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俺が恋愛をする理由なんかない!  作者: 怜刻
暗闇の過去
2/10

落ちこぼれた勝ち組と落ちこぼれた落ちこぼれ

今年もこの季節がやって来た。やって来てしまった。空は快晴、雲1つ無い空が俺らの生存を歓迎する。つい最近まで何もなかった木々は、気づけば鮮やかなピンク色の桜が咲いている。外には、ピカピカのランドセルを背負って、走り回りながら登校する、一年生らしい小学生が居る。ランドセルが体よりも大きいので、まるでランドセルが走っている様に見える。

ここまで言えば、今日がどんな日なのか、察しの良い人は、俺が一体何に怯えているのかも分かったのではないだろうか。

新学期

普通の人達なら、新学期だから心を入れ替えよう、だとか、新しい友達を作ってみよう、だとか、そう思うだろう。だが、そんな事より、俺は絶望という波に飲まれないようにするので精一杯だ。

我々(他にも居るだろうという勝手な解釈)「無友好生徒」通称「ぼっち」が絶望に飲まれる理由、それはクラス替えだ。中学に入ってから、何故か友達が作れなくなって2年、小学校からあったはずの、毎年同じクラスの生徒が変わる、という事に、抵抗が出てきてしまった。

そして今年、変わらず友達のできない俺、有馬(ありま) 大翔(ひろと)、年齢=彼女居ない歴、成績平凡、ルックス平凡(最悪とか、自虐は出来ない)、は、新学期で会話の弾む教室に1人、読書をするのであった。

「あれ、大翔?また同じクラスだ。」

そう言って大翔に向かって呼びかける。

ああ、俺にもやっと新しい友達が…。

と、言いたいところだが。

「ああ、そうだな、安心したぜ。」

残念ながら、彼は新しい友達ではない。

倉沢(くらさわ) 竜也(たつや)、俺の唯一の友達である。

「その調子だと、今年も友達作ってないな?」

「う…まあな…。」

図星を突かれた大翔は、とっさに視線を逸らした。

「お前な、彼女が居ないんだったら、友達くらい作れ!」

竜也は、そう言って教科書で大翔の頭を叩く。

「いっ…、叩く事ねえだろ、ていうか、俺は恋愛が嫌いなんだ!」

「あーはいはい、たく、中学3年生にもなって、恋愛をしないとは、人生損してると思うんだけどねぇ。」

「損なんかしてない。恋愛なんて消えれば良い。」

「うーわ、完全拒否かよ、流石に引くわ…。」

竜也が一歩後ろに下がって、ふと、後ろのドアから入って来る女性に目がいった。

「ん?どうした?竜也。」

「大翔、あの人、誰だろう。」

竜也はその人から視線を逸らそうとしない。

「ああ、確かに見た事ない奴だな。」

「転入生かな!ねえねえ、同じクラスだよね!」

「知らねえよ、俺にとっちゃ、敵に変わりはねえよ。」

確かに、その女性は、俗に言う、可愛い、というヤツなのだろう。腰まで伸びた髪は、まるで絹の様にサラサラとしていて、脚が長い。それでいて顔立ちも良い方なのだと思う。

「ごきげんよう。」

そう優雅に挨拶をしている。どうやら性格も良いようだ。

「表ではな。」

「大翔…?」

思わず声に出してしまう大翔に、心配そうな眼差しを向ける竜也。しかし、そんなの気にせず、大翔は女性を睨み続ける。

ああいう可愛いとか言われている奴は、大体がきっと自覚している。そういう奴は、表でいい顔して、裏で本性を出している。表も裏も清くて正しい奴なんて、少なくともこの日本に居ない可能性がある。9割が裏で性格が変わるタイプだ。あいつも見た感じそうだと思う。誇らしげな顔が見え見えだ。周りから浴びる視線に、快楽でも感じているのだろう。

