人は時として探偵となり、冤罪を生む
ぐっ、苦しい……。痛い……。
朝方、俺は地獄の苦しみを味わっていた。
自宅アパートで横たわったまま、身動き一つ取れない。
ちくしょう、なんで俺がこんな目に……。
思い出せ、昨日俺になにがあったかを――
昨日の朝七時頃、いつものように起きた俺は、寝ぼけまなこで、まずパンを焼いた。
こんがり焼けたトーストにマーガリンを塗り、コーヒーと一緒に食す。我ながら優雅な朝食だ。
それから歯を磨いて、寝間着から着替えて、しばらくテレビやスマホを見ながら過ごす。
のんびりと、だらだらしてるけど、どこか心地よい時間が流れていく。
十時ぐらいになり、天気もいいので俺は出かけることにした。
近所の人に会い、軽く挨拶する。
15分ほど歩き、俺は行きつけの100円ショップに入る。
店内を物色。これといって買いたい物は見当たらない。
とはいえ、何も買わずに出るのもあれだから、「手軽にタンパク質が取れる」みたいな謳い文句のチョコバーを一本購入。
店を出て、歩きながらボリボリ食べる。
うん、100円にしては美味いな、これ。もう二、三本買っておけばよかったとちょっと後悔。さすがに店に戻るまではいかないけど。
しばらく散歩をした後、帰宅し、昼食はカップ麺にする。
お湯を入れて三分。
でも、さっきのチョコバーを食べてかえって腹がすいていた俺は、おそらく三分経ってないのに麺を食べてしまった。まあ、問題ない美味さだった。
午後をぼんやり過ごしていると、友人が遊びに来た。
突然だったし、事前に連絡ぐらいしといてくれとも思ったが、こうして来てもらえると嬉しいし、テンションが上がる。
妙な箱を持っていると思ったら、カステラだった。
親戚から貰ったけど、なかなか食べる機会がなく、せっかくだからと持ってきたとのこと。
俺と友人は対戦ゲームをやって過ごす。勝敗は五分五分ってところか。
持ってきてくれたカステラをおやつとして食べる。味自体はよかったが、ちょっとパサパサしてたな。
夕方頃、友人が帰り、俺は夕食の支度をする。
冷蔵庫にあった卵で卵焼きを作る。俺は半熟ぐらいのが好みだ。さらにはほうれん草を茹でて、調味料と混ぜて和え物にする。炊飯器にはご飯があるから、これを主食にしよう。
いただきます。
うん、どれも美味い。俺ってプロの料理人になれるんじゃないか。なれるわけねーだろ。こんなセルフツッコミをしたことも覚えている。
飯食ったらシャワー浴びて、寝間着に着替えて、スマホ見ながらだらだら過ごして……。
布団に入り――
――今に至るってわけだ。
今、俺は猛烈な腹痛に襲われている。
脂汗ドバドバだし、腸のあたりがギュルギュルいってるし、腹を壊したのは間違いない。
犯人は、今思い出した連中の中にいるはずだ。
トーストか、チョコバーか、カップ麺か、カステラか、夕食か……。
トーストはしっかり焼いたので食中毒なんか起こすはずない。
チョコバーも食中毒を起こす要素はないだろう。
カップ麺も、多少早く食べたところでお腹なんか壊さないだろう。
だとしたら……あれだ。あいつの持ってきたカステラ! 犯人はカステラだ!
カステラって普通しっとりしてるのに、なんかパサパサしてたし、きっと古かったんだ。
くそぉ、俺をこんな目にあわせやがってぇ……。
とはいえ、証拠はないから、問い詰めるようなことはしないけど、今度会ったら「お前、腹とか壊さなかった?」ってちょっとカマかけてやる。
それで壊したって言ったら、お前のカステラのせいだって言ってやるぅぅぅ……。
にしても、腹いてえ……。いてえよぉぉぉ……。
***
ちなみに犯人は、彼が自分で焼いた卵焼きである。
冷蔵庫の卵がすでに古く、しかも彼はそれを十分加熱せずに食してしまった。
そのため、数時間後の未明に腹痛に襲われてしまったのだ。
さらに言えば、彼の食中毒は幸い軽症で、およそ一時間後には出すべき物を全て出し、容態は回復する。
喉元過ぎれば熱さを忘れる理論で、彼はこのことをすっかり忘れてしまうので、彼の脳内でカステラに着せられた冤罪が晴れることは永久にない。
――人は時として探偵となり、冤罪を生む。
完
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