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機翔のユア  作者: 本倉悠
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第三話 エンカウント

11月22日、7:30修正

 細身の黒いMAGが岩盤にあるいくつもの裂け目を飛び越えていく。強く踏み込んで跳躍するたびに足場の回りがぐらぐらと揺れ、小石が渇いた音を立てながら崖を転がり落ちる。

 着地の際にはかなりのGが発生するが、脚部にある人工関節とコクピットを覆う人工筋肉が緩衝材クッションになるため、操縦者への負担は最小限に抑えられている。ただし、ジェットコースターのような迫力は常に付き纏うので、高所恐怖症の者にはとても耐えられないだろう。


 理音が跨るMAGは<ブラン・メタリア社>の第二世代機BM―YV。通称ヤハヴェイ。隠密性を高めるべく外膜にステルスコーティングが施された電子戦専用機だ。低駆動音、電波吸収体技術を獲得したこの機体は、最新鋭機である第四世代機と比べても遜色ない運動性能を持っている。

 しかしながら生産コストについては当時の貨幣価値からしても法外だったようで、企業的、ビジネス的には大失敗作という不名誉なお墨付きをいただいている。反して生産台数が限られたこともあり、コレクターの間では高値で取引されているらしい。

 補足すると、後継に当たる第三世代機ヤハヴェイⅡからはステルスコーティングを外し、代わりに火力を増すことで大幅なコストダウンに成功。優秀な汎用機として普及している。高価な機体を大っぴらに使っているとトラブルの種になりかねないため、ヤハヴェイのカラーリングは元々の深緑色ではなく、ヤハヴェイⅡのデフォルトである黒に塗り替えている。


 MAGを語る上で欠かせないのが武器と総重量だ。軽マシンガンやハンドガンなどはともかく、肩に乗せて使用するような重火器類は相当な重量がある。元々の機体の重さと合わせて、その負荷に耐えられるだけの頑丈な脚部と機動力を妨げられない程度の出力が必要になる。

 最近では出力の高い軽量機体も作られているため、そういった機体であれば武器の選択にもある程度の融通が効く。しかし、ステルス機体となると少々事情が異なる。機体の表面面積が大きくなると電波放出量が増えてしまうため、隠密性が損なわれて敵機に察知されやすくなる。特性を最大限に活かそうとすれば、大きな武器は持てなくなる。必然的に、戦闘はもっぱら内装武器に頼りがちになる。

 けれども理音は重量超過で燃費が悪くなるのを嫌い、内装武器も必要最低限のものしか揃えていない。武器と呼べそうなのはMAGの解体に必須のヴァイブレード。移動、牽引用の強電磁石付きワイヤー<マグニティアンク>。仕事中に発掘した良品の80ミリハンドガン<アシナMH80>が二丁。あとは防衛機器のみという徹底した仕事仕様だ。

 武器はメンテナンスにかなりの金がかかるし、使うとなれば弾薬やミサイル代も馬鹿にならない。軍に属しているわけでもなし。気軽にぶっ放そうものなら、威力と使い勝手に応じて札束が飛んでいく。

 そんなわけで、理音のヤハヴェイはノーマルの汎用機と比べてもお粗末なものだった。

 少なくとも、攻撃面に関しては。


 道なき道を進むうちに、片側二車線の舗装路に出た。随分と長いこと補修されていないのか、中央の分離線は点線といった方が的確で、アスファルトには段差や亀裂ができている。

 この近辺は、地元の住人たちにアオキガハラ古戦場と呼ばれている。過去には樹海と呼ばれるほどに木が生い茂っていたらしいが、今では過剰な伐採に荒れ果てた山といった印象だ。かつての内戦によって森林面積は当時の四分の一ほどに縮小しており、もっと奥まったところに足を運ばないと森林らしいものは見られない。

 北の方に目をやれば和国最高峰のフジ山が望める。古くは標高と相まって名山と呼ばれていたこともあったようだが――食べかけのプリンのように西側を大きくえぐられた今となっては――情緒や風情といったものは一切感じられない。温暖化が進行したせいで、ここ何十年か冠雪が観測されていないのも一因かも知れない。


