第9話:熱の去り際と、密室の誓約
夜を越え、静けさに包まれたさくらの部屋に、うっすらと朝の光が差し込み始めていた。
昨夜の激しい発熱と、俺の付きっきりでの過保護な看病を経て、あいつの身体を覆っていた熱気は次第に静まりつつあった。掛け布団の中で規則正しい寝息を立てていたさくらが、まぶたをピクッと揺らし、ゆっくりと瞳を開ける。
「ん……んん……っ……」
「目覚めたか」
「……ふえ……? ア……アキくん……!?」
自分の真横から響いた低く落ち着いた声に、さくらは飛び起きようとして、すぐさま自分の身体が身動きの取れない状態にあることに気づいた。俺の左腕があいつの細い腰にガッチリと回され、右手がその背中を隙間なく抱きかかえているからだ。
「あ、アキくん……!? なんで……なんで一緒にベッドの中に……っ!?」
「昨日のお前が『ぎゅっとしてほしい』と甘えて離さなかったからだ。忘れたとは言わせん」
「うぐっ……! そ、それは熱のせいというか……うぅ、覚えてるけど……っ!」
さくらは昨夜の自分の言動を思い出したのか、一瞬で顔をりんごのように真っ赤に染め上げた。昨夜の甘えモードから一転して恥ずかしさに身をよじる姿も愛おしいが、俺は逃がすつもりなど毛頭なく、むしろ腕の力を強めてあいつを胸元へ引き寄せた。
おでことおでこをそっと突き合わせ、熱を測る。
「ん……っ……! アキくん、顔が近い……っ!」
「動くな。……よし、熱はかなり下がったな。平熱に届くのも時間の問題だ」
「よ、よかった……! アキくんがずっと看病してくれたおかげだね。ありがとう……」
「感謝ならいくらでも受け取る。だが、その前にお前の罪を数えてもらおうか」
「えっ……つ、罪……!?」
さくらが目を丸くして身を縮める。俺は冷酷に、しかし愛おしさに満ちた眼差しであいつの可憐な顔を見つめた。
「体調不良を隠して無理に登校したこと。俺に心配をかけたこと。そして――弱った姿で俺の理性を極限まで試したことだ」
「さ、最後のやつは私のせいじゃないよバカアキくんっ!」
「お前の存在そのものが、俺の理性を狂わせる原因だと言っている」
俺は空いている右手であいつの顎を繊細に掬い上げ、唇をそっとあいつの柔らかいおでこ、そして両方の目蓋へと落としていった。
「アキ……くん……っ」
「言ったはずだ。お前の体も、熱も、感情の揺らぎ一つに至るまで、すべて俺の管理下にある。二度と俺に内緒で無理をするな」
「……うん。ごめんなさい……もう絶対、無理しないから……」
素直に反省してうなずくさくらの愛らしさに、胸の奥が熱く疼く。熱が引いた後のこの無防備な朝。二回目、三回目の展開へと繋がる、甘く濃密な密室の時間が本格的に始まろうとしていた――。




