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第二章 BLUE-COFFIN  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
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第八節「悪夢の女騎士オネイロス」

‘風の国’の西外れ、片田舎にある宿場町‘メガラ’。


或る晴れた日の昼下がり。


二人の若者の慎ましくも賑やかな結婚式が取り行われていた。




祝福する街の者たちに囲まれ、照れくさそうに笑顔を見せる花婿ファイスト。


胸一杯の幸せに包まれ涙する美しき花嫁オディエットの姿がそこにはあった。




‘華の国’で蔓延する‘死灰病’の話や‘傀儡くぐつの禁呪’の事は、この界隈でも話題にはなっていた。


それらにファイストが関係しているのではないかという根も葉もない噂もあるにはあった。


それは‘魔女エリス’が意図的に噂を広めていた為であった。


しかし、オディエットの可憐な美しさと、誰にも明るく、優しく接する姿が、そんな噂を否定しては消していった。




晴れて、正式に夫婦となった二人。


オデェットの献身的な愛を得て、人形師としての腕と名声を上げて行くファイスト。


やがて、彼は当代きっての人形師、人形に生をも与える‘メガラの傀儡師’と呼ばれるようになった。


そして、‘風の国’の‘王女ROSELUNA’も黄泉の眠りに就き、‘メガラの傀儡師’に纏わる噂が国中で囁かれ始めた頃に話は戻る。





挿絵(By みてみん)





   第八節 「悪夢の女騎士オネイロス」





‘風の天使’と謳われた‘王女ROSELUNA’が黄泉の眠りに就いてから数週間が過ぎていた。


最愛の娘を失い哀しみに暮れる‘風の国’の国王。


年を経てからようやく授かった娘であっただけに、その寂しさは誰の目にも明らかだった。




そんな彼の臣下の一人にメテウスという男がいた。


若くして国の内政を取り仕切る彼は、誰もが認める譜代の臣下であった。


実直で真面目な性格であった彼は、時折国政にまで口を出す‘賢者テオゴニア’とぶつかることさえあった。


それでも彼の選択に間違いはなく、彼に対する信頼は揺らぐものではなかった。




メテウスは気弱になっている国王の気を紛らわそうと、王城の広間で盛大に舞踏会を催すこととした。


常日頃、華美な事や贅沢を嫌う彼ではあったが、状況が状況であったが為に、何より国王を慰めようと考えての事だった。


それでも、毎年この時期に取り行っている春の息吹を祝う謝肉祭、国中を上げて行われる恒例の祝祭行事に合わせてのものだった。




国中の誰もが春の到来に湧く夕暮れ。


メテウスは一日の仕事を終わらせると、一旦執務室のある王城を離れた。


城の南側にある大広間、舞踏会の会場には外を歩いた方が近道だったからだ。




柘榴の森‘エンナ’を背後に抱え、広大なニュッサの野を望むように聳える‘風の国’の王城。


その南北に天使が翼を広げるように佇む白い居城は‘白羽の城’とも呼ばれていた。


中央の二階に位置する‘謁見の間’。


ひとつ上に祭事を取り行う‘風の礼拝堂’。


最上階には‘王女ROSELUNA’が眠る‘天使の塔’があった。




‘大地の女神’を讃える隣国‘華の国’と遠戚関係にあった‘風の国’。


建国以来、地母神の娘‘春の女神’に深い信仰を持つ王家は、御使いである‘春風の天使’になぞらえられた。



舞踏会が始まるまで、まだ幾らかの時間の余裕はあった。


ただ、夕日に明るい前庭には既に多くの貴族たちが集い始めていた。


昼間、街中で行われている豊穣祭を見物し、その流れで早めに王城を訪れていたのだ。




昼間から酒をあおっていたのだろうか、既にほろ酔い気分で歌を謳う貴族の男達。


自由気ままに何とはない談義に華を咲かせる貴婦人達。




その前庭を潜り抜けるようにメテウスは、顔見知りの面々と挨拶を交わしながら舞踏会場へと向かった。


幾つかの噴水の泉と生垣の脇を抜け、開ける視界に会場である白い建物が見える。


そこで会場の正面入口へと続く比較的道幅の広い一本道に突き当たる。


ここでも多くの来訪者が戯れるように行き来していた。




そんな彼の目の前を黒塗りの馬車が横切った。


ゆったりと二頭の馬に引かれ、黒服の従者が手綱を引いている。


決して派手ではないが細かく装飾の施された車は、それなりの地位の家のモノだとメテウスに思わせた。




ふと、彼は通り過ぎて行く馬車の中に目を向けた。


そこには、赤紫色の羽毛扇子で口元を隠しながらも、その瞳に笑みを湛えて視線を送る貴婦人の姿があった。


すれ違いに目と目が合い、思わず小さく会釈を返して見送るメテウス。


ただ、記憶力の良い彼にも、その一瞬だけでは彼女が誰か、どこの家の者かは分からなかった。


もっとも、その貴婦人の本当の正体が、‘魔女エリス’の配下‘魔の帳の三騎士’のひとり‘悪夢の女騎士オネイロス’であるなどとは夢にも思わなかった。

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