「あいつ、知ってるぞ、同じクラスになった事があった気がする、確か名前は…。」

大翔は、頭の中で、時間を戻し、記憶を辿る。

「ああ、音華か。」

音華(おとはな) 月寧(つきね)、ルックスもそこそこで、勉強も出来て、運動神経抜群、多分欠けてる部分とか無いと思う。

「あー、やだやだ、完璧な人ってコワーイ。」

「大翔、棒読みだな。」

そんな会話でやり取りしていると、音華がこっちに向かって歩いてくる。

「あれ、なんかこっち来てない?」

竜也が、動きを止める。音華は2人の近くまで寄ると、誇らしげな目をしながら腕を組んだ。

「あなたたち、さっきからとても視線を感じるのだけれど、何か用かしら?」

「は?俺ら以外にも周りの連中はずっと視線を向けていたが?」

大翔がそう言うと、周りの男子は一斉に視線を逸らした。

「残念だけど、貴方達は生憎タイプじゃないわ。」

からかうように2人にそうなげかける。

「悪いな、お前みたいな性根の腐った女に興味はない、生まれ変わってから出直せ。」

大翔が鋭い目つきで対抗する。

「ちょ、大翔、女の子にそれはダメだって..」

竜也が大翔を止めに入る。

「なっ、このクソが..」

音華が一瞬、例の裏の顔を出してきた。しかし、我に返ったのか、すぐいつもの表情に戻る。

「おや、怒るってことは自分のこと分かってるってことかー、じゃあ生まれ変わって出直して来なよ。」

大翔が立ち上がって教室を出ようとする。

「待ちなさい。」

が、音華がそれを止めに入る。

「何だよ。」

「あなた達、放課後私と一緒に来て欲しいの。」

「はぁ?やーだーねー、お前の頼み事なんか聞くか、バーカ。」

大翔は舌を出して超拒否する。

「お、俺行きます!」

竜也は、勢いよく手を挙げて音華の方を向く。

「な、おい竜也...」

「そこの竜也?君は来る見たいだけど、あなたはどうするの?」

「大翔、行ってみようよ、お願い。」

竜也が手を合わせて大翔に頼む。

「竜也そこまで!?..分かった、行くだけ行くから。」

そう言って賛成しつつ、音華を睨む。

そして1日の全ての授業が終わり、放課後に入った。竜也は早急に帰り支度を済ませ、音華の席へ急いでいた。大翔は、「後で行く。」と言ったが、なかなか帰ってくれないので、しぶしぶ付いていくことにした。

校舎をまたいで着いた場所は、今は使われていない空き教室だった。この大翔達が通う中学校、「嵐宮(あらしみや)中学校」は、A棟からD棟校舎がある。D棟は殆どが部室で、この空き教室も元々は茶道部の部室だった。因みに茶道部は、部員数の問題で廃部になった。

「ここ、空き教室ですよね。」

「そうよ。」

「何しに来たんですか。」

すると、音華が鞄から紙を3枚ほど取り出してきた。

「あなた達落ちこぼれに朗報よ。」

「落ちこぼれって、お前もだろ。」

「俺、一応陸上部何ですが!?」

この嵐宮中学校は、部活が非常に盛んな学校で、どの部活も全国常連と、好成績を残すほど熱心である。入学した殆どの生徒は、何かしらの部活に所属し、部活に入らない生徒は3学年全校合わせても10人と居ない。その10人は、落ちこぼれとまでいわれている。

