第十九節「哀しき目覚め」
魔の帳の三騎士‘死の灰のタナトス’の魔力によって、‘死灰病’に犯され死したオディエット。
風の国の大臣‘メテウス’が、結果、人形作りの依頼と共に残していった‘柘榴の心臓’。
メガラの傀儡師ファイストは、愛しき妻‘オディエット’を蘇らせるべく
その心臓を灰塵と化した彼女の灰の中に埋めた。
そして
それは新たに開けられた人形の胸の中へと収められたのだった。
明日、国王に献上するはずの‘王女ROSELUNA’を生き写した人形の魂として・・・。
真夜中
‘傀儡の禁呪’の手順を前回同様に踏み終えたファイストは、そのまま力尽きるように夢の中へと向かった・・・。
第十九節 「哀しき目覚め」
朝。
登り始めた太陽が、明るさを取り戻しつつある空の青さを色濃く澄み渡らせていた。
窓辺から深く部屋に差し込む朝日は、その温もりを既に滲ませている。
季節は春を終え、夏へと向かい始めてもいる。
見慣れた部屋の壁や柱。
食事に会話を咲かせたテーブルや食器。
何より、傍らには愛しきファイストがいる。
昨夜の疲れからか、いまだ彼は作業机に伏したまま眠っている。
何もかもが今まで通りで、いつもと変わらぬ風景でしかなかった。
ただ
ふと落とした視線に映る己が掌は幼く
身に纏う何時もの衣服は明らかに大きく
頬に乱れる髪の色は、黒髪から柔らかなブロンドに変わっていた。
オディエットは全てを悟った。
再び‘傀儡の禁呪’によって生まれ変わったのだと。
いや、ファイストが消える筈だった命を繋ぎ止めてくれたのだと。
そして、昨日まで
ファイストが造り続けていた国王に献上する人形の中に自分はいるのだと。
魔女エリスの分身オディエールでもなく、愛しき日々を過ごしたオディエットでもなく
記憶と想いを携えた別な命を授かった者として・・・。
・・・ ファイスト ・・・
眠るファイストの頬に愛しげに手をやるオディエット。
その手に伝わる感触は、これまで通り何ら変わるモノではなかった。
しかし
彼女の胸の内には複雑な哀しみも浮かび上がっていた。
明らかに若返り、まして王女ROSELUNAの顔を持つ者となった今
このまま一緒にいれば、きっと禁呪の事が世間に知れてしまうだろう。
そうなれば、彼が今まで築いてきた人形師としての人生も終わってしまう。
「・・・もう、一緒にはいられないのね ・・・」
そんな優しく頬を撫でる温もりに眼を覚ますファイスト。
そこには、優しくも哀しげに自分を見詰めるオディエットの姿があった。
「オディエット・・・」
「ファイスト・・・」
二人は共に抱き縋ると泣いた。
それは二人にとって、愛しくも哀しき目覚めだった・・・。