 付近に敵がいないことを電波探知機と目視の両方で確認しながら、枯れ木並木の道を北東の方角へ進んでいく。所々で倒木や土砂崩れの跡が見受けられるが、MAGの歩幅は一歩で4メートルにも達するため、倒れている木々を踏み越えるくらいのことは造作もない。

 コクピットからの視界はおよそ120度といったところだが、首を動かすと天井についているセンサーが操縦者の頭部の動きを読み取るため、向いている方角が頭部カメラと連動する。また、外装に備え付けられた6つのカメラが捉えた映像を、空間型モニターが多角的(サラウンド)に投影することで死角を極力減らしている。


 山に近づくにつれて青々とした木々が増え、高配がきつくなってきた。目的地まで残り5キロ地点に至ったところで、山の麓辺りでいくつもの火線が空へ放たれているのが見えた。ありがたいことにまだ交戦中らしい。

 理音は電波探知機のスイッチを切り、代わりにステルス粒子を撒き始めた。稼動機体ヤハヴェイの表面から発されている電波を粒子で拡散させることにより、敵のレーダーに察知されないようにするためだ。これは自分のレーダーも使用不可になる諸刃の剣だが、敵方に電子専用機がいた場合にはレーダーの感知電波を逆探知されてしまう。対象と距離が近ければステルス機とて例外ではない。相手方が圧倒的多数である以上、不意打ちで活路を見出す必要があった。

 ここからは、熱源感知センサーと目視で逐一確認しながら進むしかない。理音は今まで以上に慎重に、アクセルを小刻みに踏み始めた。


 枯れた木々を盾に身を屈め、時速40キロほどで滑走していく。そろそろ敵の領域内に入ろうかというところで、理音が木々の狭間でチラついた光に気づき、ブレーキペダルを踏んだ。刹那、前方で土砂が防波堤に叩きつけられた荒波のように舞い上がった。

 爆風が宙に風の波紋を広げていくのを見止め、咄嗟に操縦桿を横に引いた。波紋の後を追うように、凄まじい勢いで大木が吹き飛んできた。

 巨大なプロペラと化した根っこつきの樹木が、身を引いたヤハヴェイの目の前を横切り、後方にあった木々を薙ぎ倒して停止した。膨大な摩擦熱で煙が一斉にくすぶり始めた。

 一瞬にして何十本もの木々が圧し折られたのを見て、理音は呆れたように天を仰いだ。


「……派手にやってんなあ。つうかやつら、俺たちの植林活動をなんだと思ってんだ」

<それ、絶対に言うと思いました>


 MAG協会に属する者は自然保護という名目で、毎月の儲けから何%かの金を苗木代という名目で差し引かれる。発掘する側にしてみればむしろ土を耕した代金を貰いたいところだ。

 MAGが植林のサポートに導入されたことで緑化効率は相当に上がっているはずなのだが、なかなか数字が改善しないのはこういうバカがいるからだ。開けっ広げな森林破壊の現場を目撃すれば腹も立つ。


 ぼやきながらも、サーモグラフィで敵機の位置を捉えた。目に優しい黄緑色の視界に橙ないし赤く染まる機体を確認した後で、望遠カメラに切り替えて機体と武装を確認する。

 援護に入る場合には敵機体とその装備を確認するのが基本となる。相手がどういった対応をしてくるかを予測できぬままに突っ込むのは自殺行為だ。

 支援に入る側が足手纏いになることだけは絶対に避けろ。敵わぬようなら黙って撤退するのが戦場の鉄則だ。見殺しにするのが悔しいのなら首を突っ込めるぐらいに強くなれ。とは、自分にMAGの操縦技術を叩き込んだ教官の受け売りだ。

 入り組んだ地形なだけに人型のMAGしか見当たらない。近くには煙を吹いてぴくりとも動かない機体が見える。交戦の末にやられたのだろう。

 包囲側のMAGは<RRV社>の汎用機レイグが大半を占めているようだった。やや装甲が厚い以外にはこれといった特徴のない機体だ。群であることを誇示するように外装はワインレッドで統一されていて、最奥にいる真珠色の一機に対して包囲網を築いていた。


