第20話:修学旅行の混合部屋と、深夜の過保護な潜入者
アキとさくらが二人きりで風に吹かれるためスイートルームのバルコニーへ消えていった、まさにその頃。
室内に残された男女混合部屋のメンバーたちは、床の上に車座になって寛いでいた。
この学校は校風が異常なほど平和かつ自由であるため、今回の修学旅行では極めて珍しい『仲の良い班ごとの男女同室(混合部屋)』が特別に許可されていたのだ。
「いや〜! それにしても修学旅行で男女混合部屋なんて、うちの学校マジで神だろ!」
桐生蓮がフカフカのクッションを抱きかかえながら、大きなトランプの束をシャッフルする。
「浮かれるな桐生。平和な校風ゆえの特別措置だ。少しでも不純な問題を起こせば、即座に全員別室へ強制送還だからな」
橘零がピシッと眼鏡を正しながら警告する。水着から部屋着に着替えたレイは、相変わらず可憐な美少女の容姿でありながら、座り方は完全に貫禄のある『男』そのものだった。
「レイちゃん、お説教モード入ってる〜! でもほんと、みんなで一緒の部屋にお泊まりできるなんて最高だよね!」
小鳥遊雛がテンション高めにジュースの缶を掲げる。横では一ノ瀬夕日が優しく微笑んでいた。
「ふふっ、雛ちゃん、ジュースこぼさないでね? ……あ、そういえば風間くん、さっきから何書いてるの?」
「ん? ああ……今回の修学旅行編の台本のチェックさ」
風間凪がノートとペンを手に、クールな笑みを浮かべた。
「ふむ……それにしても、物語の進行速度としては実に興味深い。『第20話』にして、まさかの修学旅行での男女混合部屋という黄金展開……。本来ならもっと終盤に持ってくるイベントだがな」
「出た、凪のメタ発言!」
レンが笑いながらトランプをテーブルに並べた。
「でもさ〜、『第20話』ってなんかキリが良い数字だよな! 全20話構成の作品なら、今頃クライマックスでラスボスと戦ってるか、主人公が告白して完結してる話数だぞ!」
「バカ言え桐生。アキと白石の告白なんて『第1話』以前に完成しているようなものだ。ここで完結したら、ただのアキの過保護日常が20話続いただけになってしまうだろう」
レイが冷静にツッコミを入れる。その横で荒神蒼真が熱い男気を漂わせながら腕を組んだ。
「フッ……『第20話』か。格闘漫画なら、ちょうど主人公が修行を終えてライバルと拳を交える激闘の最中だな。俺たちの熱い友情も、今まさに20話目の最高潮を迎えているというわけだ」
「荒神くん、それジャンルが変わっちゃってるよ……!」
夕日が思わずクスッと吹き出し、部屋全体が温かい笑いに包まれた。
「まあ、アキのやつは『全25話どころか2500話まで連載を延長する』とか一階で暴走してたけどな……」
「ハハハ! あいつなら本当に作者や出版社に殴り込みに行きかねねぇから怖いよ!」
レンが爆笑しながらカードを配り始めた——まさにその時。
カチャリ。
バルコニーへと続くガラス戸が開き、アキがさくらを横抱き(お姫様抱っこ)にした状態で室内へと戻ってきた。
「きゃっ……!? あ、アキくん、みんながいるのに抱っこは……っ!」
さくらの顔は、もはや発火しそうなほど真っ赤に染まっている。アキの首元にしっかりと腕を回しつつも、恥ずかしさで胸元に顔を埋めていた。
「気にするな。夜風で冷えたお前の足を直接歩かせるわけにはいかん」
冷徹な表情で言い放つアキ。部屋にいた全員が、呆れたような、生温かいような視線を向ける。
「おかえり〜、アキ! さくらちゃん! バルコニーで何して……って、さくらちゃんの首元、なんか赤くなってない!?」
雛が目敏く指摘した。さくらの真っ白なうなじには、先ほどアキが深く刻み込んだばかりの、甘い噛み痕がうっすらと浮かび上がっていた。
「っ〜〜〜〜〜っっ!??!?」
さくらが悲鳴を上げて両手で首元を隠す。
「なんでもない! なんでもないよ雛ちゃん! ちょっと南国の虫に刺されただけだからっ!!」
「……あんな巨大なキスマークをつける虫がいてたまるか。白石、お前も大変だな」
レイが苦笑しながらジュースを啜る。アキはさくらをそっと高級ソファの上に降ろすと、冷酷な眼差しで全員を見回した。
「おい、レン。お前たち、なぜまだ起きている?」
「えっ……? なぜって……修学旅行の夜だぞ? トランプしたり恋バナしたりして夜更かしするに決まってんだろ!」
「消灯時間はとっくに過ぎている。さくらの睡眠時間を阻害する者は、たとえ友人であれ排除する」
「俺たち静かにトランプしてただけだろ!!」
レンの叫び虚しく、アキはさくらの隣にどっかりと座り直し、その細い腰をしっかりと腕で抱きすくめた。
「さくら。今夜はお前のベッドの隣に俺の布団を敷く」
「ええっ!? ア、アキくん、一応男女混合部屋だけど、敷布団は男子ゾーンと女子ゾーンで分かれてるんだよ……!?」
「そんな物理的距離に何の意味がある。俺の目の届かない場所でお前を寝かせるなど、過保護な絶対守護神として失格だ。俺はお前の横で、一晩中お前の寝顔を監視……いや、保護する」
「保護じゃなくて完全な所有権だよそれ!!」
レンの決死のツッコミが、再び豪華なスイートルームに響き渡った。
「ふふっ……でも、アキくんが近くにいてくれた方が、私……すごく安心して眠れるよ」
さくらが照れくさそうに微笑みながら、アキの腕に自分の手を重ねる。その可憐で健気な信頼の眼差しに、アキの胸の奥で凶暴な愛おしさが爆発した。
「……さくら。明日も、明後日も、そして修学旅行が終わっても……ずっと俺の側にいろ」
「うん……! ずっとアキくんの側にいるよ」
部屋の隅でレンが「また二人だけの世界に入った……」と頭を抱え、レイが「諦めろ桐生、これが日常だ」と肩を叩く。
10人の仲間たちとにぎやかに過ごす修学旅行の夜。
過保護で激重なアキの絶対愛と、それを受け入れるさくらの絆は、年月の経過とともにどこまでも深く、甘く深まっていくのだった――。
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