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第3章 運用とコモンズの設計

――関係を維持するための三つの技術――


1. 生活のノイズを吸収する


関係は、設計図どおりには動かない。


日常には、

わがまま、誤解、疲労、沈黙、気分の揺れが入り込む。

これらはしばしば「問題」や「欠陥」として扱われる。


しかし本論では、

それらを欠陥とはみなさない。


むしろそれらは、

構造が生きている証拠であり、

建築における「遊び」に相当する。


ノイズを排除しようとする構造は、

一見すると整って見えるが、

わずかな揺れで破断する。


倒れない構造とは、

ノイズを吸収し、

完全には整列しないことを許容する構造である。


運用とは、

秩序を保つことではない。

揺れながら崩れない状態を維持することである。


2. 外部と呼吸するための「窓」


閉じた関係は、必ず腐る。


家族も、教育も、職場も、

オンライン・コミュニティも例外ではない。


内部だけで完結する関係は、

やがて同一化を強め、

違和を排除し、

沈黙を敵視するようになる。


そこで必要になるのが、

**「窓」**である。


窓とは、


外部の風


他者の視線


世界の無関心

を取り込むための開口部である。


重要なのは、

外部が「理解してくれる」ことではない。

外部が存在している、という事実そのものが

関係の過熱を冷ます。


窓は、救済ではない。

換気装置である。


3. 解体と再建築


――終わらせるのではなく、移行させる


すべての関係が維持できるわけではない。


しかし、維持できなくなった関係は、

破壊されるべきではない。


必要なのは、

解体である。


解体とは、

暴力的な断絶ではなく、

構造をばらし、

部材を再利用可能な形に戻す作業である。


解体には、次の工程が含まれる。


透明化

 何が機能しなくなったのかを言語化する。


減速

 即断を避け、関係の速度を落とす。


緩衝

 感情や責任の衝突を直接ぶつけない。


資材の再利用

 経験や記憶を、次の関係に持ち越す。


これにより、

関係は「終わる」のではなく、

構造的に移行する。


4. コモンズという大地


個々の関係が集積すると、

そこには必ず

**共有地コモンズ**が生まれる。


道。

広場。

風の通り道。

公共の沈黙。


コモンズは、

誰のものでもない。

しかし、誰にとっても不可欠である。


それは所有される対象ではなく、

踏みしめられる地盤である。


関係が倒れないためには、

この地盤が健全でなければならない。


5. コモンズの三つの危機


コモンズは、

放っておけば自然に維持されるものではない。


典型的には、

次の三つの危機に晒される。


① 荒廃


誰も使わなくなることで、機能を失う。


② 独占


一部の者が使いすぎることで、他者を排除する。


③ 硬直


制度やルールが更新されず、現実に耐えられなくなる。


これらはすべて、

運用の失敗である。


管理を強化しても、

これらの危機は解消されない。


6. 管理から運用へ


コモンズに必要なのは、

管理(control)ではない。


管理は、


過剰な統制


あるいは無関心な放置

のどちらかに傾きやすい。


必要なのは、

**運用(maintenance)**である。


運用とは、


揺れを観察する


偏りを調整する


破損を修復する


更新を続ける


という、終わりのない実践である。


コモンズは、

「守られるもの」ではない。

運用され続けるものである。


7. コモンズは文明の地盤である


教育のコモンズ。

家族のコモンズ。

デジタルのコモンズ。

地域のコモンズ。


これらは、

文明を下から支える地盤である。


水平の意志は、

コモンズを

倫理や善意の問題としてではなく、

構造と運用の問題として扱う。


それによって初めて、

文明は揺れながら持続する。


事例

コモンズの危機と運用


あるマンションで、

ゴミ置き場が荒れ始める。


誰も掃除しない(荒廃)


一部の住民が大量に捨てる(独占)


ルールが古く、誰も守らない(硬直)


管理会社は罰則を強化するが、

状況は悪化する。


そこで住民は、

管理ではなく運用へと転換する。


ノイズの吸収

 多少の分別ミスは即座に咎めない。


窓の設計

 掲示板を設け、意見が可視化される場をつくる。


解体と再建築

 古いルールを一度解体し、住民で再設計する。


結果として、

ゴミ置き場は

「誰のものでもないが、全員に必要なコモンズ」

として機能し始める。


これは成功談ではない。

運用が始まった、という事例である。

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