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誘う者

作者: 小鳥 歌唄

「夢の中へと連れてって。永遠に目覚めない、夢の中へと・・・。」


少女は願いました。

毎日夜が訪れる度に、願い続けました。

もう一度会いたい・・・。

ただもう一度、夢の中で出会ったあの人に会いたくて。

願い続けます。


それはそれは素敵な夢でした。

沢山の笑顔に囲まれ、夢の中だと言うのに全ての感覚が有るのです。

食べ物を食べれば『美味しい』と感じ、傷を負えば『痛い』と感じる。

頬に触れられれば、温もりを感じました。


素敵な素敵な夢の中。

その中で出会った、一人の少年。

優しい笑顔に、柔らかい声。

温かい温もりで少女の体を包みました。


少女はその時始めて感じました。

現実でも感じた事の無い感覚・・・。

『幸せ』と言う感覚。


少年は一輪の薔薇をプレゼントしてくれました。


 「この薔薇の花が、僕達をまた廻り合せてくれる。忘れないで、僕は必ず君にまた会いに来ると言う事を・・・。」


そう言い残し、少年は夢の中から姿を消してしまいました。


あれから何度も夢を見ます。

しかし、どの夢の中にも、あの少年の姿は見当たりません。


 「もう一度・・・もう一度あの夢を・・・。」


少女は願い続けました。

夜が訪れる度に、願いました。

強く・・・強く・・・。


病院のベッドの上で。

チューブに繋がれ、何の味もしない点滴の食事をしながら。


ベッドの上の少女は、何も感じる事が出来ませんでした。

痛みも、喜びも、悲しみも、憎しみも・・・そして温もりさえも。

何も感じません。

ただ管に繋がれ生きているだけの少女。


少女は長い長い眠りの中で、朝と夜を幾度となく繰返しています。

そんな中、時折見る夢の中で出会った少年。


 「彼はどこに居るの?薔薇はどこに有るの?」


少女は沢山の夢の中から、手さぐりに捜し続けます。

少年から貰った一輪の薔薇を・・・。

もう一度彼に会う為に。



ある朝少女は目を覚ましました。

それは夢の中では無く、病室のベッドの上で。

ゆっくりと鎖され続けた瞳を開きました。


眩しい光が差し込みます。

キラキラと輝く窓ガラス。

温かい日差し。

その傍らに咲く、一輪の薔薇。


 「なんだ・・・こんな所に有ったのね・・・。」


少女は少年から貰った一輪の薔薇を、ようやく見付けました。

花瓶の中に入れられた、たった一輪の薔薇の花。


これで少年にまた会える、少女はそう思い、嬉しそうに微かに微笑みました。

しかし、夢の中の生活が長すぎた少女は、そのまま永遠の眠りへとついてしまいました。


 「ああ・・・私を連れて行ってくのね・・・。永遠に目覚めない・・・夢の中へと・・・。」


少女は静かに、息をヒキトリマシタ。

その瞬間、あの少年に出会う事が出来ました。


 「約束通り会いに来たよ。」


少年は少女の手を取り、優しく微笑んでいました。

少女は少年に連れられ、クルクルと廻り踊りながら、星空へと飛び立って行きます。

とても・・・とても嬉しそうに。

幸せそうに・・・。


病室のベッドの上では、抜け殻の少女が眠っていました。

安らかに・・・とても安らかに眠る少女。


少年は天使だったのでしょうか?

それとも・・・死神だったのでしょうか?


ただ一輪だけ咲く薔薇の花弁の色は、黒かった・・・。



詩集ブログの方にも記載してある短編作品です。

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