3話
スランプ状態で搾り出すのはなかなか難しいですね。
「うぉら!」
「ギャイン!」
俺は今、狼の群れに襲われている。森の中だから分からんが、かれこれ3匹はすでに倒した。
最初はなんか視線を感じるなと思い、獣相手だったらせめてもの気休めとして左腕に焦げた白衣と木の枝を厚めに巻き、わざと噛み付かせることでカウンターを狙う戦法をとることにした。
そしてしばらくすると、案の定狼の群れが姿を現した。
と、言うかあちらが隠れているつもりらしいのだが、なんとなくわかる。こう、気配って言うの?後臭い。そんな感じの奴。
俺に武道の経験は無いんだがな。と、思いながらも便利なので出鼻をくじく勢いで最初の1匹を棍棒で叩き潰した。
他の狼達は奇襲がばれている事が想定外だったのか、散開して警戒していたが、数の点こちらが圧倒的に不利なので混乱から立ち直る前にさっさと叩き潰すことに。
森の中では縦に棍棒を振るうのは楽なんだが、横に振るうとどうしても木が邪魔になる。なので2匹目に棍棒をぶん投げた。
棍棒は3匹目の隣に居る2匹目に命中。胴体をしたたかに打ちつけ、動けなくなっているようなので3匹目に踊りかかった。
流石に混乱からは立ち直っているようで、俺の喉笛を噛み千切ろうとしてきたが、間に白衣を巻いた左腕をねじ込み、噛ませた。
そして動けなくなったところに喉笛を掴み、思い切り握る。結果、案外簡単に潰れた。
そうして虫の息になっている3匹目を放置して、4匹目に取り掛かっているところだ。一箇所に固まっていると包囲されて死ぬのは素人考えながらそうなりそうだと思ったので、足を止めずに倒したら即座に視界に入ったものから排除している。
4匹目は周りより一回り大きい。この群れのボスか?
ともかく、俺は左腕で喉を守りながら突っ込んだ。
それに対応してあちらも向かってくるが、右腕を振りかぶる。
一直線に向かってきたボス狼(仮)の側頭部に渾身の右フックをくれてやる。
脳がシェイクされたのか狙いがぶれるが、それでも噛み付こうとするボス狼(仮)。これだからケダモノは嫌なんだ。
俺はボス狼(仮)をヘッドロックすると、そのまま捻り、全体重を乗せた。ボキリと嫌な感触がする。
直後、他の狼の遠吠え、どうやら逃げるようだ。助かった。
今回は運がよかったと考えるべきかな?まだ興奮が醒めていないので噛み付かれた左腕の具合は分からないが、緩衝材に巻いた枝のおかげで大事には至っていないはず。
血の臭いを辿って別の獣が来ないとも限らない。だけど興奮で色々と麻痺しているうちにやることをやっておかないと。
俺は狼の死体を集めると、腹の毛皮を下の皮ごとつかみ、左右にベリっと引き裂いた。
そこには内臓がぎっしり、とりあえず、心臓と肝臓でいいか。
それっぽいのをぶちりと引きちぎり、咀嚼する。うええ、血なまぐさい。塩と胡椒が欲しい。
それでも貴重な水分とビタミンであるため、顔をしかめながら食べきる。後3匹分あるんだよな。
しょうがないのでかばんから当初腰に巻いていた最後の白衣を出し、心臓と肝臓を包み、かばんに詰め込む。駄目になる前にさっさと食べきらないと。
血の臭いと獣臭が感じられるくらい余裕が戻ってきたが、いつまでもここには居られない。出発しよう。
俺は狼の肝臓って寄生虫とか大丈夫だったっけ?とか考えながら棍棒を拾い、その場を後にした。
予備の服を持ってきたがまた戦闘になったら無駄になるため着替えるわけにもいかず、狼の血と俺の汗と一回すっ転んで泥が付いた上着のまま行軍していた。転んでから上だけではなく、下にも気をつけているため、どうしても行軍速度が下がる。
途中蛇とかが保護色になっていたりしてかなり焦ったが、棍棒で打ち殺し、虫を振り払いながら進む。何故か虫に刺されない。それとも虫の針が通らないほどに皮膚が丈夫だと言う事か?ガラスを踏んでも平気だったし。
まあいいか。汗もそれほどかかないし、棍棒と咀嚼中の心臓を手に進む。口周りは血でべっとりだろう。
道中血の臭いに釣られたのか、犬頭の二足歩行な生き物や腰ミノチビ禿げ、ゼリーもどきが出てきたが、脳天とかに棍棒をくれてやると頭などを四散しておとなしくなった。流石にあれらを食べる気にはならない。
どのくらい進んだか・・・・・・太陽がもう昼をとっくに過ぎているため、さっさとどこか日が沈む前に屋根のある場所に着きたい。
そう考えていたら森から抜け出せた。遠くには柵と屋根が並んでいるのが見える。村かな?