残念ながら俺、有馬 大翔は、その10人に含まれる。

「あら、あなた部活に入ってたのね、しかも運動部?雰囲気がまるで落ちこぼれだわ。」

「酷くないっすかね!?」

竜也が鋭いツッコミを入れる中、大翔は何も言わずに立っている。

「じゃあ、対象は大翔、あなただけね」

「いきなり呼び捨てかよ、馴れ馴れしい。」

音華は呆れた表情で大翔を見る。

「で、俺らに何をさせようっていうんだ?」

大翔が面倒臭そうな表情で教室を見つめる。音華がここぞとばかりに、1枚の紙を大翔に渡した。

「部活を作るのよ!」

音華が勢いよく教室の扉を開けた。

「そうか、帰る。」

「ちょ!?」

大翔は(きびす)を返し、真っ直ぐ下駄箱に向かう。

「ま、待ちなさい、いや、待ってください!」

音華の凄まじい動揺っぷりが見える。音華が大翔の制服を掴んだ。

「何だよ、もういいだろ。」

「ちょっと、何なのそれ、部活よ!?あなたもこれで落ちこぼれを回避できるわ!悪い話じゃないでしょ?」

音華が必死に大翔を説得させようとする。

「お前、ここに来る前に職員室寄ったよな、あれはなんだ、」

「顧問を探していたの、顧問が居ないと、部活は成立しないんでしょ?生徒手帳に書いてあったわ。」

音華が生徒手帳を取り出してみせた。

「ああそうか、お前はどこを見てたんだ!?そしてその顧問に何を聞いたんだ!?」

大翔が大声で叫ぶ。

「ちょ、何なのよ!」

音華が驚きを見せる中、竜也が割って入る。

「部活を設立する場合、顧問が1名以上必要。」

生徒手帳を見ながら竜也が項目を読む。

「知ってるわ、顧問なら1人確保したわよ。」

「その次の項目だね」

竜也が音華の方に生徒手帳を向けて、その項目を指さす。そして大翔がその項目を言う。

「部活を設立する場合、部員数5名以上を必要とする。また、それ以下での設立は、同好会扱いとする。」

呆れ顔で大翔が溜息をついた。

「へ?そんな項目あったかしら?」

音華の間抜けな反応で、大翔がさらに溜息をついた。

「つまりだ、今この場に居るのは3人、最低でも後2人は集める必要がある。今この場で作ったところで同好会扱い、落ちこぼれの肩書きは何ら変わりないんだよ。」

「そ、そんな..。」

音華が俯いて嘆いた。大翔がそれを見て、頭を掻いた。

「あーもう、あくまでも今ってだけだ、部員集めてまた後日作ればいいだろ。」

「....なのよ。」

「え?」

音華が俯きながら何かを呟いた。しかし、声が小さいので2人とも聞き取れない。

「ダメなのよ!それじゃあ!」

音華が怒鳴り声を上げた。その目にはうっすら涙を浮かべていた。

「お、落ち着け、じゃあ、今から、今から集めればいいだろ?な、な?」

突然の大声に大翔が両手を挙げて動揺する。

「あなたはいいわよね、その地位に慣れてて。」

「は?急に何を..。」

「私はね、2年間バトミントン部に居たの。」

音華が、今のままではダメな理由を話す。

「でも3年に上がる直前の大会で、部員と喧嘩して、両方が辞めさせられたの。」

「そうか、それは辛かろうに。」

大翔が視線をそらして言う。

「この学校では、帰宅部は落ちこぼれ、そんなの、私には許されないのよ、いつまでも、あの完璧さを保たなければならない。」

音華の目からは、とうとう涙がこぼれた。

「なんだよそれ、そんなに完璧さを求めて、一体何になるって言うんだよ?」

「家庭の事情よ、私にも何故だかはわからない。でも、こうしないと、ダメなのよ。」

しばらく、この空間には沈黙が続いた。3年間落ちこぼれを体験してきた大翔には分からなかった。部活で好成績を出してきた、言わば勝ち組が、落ちこぼれる気持ちが。

最初に口を開いたのは大翔だった。

「その、なんだ、お前の事情は分かった。ようは1日でも早く、落ちこぼれから上がってきたいわけだ。」

「そうよ。」

「だったらすぐに集まるんじゃないか?お前、結構人気あるし、募集すればいくらでもさ。」

音華は、落ちこぼれながら、学校中で人気がある。募集さえすれば、10人以上は集まるだろう。

「あなた、何にも分かってないのね。」

「え?」

音華が肩に力を入れる。

「募集して、もし見ず知らずの人が来たらどーすんのよ!?」

「え、ダメなのかよ、向こうはお前のこと知ってるし、いいんじゃ..」

大翔は音華の威圧に仰け反る。

「あなた、女が嫌いなんでしょ?」

「なっ、どこでそれを...。」

図星を疲れた大翔は動きを止めた。

「あなたで例えると、その嫌いな女がわんさか寄ってきてるようなもんよ。」

音華は、大翔でその嫌な程度を例えた。

「な、成程、それは辛い。」

「そうでしょ?」

「でも、そんならどうやって部員をあつめるんだよ。」

