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青騎士の失態  作者: 望月あん
5章
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死にたがりにピリオドの雨(1)

 任務当日まで宿暮らしというわけにもいかない。わたしとシロカネはメテオラの借りているアパートメントを間借りすることにした。


 間借りといっても、ソファのある居間と続きの寝室があるだけで、分けられる間は残念ながらほぼないのだが……。


 毎夜ベッドかソファかでくじ引きになるとはいえお世話になることに間違いはない。わたしはシロカネとともに水回りの掃除をすることにした。


 女将さんからいただいた服は汚したくないので、事情を話してメテオラから着古しを譲ってもらう。高価なものや、お気に入りのものはやめてくれと頼むと、メテオラはおおいに悩み、最終的に渡されたのはコットン素材のシンプルな白シャツと、カーキのワークパンツだった。


 背丈はげんこつひとつほどしか差がないのに、わたしが着るとどうしてもだぶついてしまうのがなんだかすこし悔しい。


 ……あと、服にしみついたメテオラのにおいがあまったるくて困る。


 わたしは腕まくりをして、キッチンのシンクを磨きはじめた。風呂からはなかば水浴びをしているシロカネの楽しそうな笑い声と歌声が響いてくる。聞いていると、こちらも思わず笑顔になった。


 騎士学校時代を思い出す。自室の清掃だけでなく共有施設の清掃も生徒の持ち回りだった。当番のときには、みなで大合唱をしながらモップをかけたり、水を掛けあいながら窓を拭いたものだ。


 懐かしさを覚えるたび、ちいさな棘が胸を刺す。郷愁というものは誰にとってもそういうものなのだろうか。それとも、百年という隔絶がそうさせるのだろうか。


 部屋の呼び鈴が鳴る。わたしは顔をあげて、寝室にいるメテオラに声をかけた。


「メテオラ、客人だ」

「聞こえてるー。ごめんルーチェ、代わりに出てくれる」

「わかった」


 わたしは濡れた手をぬぐいながら部屋のドアを開けた。


「ちょっとメテオラ! あんたこれまでどこにいたのよ!」


 開けるやいなや、わたしの胸に女性が飛び込んでくる。だが当然すぐにメテオラではないことに気づいて、わたしのシャツを掴んだまま表情をかたくした。


「えっ、だれ」


 つややかな髪とおなじコーラルピンクの瞳が不審げにゆがむ。わたしはどう答えたものか悩み、あいまいな笑顔を浮かべた。


「え、ええと……」

「よおソル、ちょうどよかった、頼みたい仕事があるんだよ」


 ドアにもたれながら、わたしのうしろからメテオラが顔を覗かせる。ソルと呼ばれた女性はうつくしいまなじりを尖らせた。


「なにこれどういうこと」

「どうって?」

「誰、このひと」


 あっ、これは……。

 騎士学校時代によく見かけた……修羅場というやつなのでは……?


「メ、メテオラ……、わたしはシロカネと買い出しに行ってくるから、そのあいだ客人とゆっくり過ごして……」

「買い出しならおれも行くからあとでいいよ」

「いや、そういう話ではなくて」


 貴様はよくても、わたしがよくない。

 コーラルピンクの瞳はばらの花のように高潔で、息づまるほど濃密な色香を放っている。

 メテオラはわたしの言葉の続きを待っているようだが、じっと見つめてくる彼女の視線が痛いとはまさか言えない。


「貰い物の茶葉があるから、立ち話もなんだしとりあえず入れよ」


 そう言ってメテオラは先にキッチンへと戻っていく。彼女はわたしの顔をじっと見つめ続けたまま、わたしの横をすり抜けて部屋へあがっていった。

 わたしは彼女の眼差しから逃れ、ひとまずほっと息をつく。


 誰、このひと、……か。

 帝国騎士のルーチェ・ロッソだ、とこたえればよかったか。いや、違うな。問われたのは、メテオラのなんなのかということだ。

 どう説明すればいいのだろう。


 いや、そもそもわたしとメテオラの関係とは、いったい何にあたるのだろう。契約をかわす折、メテオラはわたしの眷属になると言った。たしかにメテオラには助けられてばかりだが、眷属という言葉がもつ主と従の響きはわたしたちにはそぐわないように思う。それならば家族? 友人? 知人……もしっくりこない。


 たとえるなら、騎士学校時代の仲間や、ともに戦場に立った仲間になるのだろうか。仲間、か。悪くない響きだ。


 ソファにはソルと呼ばれた彼女が座る。わたしはびしょびしょのシロカネをタオルで乾かしながらベッドの端に腰かけた。


「ルーチェさん、なんかめちゃくちゃ見られてます」


 シロカネは彼女に背を向けているが、気配には敏感なのだろう、声を震わせている。


「すぐに誤解はとけるだろうから、大丈夫」


 しっかり頷いてみせるが、シロカネの不安げな表情は深まるばかりだ。いったい、なにがいけないのだろう。

 宿でメテオラが読んでいた本を思い出す。彼女はわたしの上司ではないが、わたしもすこしは目を通しておけばよかったのだろうか。

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