といって考える。

「あ、そうだ、次の朝会を使おう。」

先に案を出したのは大翔だ。

「次の朝会?一体どうするっていうのよ。」

音華が聞く。

「次の朝会に、部活動報告会っていうのがあんだけど、そこを利用しよう。」

大翔が人差し指を立てて話をする。

「でも、部活動報告会って、どんな事をしているかを報告するんでしょ?まだ設立できてない部活を、報告会に出すなんて、許可されないわ。」

「そう、だから、俺らで新しいコーナーを作るんだよ。」

そう言うと、大翔が紙に文字を書いて、みんなに見せた。

「新設部紹介?」

「そう、俺ら相談部と、茶道部が出ても、そう時間は取らないでしょう。」

「まあ、それもそうね。」

音華は、納得した。

「決まりだ、じゃあ先生に交渉して来る。」

大翔はそう言って、紙を持って部室を出た。

無論、大翔だけが行ったところで、成功しないのは目に見えていたが、誰も口に出さなかった。

音華と大翔と竜也から始まった相談部、しかし、その相談部が大翔の嫌いなものを引き寄せるとは、知り得なかった。


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