 囲まれている一機を見止め、カメラの倍率を上げると丘の上にほど近い場所が拡大される。囲まれているパールホワイトカラーの機体が視界の斜め上にある透過板に映し出され、側頭部、正面全体像、斜め後方からの見下ろし視点の三つで立体的に投影された。

 検索が終了。枠線だけだった機体に色が施されていく。女性らしいスタイリッシュなモデルがウリの<タテミネ社>汎用人型機体。型番はTC―TR2300、ティアラスで登録パターンが一致。頭部に装備されたピンク色のヘッドフォンにも似たアンテナが特徴的だ。腰には大小二本の剣を引っ提げ、背中のフックにも大きな銃をかけている。

 火力、推力のバランスが良く、機動性にも優れる人気モデルだが、軽装甲で重量を抑えているためガチの格闘戦には向かない。どちらかといえば、反射神経に絶対の自信がある玄人好みの機体だ。


 ふいに、分析途中だったカメラアイがティアラスを見失い、モニターにERRORが表示された。大岩を背にしていた機体がその場から跳躍し、遅れて銃弾がその場に殺到。岩が跡形もなく砕け散る。

 跳び上がったティアラスの着地地点を見切ったのか、銃を撃ったのとは別のレイグが斜め後方から距離を詰め、剣を掲げた。着地と同時に振り返ったティアラスが、振り下ろされた剣の峰を手の甲で弾き飛ばす。が、レイグは突進してきたままの勢いで、無防備になったティアラスの上半身に肩をぶつけた。

 金属片と一緒に激しい火花が散り、白い両足が地面から離れた。その場から弾き飛ばされ、あわや地肌に背中をつきかけていたティアラスが、咄嗟に両手を地面についた。ベアリングの音が唸りを上げる。そのまま腕をたたみ、跳ね上がるようにして一回転。ものの見事に転倒を避ける。

 と、思ったときには等間隔で銃弾が装着されたベルト付きの銃を手にしていた。恐るべき早業だった。宙で回転している短い時間で背負っていた銃を手にしていたのだ。


 慌てて腰の横に提げていたアサルトライフルを構えようとしたレイグに対して、対大型兵器用マシンガンの引き金が引かれた。薬室に引き込まれた弾丸が発火ガスの圧力によって凄まじい勢いで打ち出される。

 数多の銃弾が流星群の如き光線を描いた。ベルトにつけられた弾が凄い勢いで銃の上部にある装填口に食われる。それと同じだけの火線が銃口から吐き出され、レイグの全身に殺到する。銃上部の排莢口から弾き出された薬莢が、グラスとグラスをかち合わせる音を鳴らし続けた。

 連なる衝撃に押され、レイグがじりじりと後退。踏ん張る踵が土を抉っていく。構えようとしていたはずのライフルは既に鉄屑と化して宙高くを舞っている。それどころか、武器を握っていた指までもが吹き飛び、物が掴めそうにないくらいに歪んでもいた。


 他機が援護に入ろうとしたのか、ティアラスの後方から数発のミサイルが不規則な軌道を描いて飛来した。既にティアラスの方でも感知していたのだろう。即刻撃つのを中断し、後ろを振り向くことなくその場から走り去る。

 一瞬遅れて、枯葉が敷き詰められた土壌にミサイルが着弾。まず土砂が柱状に吹き上がり、次いで炎を帯びた枯葉が爆風に乗って高々と舞う。

 その隙に数秒で穴だらけにされた機体が体勢を立て直すべく後退。代わりに新たな機体が戦列に加わった。



 その間に理音は敵機の把握のみに留まらず、周囲の地形や状況の把握に努めていた。逃走に最適な経路を選び出した上で、脳内ではどう動くか、何パターンものイメージを描き出す。

 右手の崖上に回り込む長距離支援用機体のMAG、<RRV社>のディガが1機。手に持っているのはスナイパー・ライフルと思しきもの。後のレイグ7機が重火器と近接武器を抱えて移動、ティアラスの包囲網を狭め始めている。

