第十節「メテウスの悪夢」
あの日以来、メテウスは夢を見るようになっていた。
それは毎晩とも同じ夢で、‘王女ROSELUNA’が‘風の礼拝堂’の祭壇に横たわり‘転生の秘術’を受けた時の光景であった。
第十節 「メテウスの悪夢」
明るく揺れる無数の蝋燭の炎。
王女が横たわる聖なる礼拝堂の祭壇。
その頬に赤く血文字のように綴られる王家の紋章。
輝きと共に白く清らかな衣は散り、薄れてゆく意識と魂。
失われてゆく何かを食い止める事も出来ず、差し伸ばす腕は無力でしかなく。
求めているモノを手にする事も出来ないまま、上げる叫びは声にならない。
幾つもの大切なものがメテウスの元から繰り返し繰り返し去ってゆく。
決まって最後は、人形師と思しき男の影が王女に似せた人形を作る姿へと続く。
そして、その影の中から伸びる手が、少女の声がメテウスに問いかける。まるで命を欲するように・・・。
夢にうなされ、汗だくになりながらベッドで体を起こすメテウス。
夢の中以外、平穏な春の真夜中。部屋のカーテンを蒼く月明かりが透かしていた。
メテウスは昔の事を思い出した。
それは、まだ彼が7歳になったばかりの頃、事故で父を亡くし、国王の元に養子に貰われた頃の事だった。
国王は兄弟が居なかった為、従兄にあたる彼の父を本当の弟のように可愛がっていた。
その弟を事故で失った時、世継ぎのいなかった国王は王家血筋にあるメテウスを引き取った。
彼の母親に気を使って養子縁組こそしなかったが、いずれ‘風の国’の王位を譲るつもりで彼を息子としたのだ。
その翌年。
思いがけず国王夫妻は待望の子を授かるが、生まれてきた子は女の子だった。
‘王女ROSELUNA’である。
メテウスと‘ROSELUNA’は、国王と女王二人の愛を受けてすくすくと健やかに育っていった。
年を重ねる毎にメテウスは逞しく‘ROSELUNA’は美しく成長していった。
年頃になると、本当の兄妹のように育てられた二人ではあったが、互いを意識をするようにもなっていた。
国王も、いずれメテウスと‘ROSELUNA’を結婚させるのも良いと考えていた。
しかし、‘ROSELUNA’が14歳の誕生日を迎えた時。
同じ年に生まれていた隣国‘華の国’の‘王子RUTO’の許嫁とした。
メテウスとは年が離れている事もあったが、縁戚関係にあたる‘華の国王クロノス’に請われたせいもあった。
その事はメテウスも彼女を妹として、妹の幸せとして祝福した。
確かに、何かを約束していた訳でもなく、若さ故の淡い恋心だったのだろうと考えた。
ただ、メテウスは一抹の寂しさも感じた。
国王夫妻に愛されたとはいえ、幼くして実の父を失くし、母と離れ離れになった経験があったからだ。
家族を失う哀しみを知っていた彼には少なからず複雑な思いがあった。
妹を失うのはこういうものなのかと。
それだけに、呪いに倒れた王子の魂を追って黄泉の眠りに就いた王女。
その娘を失った国王の気持ちが痛い程メテウスには分かった。
あの舞踏会以降も塞ぎ込んだままの国王と王妃。
その悲しき姿は、次第にメテウスを無力感で埋めていった。
そうして、夜毎魘される黒い夢に、いつしか彼は触れてはならない領域へと駆り立てられるのであった・・・。




