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闇の中

作者:

頭を軽くしてお読みください。

 突然、わたしの視界が暗くなった。わたしは外の問題だと思っていたのだが、どうやらわたしの身体的な問題らしい。わたしがどういうことか、と身近な人間にたずねるとその人物は、

「わたしにはちゃんと視界が映っている。変なのはきみだ!」

 と意気揚々に言った。声調から察するに、声の主は夫だった。

 夫は財産を持て余して、決してお金を使わないわたしを疎ましく思っているのだ。これを機に死んでくれなどとでも思っているのだろう。最低だとは思わなかった。なぜならそれが人間のあるべき正しい姿だからだ。

 わたしが財産を溜め込んでいた理由もまた、わたしの愛人の車を購入するためだった。どちらも最低で人間らしかった。

 夫はわたしの視界がおかしくなったことを好機と見てふふんと鼻歌を歌っている。そのまま肉叩きで夫の顔面を叩き割ろうとしたが、この真っ暗な世界では右か左も皆目見当つかなかったため、ただうろうろする羽目になってしまった。無念である。

 そして夫はやはり皮肉ってきた。

「やっぱりきみは普通じゃないな。まるでゾンビのようだ。とっとと入院して財産をわたしに渡しなさい。」

 見えなくても喋れるわたしは猛反撃した。もっとも、足はふらふらなのだが。

「わたしの目がおかしくなっているからって、調子に乗らないで。この家はだれのお金で買ったと思っているの。」

「無論、わたしの金だ。」

「嘘おっしゃい。わたしの有り余って使い切れない財産で買ったのでしょう。」

「はん、妻のものはおれのもの論理だ!」

「ジャイアン論理せこい!」

 夫の声がする方向へわたしが歩むと、突然わたしの身体は横転してしまった。どうやら夫がわたしの足を引っかけたようだ。わたしは、

「なにするのよ!」

 と抗議する。夫はわたしをせせら笑うように、「はははん、大丈夫ですかー? 起こしてあげますよー。」と言った。

 実際に夫が手を差し伸べてきたようだったが、わたしはその手を振り払って「きたない手で触らないでくれないかしら。」と澄まし顔で言った。

 なんとも低脳な夫婦喧嘩である。おそらく、夫のほうもそう思っているだろう。

 しかし変な負けず嫌いである夫とわたしは、ここで引くわけにもいかなかった。事実わたしたちは引き際というものを知ったことがない。どうしてこんな夫と結婚したのか、わたしは本気で思い出せないでいた。

「まったくきみは頑固だね。もうすこし考え方を柔軟にしたほうがいい。そんなだからきみはいつまでたっても安らかになれないんだ。」

「あなたにもまったく同じ言葉を返せるわ。」

「まあいい。財産の略奪はまた今度にするから、今日は病院へ行こうじゃないか。」

 とうとう本音を言ったわね。この夫。

「そうね。」

「きみの財産のために愛しているぞ。」

 本音が湯水のように流れているわね。いつかわたしを殺しかねないわこの男。

「わたしもあなたを愛しているわ。」



 なーんてね。

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