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五、春

※ミス発見につき、最終話のみ再投稿しました

 そこからの回復は早かった。

 翌日、結局一晩中、文字通り胸を貸すこととなった後輩と一緒に出社した。

「…お前、答え出すん早すぎやろ」

 心配したこっちがアホらしい、と先輩は溜息をつきながらも、笑顔を見せてくれた。(一緒に出社ということでまた変な噂が立ったが、それは後に本当のことになったのであまりダメージはなかった)

 三日もすれば、以前のように戻り、仕事への支障も出なくなった。

 一応、精神科の病院にも行ったが、医者曰く「なんで来たんあんた」だ。自分の回復力が凄いのか、後輩のショック療法が恐ろしいのか。

 後輩には、その後正式に交際を申し込んだ。

「え、あの時のあれ、オッケーって意味だったと思ってたんですけど…」

 そのことでまた一悶着あったが、惚気話に等しいのでどうでもいい。

 周りの反応としては、「やっとか」が二割、「そんな話あったっけ」が一割、「嘘、まだそういうことになってなかったの」が残りだ。



 半年後。プロポーズをした。

「三年ですよ三年、私が告白してから。どれだけ待ったと思うんですか」

 そんな嫌味を言われて、だけど幸せだった。

 披露宴は、身内と、会社の何人か。奥方は産後すぐだったが、偶々近くに来たついでに、と顔を見せてくれた。


 子供は二人生まれた。上が娘で、下が息子。どっちも、後輩――妻に似て少し強引なところがあるが、手際の良さは俺に似た。夫婦で、将来独裁者か何かになるんじゃないかと心配している。



 奥方からは、今でも年賀状と暑中見舞いが届く。ヤツの財産は、母子二人が楽器店のバイトをしながら慎ましく暮らしていくには十分残っているらしい。少しずつ成長していくヤツの息子の写真は、見ていて楽しかった。


 子供たちがそれぞれ十歳を超えると、会社の東京進出に伴って家族で引っ越した。

 今では、ヤツの息子と自分たちの姉弟でよく遊んでいるらしい。娘があちらを妙に気にしているようで、父親としては気が気でない。



「ほら、遊んでおいで。お兄ちゃんもいるよ」

 妻が、自然公園で遊ぶ子供たちを、ヤツの息子の方に送り出した。

「久しぶりに、二人っきりでイチャイチャできるかな」

 二人でベンチに座り、ふ、と笑う。夫婦仲が円満なのは、双方が双方にやや依存体質だからだろう。多分、どっちかがいなくなったら残りは気が触れる。悪くはない関係だが、人間としてはやや心配だ。

「いいんじゃない。夫婦は一蓮托生って言うでしょ」

 そうかもな。言って、頬にキスをした。流石にこの歳で、しかも外で唇には恥ずかしい。

「…幸せ?」

 時々、そんな質問が妻から来る。そんな時は決まって、こう答える。


 幸せだよ。だけど、もっと幸せになりたい。

『幸せを望めよ、働きアリ』



 地面を見下ろして、アリの行列を見つけた。その横にキリギリスが止まる。

 行列の中の一匹のアリが立ち止り、キリギリスと見つめ合う。

 両者は数秒間そうした後、お互いが別々の方向へと動いた。

 このキリギリスは、恐らく冬を待たずに死ぬだろう。

 だが、アリはきっと、もっと自分の欲しいものを求めて歩き続けるのだろう。





 キリギリスが死んだ。

 キリギリスの名は、岡原 健治。親友だった。

 そして、アリはそれを踏み越えて望んでいく。

 アリの名は佐野 隆。幸せになろうと。

 どうもおはこんばんちは! 小山優です。

「アリとキリギリス」、楽しめましたでしょうか。

 執筆活動中では二つ目の「書いてる途中で涙出てきた作品」です。感情移入ここに極まれり、です。

 「魔法世界の奴隷と主人」の方は更新遅れ気味ですが、なんとか秋までには完結させたいと思っています。(夏休みまでと最初は言ってたのに…)


 自分、まだ学生なので、社会人編では矛盾や「それはねぇだろ!」な展開や、ホワイト過ぎる「アリ」の会社があるとは思いますが、お目こぼしをばお願いします…

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