このまま口周りが血で汚れていてもアレなので白衣で拭う。これでもかと言うほどに拭う。
よし、これで多分大丈夫だろう。他は仕方がない。水浴びでもさせてもらってから着替えよう。
見えているなら後は楽勝だ。村へ入ろう。
「止まれ!」
「む?」
門番と思しき人に止められる。
「この村に何の用だ?」
「旅の用品と1泊の宿、ついでに水浴びを」
その場でてきとーに考えた嘘をでっち上げた。水浴びがしたいのは本音だけど。
「そうか。この村には宿と言った上等なものは無い。村長にでも交渉して泊めてもらえ。旅に必要なものはあいにく保存食と火打石くらいしか出せないと思うぞ?」
「十分です」
「ならばいい。入れ」
槍で通せんぼしていた門番に通される。やったぜ。
「あ、ところで村長の家はどちらで?」
「一番大きな家だ。すぐにわかるだろう」
「左様で」
水浴びがしたいのでさっさと行くことにした。
俺は村長の家を見つけたので早速向かい、ドアを叩いた。
「すいませーん、旅のものですが、一晩泊めてもらえませんか?お代は支払いますので」
「はーい、今行きます」
可愛らしい娘さんが出てきた。
「うわ、すごい格好。怪我とかしてませんか?」
「大丈夫ですよ。狼の返り血なので。出来れば井戸と一晩軒下を貸してもらえませんか?」
「狼に襲われたんですか?よく無事でしたね。ちょっとおじいちゃんに言ってきますから、待っててください。おじいちゃーん!」
おそらく孫と思われる女の子は見た目よりしっかりとした言葉遣いで祖父を呼びに行った。おそらく村長だろう。
「おお、良く来た若いの。井戸と宿じゃな?」
「はい、ええと、これで足りますか?」
俺は3つに分けてある袋から大きめの銀貨を一枚取り出した。
「半銀貨で十分じゃよ。だが、好意は受け取ろう。シェリー、お湯を沸かしてやりなさい」
銀貨が一番低かったら穴の空いた(多分)半銀貨が小銀貨5枚で大きいのが銀貨1枚くらいか?逆算してみた。
「ありがとうございます。あ、いきなりお湯に漬けると血が煮えちゃうので沸かしている間井戸を貸してもらえますか?」
「わかっとるわい。井戸に案内しよう」
「重ねてありがとうございます」
あの研究所と対応が違う?そりゃそうだ。あんな出会い頭に火を放ってくる奴等と一緒にしちゃ駄目だよ。
ともかく、一晩とは言え考える時間が出来た。湯浴みになったけど、終わったら保存食と火打石を買ってあそこから離れることを優先しよう。後は俺の身に何が起こっているのか、ここはどこななのかかな?
この世界では一番下から、小銅貨、半銅貨、銅貨、小銀貨の順となっております。