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序章

揺れる世界に、どう立つのか

世界は揺れている。

制度も、家族も、教育も、デジタル空間も、そして私たち自身も揺れている。

揺れはもはや例外ではなく、現代の標準である。

にもかかわらず、私たちが受け継いできた哲学や制度は、

揺れを「異常」とみなし、揺れない構造をつくろうとしてきた。

揺れない真理、揺れない制度、揺れない家族。

しかし、揺れを否認する構造は、揺れが生じた瞬間に壊れる。

現代の危機は、個の弱さではない。

それは、関係の断絶として現れる。

家族が壊れ、学校が壊れ、SNSが壊れ、地域が壊れ、

そして私たち自身のつながりが壊れていく。

従来の「意志」は、個の内部に宿る垂直の力だった。

自分を超える力、弱さを克服する力、上へ登る力。

しかし垂直の意志は、関係の崩壊を扱うことができない。

本書が提案するのは、意志の方向そのものの転回である。

垂直の超克から、水平の持続へ。

意志とは、一人で強くなるための力ではなく、

揺れ続ける世界で倒れない関係をつくるための技術である。

壊れた関係を編み直し、沈黙を包摂し、違いを抱えたまま立ち続け、

揺れを吸収し、倒れない構造をつくるための意志。

英雄の意志ではなく、建築家の意志。

完成を求める意志ではなく、修復を続ける意志。

同じになることを強いる意志ではなく、

違いを抱えたまま同じ地盤に立つ意志。

本書は、この「水平の意志」を、

哲学・建築学・コモンズ・教育・家族・デジタル空間へと展開し、

揺れ続ける文明において倒れないための構造を描く。

揺れは止まらない。

だからこそ、倒れない構造をつくる必要がある。

本書は、そのための最初の図面である。

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