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第二章 BLUE-COFFIN  作者: メル・ホワイト・プリンス・ヴェリール
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第二十三節「魔導師ロッドバル」

日も沈み、夜の帳が降りはじめて間もなく。



ファイストの家があるメガラを出てから半日程で



風の国の大臣メテウスと王女を生き写す傀儡パンドラを乗せた馬車は



王城の都デケリアの郊外に差し掛かっていた。




途中、沈黙に夕暮れを眺めながら



うつらうつらとしているうちに、いつの間にかメテウスは眠っていた。



昨夜、夜通し一人で馬車を走らせた疲れであろうか



それとも、ひとつ大きな仕事を成しえた安堵感からか



その瞼を閉じる表情には静かな充足感があった。





挿絵(By みてみん)





   第二十三節「魔導師ロッドバル」





暗がりだけが続いていた郊外の馬車道から街中へと入ると



これまでの淋しげな風景とは打って変わり



人々の息づく気配が石畳に木霊した。



ぽつりぽつりと灯っていた明かりが瞬く間に増えるにつれ



賑やかに町の喧騒は華やいだ。




パンドラにとって、それは始めて見る大きな都、デケリアの美しい街並みでもあった。



数刻前のメテウスとのやり取りを忘れさせる、束の間の桃源郷のようにも思えた。




馬車は繁華街の広場を東へと回り、舞踏会場にもなった王城の南の広間へ続く一本道に入った。



明るく活気の灯る店の軒先を外れてゆくと、ゆっくりと馬車は速度を落とし長く続いた脚を止めた。



そこで、これまで手綱を引いていた従者の声が低く響く。




「大臣様、まもなく王城です・・・」




その声に重い瞼を開くメテウス。



腰を浮かせて馬車の窓から辺りを見回すと、既に王城の近くまで来ている事に気付いた。



パンドラも改めて、これから訪れるであろう己の運命に不安を感じた。




ふと我に返るメテウスは、眠気を飛ばすように顔を両の手で擦ると馬車の扉を開いた。



そこには変わらず、季節外れの分厚く黒い外套に身を包んだ従者が礼をして静かに待っていた。




メテウスが馬車を降りると、従者は顔を上げた一瞬、パンドラに目をやったかと思うと



再び視線を落とし低く静かに口を開いた。




「大臣様、残念ながら私はここまでで・・・」


「おお、長い道中すまなかった・・・」


「とんでも御座いません・・・」




メテウスにしてみれば、パンドラの事を秘密裏に運ばんとする意図を汲んだ王城手前での停車と考えた。



しかしその実は、これ以上王城に近づく事は、従者、いや魔導師ロッドバルには都合が悪かった。



彼が放つ魔の気配を、王城に居る賢者テオゴニア・マーリンにも知らせる事になるのだ。



したたかに彼は、己の気配を悟られぬ位置で馬車を止めたのだった。




「いや、おかげで助かった・・・」



「こちらこそ、大臣様のお役に立てて嬉しゅうございます・・・」



「して、お主は今夜、どちらに泊まりなされる・・・?」



「いえいえ、御心配には及びませぬ、街の美術商に知り合いがおりまして・・・」



「美術商・・・、そうか、知り合いが居るならば・・・」



「何か・・・?」



「先日、私の知り合いの美術商店主が物取りに殺害されてな・・・」



「それは物騒な・・・」



「あの華の国の不幸と、我が王女の一件以来、何かと物騒でな・・・」



「お気遣いありがとうございます・・・」




そう言ってロッドバルは、僅かに口元に笑みを見せた。



その会話を馬車の中から見ていたパンドラには



エリスの魂のカケラから生まれた為か



それとも



オディエールの記憶を持つ為か



不思議と彼女には、それが魔の者の仕業だと直ぐに悟る事が出来た。



何とは無いやり取りのつもりではあったが、美術商の顛末を知らぬはメテウスばかりであった。




「従者殿、せっかくの都滞在、くれぐれも用心はなされよ・・・」



「はい、ありがとうございます、せっかくの都、見物ぐらいはして帰りたいと思います・・・」



「おお、そうであったか、いや、気がきかなくて済まない・・・」




メテウスは懐から幾らかの金貨を取り出すと、伯爵夫人の従者と信じる男に手渡した。




「少ないが、これは気持ちだ・・・」



「これはこれは・・・」



「都デケリアは美しい街並みを見るだけでも価値はあるが、金はあるに越したことは無かろう・・・」



「それはそれは、もう・・・」




こうして、見送る従者を後に再び手綱を握るメテウスは、パンドラを乗せた馬車を王城へと走らせたのであった。



そしてそれは同時に



この風の国にパンドラの監視役として魔導師ロッドバルが残り、今後、魔女エリスの計画を成し遂げる為に暗躍する事を意味していた。



この時、それに気づいていたのは、悲しみに染まる傀儡パンドラだけであった。

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