レオナ王国へ
夕暮れ。甲板に出ると、空の端が蜜色に溶けていた。
ジーンがマストにもたれ、レオナは海図を膝に、羽根ペンでさらさらと線を引く。
「父がよく言っていました。“どう勝つか”より“どう終わらせるか”だと。……あなたの話を聞いて、やっと腑に落ちた気がします。」
「勝利は手段だ。終わらせ方が目的だ。」
「はい。」レオナは照れたように微笑み、ノートを閉じた。
夜、ラウンジにはギターの音。アンジェロッテはほどなく眠り、セリーヌが軽い毛布を肩に掛ける。ロゼリアとフェリカは、同じページの楽譜を覗き込み、息を合わせて小さくハミングした。
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翌朝――かもめの声。風が塩を運び、遠くに褐色の海崖と白い灯台が見えた。王国の沿岸だ。
「帰ってきた。」カーヴェルが短く言う。
フェリーを木船に変えて港へと滑り込むと、埠頭には早くも人だかりができている。和平の報せと、王と宰相の若返りの噂――“女神の子孫の王家”と“女神の使徒カーヴェル”の話は、街角のパン屋から居酒屋、井戸端から学校まで、そこかしこで囁かれていた。
「見て、旗。」ロゼリアが指さす。
色とりどりの布に、子どもたちの拙い字が踊る。〈ありがとう〉〈しあわせ〉〈もう戦わないで〉。
フェリカが目尻を指で拭った。
「……こういう時だけは、言葉が追いつかないわ。」
タラップが降りる。
ちいさな花冠を抱えた少女が、もじもじとカーヴェルの前に立った。
「これ……女神さまの、つかいの人に。」
「受け取ろう。」
カーヴェルは膝をつき、花冠を受け、少女の頭にそっと載せてやる。
「君が笑って暮らせるように――それが“終わらせる”意味だ。」
背後で、レオナが深く一礼する。
「王都で、たくさん学びます。終わらせ方を。」
「ようこそ、王国へ。」セリーヌが微笑み、アリエルとジーンが両脇から親指を立てた。
喧噪の向こう、王都の尖塔が朝日に光る。
三万の軍勢を嘲って怒らせた毒舌も、重力で編む無重力の泡も、スケルトンの幻も――すべてはここに連なる一本の線。
“勝つ”ためでなく、“終わらせる”ために。
カーヴェルは短く息を吸い、次にやるべきことを胸の内で並べ替えた。
帝国の内情、魔族領事館との協調、そして人竜族の友――。
「さあ、働くぞ。」
彼が言うと、ロゼリアとフェリカが顔を見合わせ、同時に笑った。
「了解、旦那様。」
港の鐘が、祝祭のように高く澄んで鳴り渡った。




