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童話

嫌われもののオオカミ

作者: 純白米

 遠い遠いある村に、ひとりのおばあさんが暮らしていました。

おばあさんは、村のはずれにひとりで住んでいました。

そんなおばあさんのところに、一匹の子どものオオカミが現れました。

オオカミは森で暮らしていましたが、迷って人間の村へ来てしまったのでした。


 おばあさんとオオカミは、お互いに驚きました。

なぜなら、おばあさんの村では、オオカミは凶暴な存在だからと、見つけたら殺してしまうという決まりがあったからです。

また、オオカミはオオカミで、人間は自分たちをすぐに殺してしまう凶暴な存在だからと、絶対に近づいてはいけないという決まりがあったからです。


 まだ子どものオオカミは、初めて会う人間におびえました。

いつも、親のオオカミに人間は悪いやつらだから近づくんじゃないよと教えられていたのです。

子どものオオカミがブルブル震えていることに気付き、おばあさんは近づいていきました。


「おやおや。きみは迷子かね。この村にいては危ないから、早く森へお帰り。」


おばあさんは子どものオオカミが落ち着くように、頭をなでてあげました。


「狼と7匹の子ヤギ、3匹の子豚に赤ずきん……可哀想に、オオカミはいつも嫌われ者。人も狼も、見た目で判断してはいけないよ。中には本当に悪い狼もいるのだろうけど、それは人間だって同じなのにねえ。」


子どものオオカミの頭をなでるおばあさんの手は、とても温かでした。


 そして、子どものオオカミは、おばあさんが教えてくれた方向へと歩き、森へ帰っていきました。

森へ帰った子どものオオカミは、仲間が大騒ぎしていることに気が付きました。


「おお、見つけたぞ!!こんなところに居た!みんな心配していたんだぞ!」


どうやら、迷子になった子どものオオカミのことを、みんなで探してくれていたようでした。

 しかし、少しばかり帰るのが遅かったようです。オオカミたちの中では、もしかして人間に殺されたのではという話になり、それに激怒した子どものオオカミの親が、人間の住む村まで我が子を探しに行ってしまったあとでした。


子どものオオカミは、急いで親を追いかけました。

どうか、どうか何も起きないで。


 しかし、それも少しばかり遅かったようです。

怒りで我を失っていた親のオオカミは、すでに人間を1人殺してしまっていました。

そしてその人間というのは、あの村のはずれに住むおばあさんのことでした。


 森へ帰ったオオカミたちは、子どものオオカミが無事で良かったと喜びます。

何が良かったというのだろうか。自分の子どもが帰ってくればそれでいいのか。

もう、あの優しかったおばあさんは 二度と帰ってこないのに。


「あのおばあさんが、一体……ボクたちに何をしたというのだろうか。

ただ、頭をなでてくれただけなのに。」


 子どものオオカミは我慢できずに、夜中に人間の村へ向かいました。

夜中に一匹でこっそりと 月の明かりだけを頼りに森を進んでいきました。

子どものオオカミは、どうしてもおばあさんのことを謝りたかったのです。

きっと、あのおばあさんにも帰りを待ってくれている人がいたはずなんだ。

こんなオオカミに優しくしてくれた、おばあさんだもの。

同じ家にいなくても、村中の人がおばあさんのことを慕っていたはずだ。

謝って許してもらえる話ではないけれど、謝らないと気が済まない、と。


 そうしておばあさんの家に行くと、そこには何人かの人が集まっていました。

「オオカミにやられたようだ……。くそ、だからこんな村のはずれに1人で住むのはよせと言っていたのに……!!」


子どものオオカミは恐る恐る近づきました。すると、それに気付いた人間が大慌て。

「大変だ!オオカミだ!撃ち殺せ!!」


人間たちは急いで銃を構えます。それに驚いた子どものオオカミは、急いで森へ逃げ帰ります。


「まだ子どもだぞ!撃つか?」

「構わん!ここに現れたということは、あのオオカミは人間の味をしめたのさ。いつか大人のオオカミになって人間の村を襲いにくるに違いない!」


ドン! ドン! ドン!!


弾丸は、子どものオオカミを貫きました。

森に逃げ込んだ子どものオオカミは、もう虫の息です。

薄れ行く意識の中で、月を見上げて願います。


「おとうちゃん、おかあちゃん。言いつけを守らないでごめんなさい。

このことを知ったら、きっと今度はもっと人間に怒るよね。

でも、ダメだよ。どんなきっかけがあろうとも、こうなってしまったら

人間もオオカミも、もうどっちも悪いんだ。

オオカミは森の平和のために、人間は村の平和のために。

どっちもただ、平和に暮らしたいだけなのに。こんなの絶対おかしいよ。


おとうちゃん、おかあちゃん

悪いのは、言いつけを守らなかったボクだから

お願いだから『人間』と ひとくくりにして怒らないで

このままじゃ悲しむ人が増えていくだけだから


おばあちゃん……ごめんね。ごめんね。」


 こうして、子どものオオカミは

誰に知られることもなく、静かに息絶えました。

子どものオオカミの最後の願いは 月だけが知っている。


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