正直この2人では部員は集まらないだろう。

「あなたは、誰か帰宅部は知らないの?」

「悪いな、この3年間は新しい友達をつくっていないので。現在は竜也のみです。」

「なっ、3年間も中学生やって友達出来てないの!?見た感じ恋人も居ないようだし、あなた一体?」

そう言って、音華は一本後ろへ下がる。

「竜也と同じ反応すんな!てか、お前も同じようなもんだろ!」

大翔が音華を指さしながら抵抗した。

「うっ、そ、それはそうだけれど....。」

「困ったな、もう俺らじゃどうしようもないが。」

大翔は腕を組み、打開策を考える。

「竜也、だったかしら、あなたはどうなの?帰宅部の友達は居ないの?」

「あ、居るには居るんですが…。」

「なんだ、居るんじゃない、早く紹介しなさいよ。」

3人は落ち着きを取り戻した。

「でも、ちょっと問題があるというか…。」

「問題?どんな。」

大翔が問う。

「大翔が嫌がる様な人だよ。あ、女の子では無いよ?」

「俺が嫌がるような人?」

大翔の疑問は解けないままだ。

「とりあえず紹介しなさい。話はそこから。」

音華の提案で、とりあえずはその人の方へ行くことへした。その人は3年の、大翔達の隣のクラスだった。

「あそこに座ってる人。」

竜也が指を指した方向には、窓の外を見ながら頬杖をついた、ザ・イケメンが居た。

「結構イケメンだな。」

「そうね、モテそう。」

3人は教室に入り、イケメンの方へと向かった。

「あなた、ちょっといいかしら。」

音華がイケメンに話をかけた。

「あれ、音華さんではないですか、この僕に何か?まさか、お付き合いの申し…」

「帰ろう。」

イケメンがセリフを言い終わる前に、2人は背を向けた。

「ちょ、2人とも、待って!」

「おやおや、竜也君、あの人達は照れ屋さんなのかな?」

「椿はだまってて!待っ2人とも!」

竜也が強引に2人を連れ戻し、なんとかイケメンの方に持ってきた。

「何こいつ、腹立たしいから燃やしていい?」

「おやおや、君は一体誰だい?空気に隠れてて見えなかったよ。」

大翔に対して直球に悪口を浴びせるイケメン。音華とはまるで扱いが違った。

「しょ、紹介するよ、笹原(ささはら) 椿(つばき)、部活は無所属だよ。」

「やあ、音華さん、ご紹介に預かりました。(わたくし)椿と申します。」

椿は丁寧なお辞儀で音華に挨拶したあと、大翔に凄まじい視線を送った。

「彼は、大翔、仲良くしてね…?」

竜也の頼みを無視し、椿は大翔とバチバチやっている。

「さっきは済まなかったね、薄汚い子狐くん、やっと見えるよつになったよ。」

「その達者な口縫い合わせてやるよ、悪口生産機。竜也、縫い針と糸持ってこい。」

「本当にやるつもりなの!?やめて!?」

竜也は、2人をなだめるのに必死になる。

「か、彼が落ちこぼれの子?」

音華が話を始めた。

「僕を落ちこぼれ扱いとは、音華さん、厳しい!」

「あなたはちょっと黙ってなさい。」

音華と椿のテンションはまるで逆さだ。

「そ、そうだよ、俺の友達の中だと、帰宅部は椿だけだから…。」

「それで、話って言うのは、なんなんだい?」

椿が髪を整えて振り返る。

「実は、私達の部活に入って欲しいの、部員が足りなくて、募集してるのよ。」

「そういうことか。しかし達也君、君は確か、陸上部では?」

「掛け持ちだよ、学校側も許可は出してるし、この部活もそんなに活発にはやらない予定だからな。」

大翔が説明をする。

「君には聞いていないんだけどね?薄汚い子狐君。」

「あんだと、悪口生産機、ワルさん。」

「なんだい、その略し方は。」

2人は、またバチバチはじめる。

「と、とりあえず、椿さん、部活、入ってくれるかしら?」

音華が、そこに入る。

「音華さんの頼みとあれば、何処へでも行きましょう。」

「そ、そう、ありがとう。」

椿の加入により、部員が4人となった。

「音華さんと、子狐、君達はまるで別人だね。」

椿が2人を交互に見る。

「音華さんはもとは勝ち組。そこの子狐は、落ちこぼれ中の落ちこぼれ。落ちこぼれた勝ち組と落ちこぼれた落ちこぼれ。その2人が一緒の部活に…。」

椿は目を閉じていたが、大翔を睨んで言う。

「薄汚い子狐、同じ部活でも、音華さんと同じだとは思うなよ?」

「わかってるよ、分かったから口を閉じろ、ワルさん。」

2人の仲が心配だが、4人はひとまず、部員集めを後にし、空き教室に向かうことにした。

落ちこぼれた勝ち組と落ちこぼれた落ちこぼれが、今、肩書きは違えど、同じ立場に立とうとしていた。

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