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2 三人寄れば文殊の知恵

 翌朝、お城の中庭にて。

 バラの花を愛でていた王様は私に気づくと、目を丸くした。ついで、私の隣に立っている王妃様に、疑わしげな視線を注ぐ。

 彼女は、そしらぬ顔を保っている。王様はため息を吐いた。

「まいったよ。君がここまでやるとは」

「綾子は前回と同じく、たまたま異世界から落ちたのよ」

 ほっほっほっと、王妃様は笑う。だけど絶対にばれている。あきれている王様の前で、私は身を小さくした。

 しかし、このうそは見破られても、特に支障はない。大切なのは、私がリヴァイラと裏でつながっていることが露見しないこと。

 彼女は社交界では、猫をかぶっているのだ。そりゃ、あんな個性的な性格をさらけ出すわけにはいかないよね。

 王様は、私のそばにやってきて手を取った。

「綾子、ひさしぶりだ。きれいになったね」

「ありがとうございます」

 穏やかなまなざしは、六年前と変わらない。ちなみに王妃様も変わらない。変わったのは、ひとり息子のルーファスのみだ。

「この国へ来たのは、君の意志かい?」

「はい」

「君のご家族は?」

「了承してくれました」

 突然現れたリヴァイラと王妃様とロイに、父も母も妹たちも仰天した。異世界など信じられないと言う皆に、ロイが魔法を実演したりした。

 そして、満月の夜ならば世界を越えて行き来できること、手紙程度の軽くて小さいものならば、毎日やり取りできることを教えた。

 私は大学に休学届けを出し、毎日家に手紙を送って、次の満月の夜には一度帰宅することで、話に決着がついた。

「そうか」

 王様の声は深い。

「ルーファスと会ったかね?」

「昨日、一度だけ話しました」

「驚いていただろう?」

 彼は楽しげに笑った。が、私は反応に困る。ルーファスは迷惑そうだったし、早く帰れと促した。

「あの子は不器用なんだ」

 王様は苦笑する。

「ルーファスが結婚することは聞いたかね?」

 こちらの表情をうかがいつつ、たずねた。私が、はいと返事すると、

「婚姻を思いとどまるように、私から息子へ言おう」

「ありがとうございます。お願いします」

 内心では罪悪感いっぱいで、私は頼んだ。

 あぁ、ごめんなさい。その婚約者の指図で、私は動いています。今、あなたに会っているのも、将を射んとほっすればまず馬を射よで、彼女の作戦です。

 そして将を射るには、

「色じかけに決まっているでしょう」

 王様と会った後、私の部屋でリヴァイラは断言した。

 ちなみに彼女は、花嫁衣裳の採寸のためにお城に来たらしい。で、採寸後にこっそりと私の部屋に来て、自分の結婚の妨害をしている。

「そんなことを綾子にさせないでください」

 メイドのセーラがたしなめる。

 彼女は私より三つ年上で、六年前も世話を焼いてくれた。だから私はセーラにだけは打ち明けて、協力をあおいだのだ。

「結婚式は半年後にせまっているのよ! あんなやつと結婚したくないわ」

 リヴァイラは興奮してさけぶ。その後で、口を閉ざして考えこんだ。

「政略結婚が嫌、というよりは」

 言葉を選びつつ、しゃべる。

「このまま結婚すれば、私も殿下も不幸になるわ」

 まじめな調子のリヴァイラに、私とセーラは耳をかたむけた。

「彼は別の女性を愛しているし、私も彼に異性としての魅力を感じない」

「そうなの?」

 私は探った。なんせ私にとって、リヴァイラは一番のライバルである。彼女は子どもっぽい仕草で、首を縦に振った。案外、私より年下なのかもしれない。

 そして、ものすごく嫌そうに顔をしかめた。

「彼は『恋愛小説はくだらない』と言ったの」

「はぁ」

 そうだ! と彼女は声を上げる。

「昨夜の作戦は決行しなかったのよね?」

 私はうなずいた。昨夜の作戦とは、ルーファスのベッドで裸で待てというものだった。

「でも浴場で、背中を流すぐらいはできるわね?」

「リヴァイラ様!」

 セーラが怒る。

「綾子に何をさせるのですか?」

「服を着て、やってもらうわよ」

「当たり前です」

 言い争うふたりをしり目に、私は思案した。

「やろうかなぁ」

 水着みたいなものを貸してもらえれば、可能だろう。

「駄目よ」

 セーラが心配そうに、まゆを下げる。私は彼女に、改めて向き合った。

「昨日から私は、ルーファスに避けられている」

 口説くどころか、話すことさえできない。お城の中で、追いかけっこか、かくれんぼ状態だ。

「けれど浴場なら彼は逃げられないし、ちゃんと会話できる」

 セーラは、あー、うー、と言葉にならない反論を口にする。

「ルーファスがほかの女の人と結婚するのは、嫌なの」

 彼とリヴァイラが両想いならまだしも。いや、たとえ両想いでも、ふたりを切りさきたいと思っている。

 リヴァイラは、にやりと笑った。

「私たちの利害は一致している。たがいの幸福のために、力を合わせましょう」

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