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第二章 BLUE-COFFIN  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
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第二十六節「不安の朝」

翌朝。



柘榴の森から顔を覗かせ登る陽の光は、既に夏雲と空を明るく照らしていた。




国王との謁見に備え、身なりを整え終えていたパンドラ。



彼女は部屋の窓から柘榴の森を物憂げに眺めていた。




離れ離れになったファイストを想ってか



それとも



これから訪れる未来に不安を感じてか



その美しい横顔に柔らかな影を携えて・・・。





挿絵(By みてみん)





   第二十六節「不安の朝」





ドアをノックする音と共に男の声が響く。




「私だ、失礼する・・・」




そう言って、パンドラの部屋を訪れたのは風の国の大臣メテウスだった。




メテウスは部屋にいた二人の侍女らに無言の視線を送った。



阿吽の呼吸を受け取るように女達は、静かに頭を垂れると部屋から下がってゆく。




彼女たちはパンドラの身の回りの世話をする為



メテウスが直々に選び雇った者達だった。



元々、彼の生家で働いていた者の中から



身元が確かで、口の堅い者を呼び寄せていた。




もっとも、その彼女らにも



パンドラの素性は西の田舎街から連れて来た娘とだけしか伝えてはいなかった。



それはメテウス自身



このパンドラを国王に合わせるとして、全く不安が無かった訳では無いせいもある。




国王が頑なに養子縁組を拒んでいた経緯もあり



実の娘である王女と同じ顔を持つパンドラがどう映るのか・・・?




それも傀儡師の手によって作られた人形であると説明し



果たして受け入れられるのだろうか・・・?




この期に及んで尚、胸中は複雑であった。




そして、何よりの問題と感じていたのは



風の国の賢者テオゴニア・マーリンに対してであった。





それはメガラの傀儡師ファイストの家を立つ時。



帰りの馬車の手綱を自身の従者である黒服の男に引き受けさせた



あのリツァル伯爵夫人の、別れ際に残した忠告の言葉でもあった。




「大臣閣下、あとひとつ、ひとつだけ、御忠告が・・・」



「忠告・・・?」



「大臣閣下であれば、当然、お気付きでもあると思いますが・・・」



「いや、聞かせて頂こう・・・」



「賢者テオゴニア・マーリンにだけは、お気を付けになった方が・・・」



「賢者殿に・・・」



「ええ、彼は元々、そう、異国の魔法使い・・・」



「それは私も知っておりますが・・・」



「それだけに、このパンドラを煙たがるやもしれません・・・」



「パンドラを・・・」



「はい、自身の魔法でも叶わぬモノが目の前に現れるのです・・・」



「というと・・・?」



「おそらくは、嫉妬するやもしれませぬなぁ・・・」



「まさか、あの賢者殿が・・・」




これまで幾つもの戦いと奇跡を



その魔法で成し遂げて来た賢者テオゴニア・マーリンではあった。



しかし



その賢者の魔法を直接見る機会が乏しくなった世代のメテウスにとって



確かに



パンドラの出来栄えは、まんざら無い話でも無いようにすら思わさせた。




それでも、俄かに信じがたい思いを引きずるメテウスに伯爵夫人が続ける。




「あるいは、パンドラの秘密を知りたがるということも・・・」



「パンドラの秘密・・・」



「はい、私達には調べようも御座いませんが・・・」



「メガラの傀儡師の秘術か・・・」



「そう、それが万が一・・・」




この時、メテウスの頭の中に、忘れていた‘傀儡の禁呪’が過った。




「いや、それはまずいな・・・」



「本来、魔法使いとは不可能を可能にする技を使う者で御座います・・・」



「仰る通りだが・・・」



「それ故、その類の秘法には貪欲、ただの人間である私達とは・・・」



「我々とは違う、ということか・・・」



「ええ、彼がパンドラを人形に戻してしまうということも・・・」




何にせよ



せっかくの苦労を水の泡にされては、その思いがメテウスに渦巻いていた。




「いえ、大臣、私の杞憂、考え過ぎということもありましょう・・・」



「いや、伯爵夫人、数々の御心遣い痛み入る、この礼は何れどこかで・・・」



「それでは大臣閣下・・・」

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