 このままではまずいと考えたのか、ティアラスが包囲網の薄そうな場所に当たりを付け、そちら側へと疾走する。間近にいたレイグが一機、腰の鞘からヴァイブレードを抜き放ち、ティアラスの行き先を阻んだ。ティアラスは立ち塞がった機体に構わず、足を止めずに突っ込む。加速したのか、背中から噴射されている炎の勢いが増した。

 待ち構えるレイグが左上段に構えていたヴァイブレードを振り下ろした。想定内の動きだったのか、ティアラスが必要最小限の動きでサイドステップを踏み、右側面に回り込んで回避。すれ違いざまに握っていた剣を抜刀する。

 巨大な円弧が描かれ、空気が大きく戦慄いた。ティアラスの剣が敵機体の右わき腹から入り、左肩へと抜けていった。逆袈裟を食らった敵の上半身が、ゆっくりと斜めにずれていく。

 およそありえない切れ味に、理音の目が丸くなった。本来、近接武器でMAGを仕留めるのは至難の業だ。たとえヴァイブレードを最大出力にしたとしても、胴体ほどの厚みを断ち切るとなると最低で三秒はかかるはずだった。


 やや遠方から、別のレイグが狙い澄ましたようにティアラスの側面に回った。横滑りしながら脇に重々しい銃を固定。射角に入ったのを見計らってぶっ放す。

 飛来してきた黒い砲弾にティアラスがまたも驚異的な反応を見せた。今しがた切り裂いたばかりの、宙に浮いている敵機体の上半身に腕を振り被る。

 鈍い音とともにラリアットで弾き飛ばされたレイグの上半身が砲弾へと向かい、接触した瞬間に大爆発を起こす。木々の破片や土砂が炎と一緒に舞い上がり、土煙が空気を汚していった。


 爆煙に目を凝らしつつ、理音は心中で感嘆していた。敵機だった物を咄嗟に盾にする判断力と危機回避能力。包囲している側がそれほどうまくないとしても、ティアラスの機士に対する評価は変わらない。いい意味で、まともじゃない。

 だがしかし――


<あの機士も相当な腕前のようですが、そろそろ限界が近いようですね>


 キャスが理音の心中を代弁した。白い機体の各所にある銃痕やへこみを見る限り、決して楽観視できる状況ではない。たとえ機体が動く状態であっても、中にいるのはれっきとした生身の人間。長時間、こうまで執拗な攻撃に晒されていては、機士の肉体的、精神的消耗は著しいはずだ。

 また、今の爆発の瞬間、千載一遇のチャンスに逃げようとしなかったのも少し気になる。安堵が先に立って集中力を欠いたがためか。それとも別の理由によるものか。理音はティアラスの挙動から後者だと読んでいた。



 時間がないと判断した理音が、敵機から目を離すことなくタッチパネルの最奥にあるボタンを押し、ヤハヴェイを傍受モードにシフトさせた。

 機体の首元に収納されていた伸縮式の高感度アンテナが音なく伸び、最奥にいるティアラスから発せられている無線周波数を拾う。ホッピングの解析に少々時間を要したが、先方が敵機の銃弾を避けている間に回線の強制接続が成功した。

 イヤフォンを片耳に入れ込み、適切な音量調節がなされたところでマイクスイッチをONにする。無論、一度咳払いを挟むことも忘れない。



「こちら、セントラル第四セクト、シズ・シティMAG協会所属、御柄みづか理音(りのん)。企業連MAG管理法に基づき、貴殿の所属を問う」


 少し間が空いて、迷いを含むようなたどたどしい声が、ノイズと一緒に返ってきた。


「イ、イースト――――所属、――――ウユア。――――どこから」


 スピーカーから聞こえてきたのは渋みのあるバリトンボイス。声から察するに年齢はあちらの方がかなり上だろう。歴戦のベテラン機士を思わせる戦いぶりだし違和感はない。

 しかし、今はそれよりも気にするべき言葉があった。イースト。<壁向こうの住人>がなぜこちら側にいるのだろうか。


<スペリオル、いかが致しましょうか。私からけしかけておいてなんですが、もしかしたら面倒に巻き込まれるかも>

「うーん、まぁ、そうなる可能性もゼロじゃないだろうけど、声をかけちまった以上はここで引き返すのもなんだなぁ」


 かつて、イースト・リージョンはセントラル・リージョンのフジ山周辺を戦場として、ウェスト・リージョンと大規模な武力抗争を行った。そのせいで住居や田畑を失った者は大勢いる。

