終章
水平の意志へ
世界は揺れている。
私たちが立っている地面は、
いつからか、
確かなものではなくなった。
揺れは止まらない。
止めることもできない。
ただ、揺れの中で
倒れずにいる方法だけが
ゆっくりと、
しかし確かに、
求められている。
垂直に伸びる塔は、
揺れに弱い。
高く、鋭く、孤独で、
ひとたび風が吹けば
その影ごと崩れ落ちる。
けれど、
水平に渡された梁は、
揺れを受け流し、
しなり、
折れず、
誰かの重さを
そっと引き受ける。
水平の意志とは、
そのような梁の意志だ。
誰かを引き上げるためではなく、
誰かを見捨てないために。
同じになるためではなく、
違いのまま立ち続けるために。
完全を求めるためではなく、
壊れながら編み直すために。
私たちは皆、
選んでいない関係の中に
投げ込まれている。
家族。
時代。
身体。
技術。
そして、
言葉にならない沈黙。
そこから降りることはできない。
だからこそ、
降りられない関係を
どう持ち直すかが問われている。
共有とは、
同じ痛みを分け合うことではない。
誰か一人が崩れ落ちないように、
その都度、
重さを動かし続けることだ。
倒れそうなときだけ支え、
支える側と支えられる側は
固定されず、
不均衡は責められず、
ただ、
揺れの中で
持ち直す。
それが、
水平の意志。
静かで、
目立たず、
しかし確かに
文明を支える意志。
あなたが今、
無意識に誰か一人に押し付けている重さは何か。
その重さを、
どこへ、
どう動かせるだろう。
揺れは止まらない。
だからこそ、
倒れない構造を
私たちはつくり続ける。
水平の意志は、
ここで終わらない。
ここから始まる。




