第十七節「死の灰、再び」
宿場町メガラに暗躍する‘帳の騎士タナトス’の影。
その‘死灰’に犯された‘傀儡の娘オディエール’は灰塵と化し
‘メガラの人形師ファイスト’は、‘生ける人形’オディエットを生んだ。
それは、禁じられた‘柘榴の秘術’によって
或いは、魔女エリスが謀る計略の‘約束された甦り’でもあった。
それから時は、ファイストとオディエット、二人を包み穏やかに流れているかに思えた。
しかし
リツァル伯爵夫人に成り替わった‘帳の騎士オネイロス’の魔力によって、束の間の平穏は砕かれた。
‘風の国’の‘大臣メテウス’が、‘メガラの傀儡師’と呼ばれる彼の元を訪れるよう仕向けられ
王に献上する為、眠る‘王女ROSELUNA’生き写しの人形を造るよう命じたのだ。
大臣の命に止む無くファイストもそれを了承するしかなかった。
それから、時は約束の一ヶ月が経とうとしていた・・・。
第十七節 「死の灰、再び」
あの日以来。
ファイストは人形造りに没頭した。
‘傀儡の禁呪’の事を忘れようとしたせいもある。
それでも、自ら造り上げた人形が国王に献上されるという事は、人形師としてこの上ない名誉である事も確かだった。
メテウスが置いて行った‘王女ROSELUNA’の肖像画を頼りに
細部に至るまで緻密に細工された人形は、‘メガラの傀儡師’の異名通りに‘生ける人の如く’であった。
仄かに色づく肌はしなやかに
髪はやわらかに艶めき
静かに燃えるような唇は
吐息を抱くかのように濡れていた。
何より、注文通り‘王女ROSELUNA’が生き返ったような可憐な美しさを湛えていた。
この日の夜。
ファイストは、最後の仕上げを終えようとしていた。
もう間もなく作業も終わり、ベッドへと眠りに就く筈だった。
ただ、この時。
ファイストの家の前に馬上で佇み、呟く黒い男の姿があった。
----- 許せオディエール、いやオディエット、再び死して我らの糧となれ -----
そしてその時。
彼の妻であるオディエットに異変が起きた。
作業場の隣にある寝室の奥で彼女の悲鳴が響いた。
手にしていた道具を投げ捨て、椅子を立つファイスト。
その目の前に、助けを請う様に手を差し伸ばし、歩み現れるオディエット。
「ファイスト・・・」
それは、足元から首筋までを既に灰色に染め上げたオディエットだった。
「た、す、け、て・・・」
そう力無く救いの言葉を口にしたオディエットは、たちまち顔すらも灰色に犯されると
足元から灰となって崩れ落ちていった。
あっという間の出来事だった。
ファイストは茫然とした。
突然の事に状況を理解できないまま、彼は崩れ去ったオディエットの、その灰の山の前に膝を突いた。
悲しみとも、怒りとも分からぬ感情が彼の体を貫いてゆく。
「おおおおっ、何故だっ・・・、神よ、何故・・・、なんで・・・、そんな・・・」
また彼も力なく、泣き崩れるしかなかった。
再び‘死灰病’に犯され、瞬く間に灰塵と化し死したオディエット。
オディエールのように時は待たず、別れを告げる間も許されず、意味も分からぬまま。
それは、オディエールが残し、オディエットの胸に収められた‘柘榴の心臓’にも予め仕掛けられた罠であった。
‘死の灰のタナトス’の呟きに、その魔力によって‘死’は再び芽吹き、オディエットの‘命の時計の針’が無常にも進められたのだった・・・。