 今現在、セントラルとイーストの領界線には侵入を阻む壁が建設されており、行来は不可能になっている。家なき子になった者はどこからもろくな保障を受けられず、その多くがシズ・シティの近辺に寄り集まらざるを得なくなった。

 戦争からは50年近くが経過しているはずだが、孫の世代になった今もなお恨みに思っている者は数多い。イーストの住人はセントラル、特に東部の住人には目の敵にされている。


 もちろん、そういった可能性をまったく考えていなかったわけではない。境界線付近でたちの悪い賊が航空機狩りを行っているという噂を耳にしたことがあったからだ。領界線からほど近いこの場所なら、あるいは起こり得ることだろう。

 それでもここに駆けつけたのは、シズ・シティに来てからそれほど時が経っていない理音にとってはいまいちピンとくる話でもなかったし、低い可能性を気にしても仕方がないと思ったからだ。

 ただ、現状ではティアラスが不法侵入などの条約違反を犯している可能性もある。その場合、援護したことが軍にバレれば罪に問われるかも知れない。

 包囲している側はまず軍属の部隊ではない。安価で殺傷力の高い武器ばかり揃えているのは力を誇張したがる賊の典型的な特徴だし、連携も拙さが残る。端的にいえば、軍人特有の怖さが伝わってこない。


 銃撃や機体の移動に合わせてノイズが走るせいで、相手の声がところどころ不明瞭だった。裏を返せば向こうの機士にも、こちらが伝えたいことの半分くらいしか聞こえていない。そう疑ってかかるべきだ。

 理音は周波数の波形パターンをモニターに映し出し、へこんだ瞬間を狙って話し始めた。偽りだと判断すれば即時撤退も辞さないつもりで。


「現状を――――簡潔に説明――してもらいたい。――――それと、支援が必要かどうかも」


 聞こえ方が一瞬で明瞭になったからか、相手から驚嘆の様な息が漏れ出た。理音は得意げに鼻梁を擦り、キャスがそんな彼にじと目を送った。


「――貨物機で帰還――――によって墜落――――のため――を撒くつもりだった。――――くれるの?」


 相手の返答にある空欄を予測。貨物機が何かしらの攻撃を受け、やむなくMAGが降下して敵を撒くつもりだった、といったところだろうか。それにしても、おっさんがその語尾はいただけない。もしやあっち系の人だろうか。


 などと考えている間に、波形が大きく乱された。イヤフォンから聞こえてきた轟音に頬が引きつる。どうやら被弾してしまったらしい。慌ててカメラで確認すると、肩の辺りを掠めただけのようだった。安堵の溜め息が漏れる。

 今のところ、ティアラスは積極的に攻撃しているわけでもなさそうだ。とりあえず相手の言い分は信じてもいいだろう。貨物機とやらの乗組員がどうなったのかは気になるが、手をこまねいている暇はない。救出を優先するべく頭を切り替える。



 タッチパネルの右のスイッチを切り替え、装備換装を音声モードに移行。それと並行して、ティアラスの機士にあとどの程度燃料が残っているのかを確認する。

 やはり間が空いて、最高出力で10分前後という言葉が返ってきた。このまま放置すればやられるだろうというキャスの推測は見事に的中していた。ここで踏み止まっていたのは、燃料切れで完全に止まってしまうことを恐れていたためだった。


 傍らで首元を掻き始めたキャスを見て、理音の口元に苦笑が浮かんだ。続いてはその笑みを吹き消し、ティアラスの機士に逃走に当たっての細かい指示を送り始めた。

 相槌からは悩んでいる雰囲気も伝わってくるが、向こうもぎりぎりなのだろう。それほど時間をかけることなく了解の返事を得られた。後の問題は、先方がこちらをきちんと信じてくれているかどうかだ。



 ほどなくしてヤハヴェイが動き出し、敵の包囲網との距離を縮めていった。近づいてくるヤハヴェイの姿を見止めたティアラスは、躊躇いを振り捨てるように斜面を下り始めた。

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