第一章 迫害の街
第一章 迫害の街
雪がやんだ朝、禍津ノ国の都・白籠の空は澄んでいた。
市場の通りは活気にあふれ、屋台では湯気が上がり、子どもたちは走り回る。
だが同じ街の外れ、石造りの高い塀に囲まれた教会区域は静まり返り、不気味なほど整えられた白の世界が広がっていた。
「……また捜索令が出たらしい」
巡回中の騎士団の詰め所で、副団長の男が低く言った。
「今度は東区の集落だとさ。魔術絡みの事件だとよ」
その言葉に、凛夜は眉を寄せた。
「魔術絡み? だが蒼影は――」
「お前の幼なじみが容疑者だとは言ってねぇよ。ただ、"規格外の能力者"が現れた場合、教会は片っ端から回収しにくる。そういう国だろ、ここは」
副団長は肩を竦める。
凛夜は拳を握りしめ、静かに席を立った。
「……休暇をもらう。すぐ戻る」
副団長はため息をついた。
「おい、まだ何も言ってねえぞ。でもまあ、行けよ。……悪いことは言わねぇ。あのガキ、早く匿え」
凛夜は振り返らなかったが、礼の意味で軽く手を挙げ詰め所を後にした。
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蒼影が暮らす郊外の小さな家は杉林の先にあった。
扉を開くと、蒼影は湯気の立つ鍋を覗き込みながら振り返る。
「凛夜! ちょうど良かった、粥できたよ」
「……お前は本当に緊張感がないな」
凛夜は苦笑しながら家に入る。その優しい匂いに、張りつめた心が緩む気がした。
「ねえ凛夜。最近街がざわついてるけど、大丈夫なの?」
「問題ない。ただ……町の連中から離れて暮らすのは正しい判断だ。ここにいろ」
「え、もしかして心配して来てくれたの?」
蒼影は嬉しそうに笑う。その笑顔を見るたび、凛夜は胸が締め付けられる。
守りたい――この世界がどうなろうとも。
その時だった。
――ドンッ!!!
家の扉が破壊された。
「教会査察局だ! 魔力反応を確認——その者を拘束せよ!」
白い法衣を纏った男たちが雪崩れ込み、結界具を構えた。
蒼影が凍りつき、凛夜が即座に前へ出る。
「待て! 令状はあるのか!」
「これは国家の命令だ。貴様、騎士団のくせに逆らうのか?」
返答の必要はなかった。蒼影に手を伸ばした査察局員の首元に、次の瞬間、凛夜の剣が突き付けられていた。
空気が凍る。
凛夜は静かに告げた。
「――蒼影に触れたら、殺す」
その声音は淡く静かで――氷より冷たかった。




