表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/72

演出

王都への帰還と祝宴の余韻


森を抜け平地に出た一行は、カーヴェルのマジックバッグから再び屋敷を取り出した。

今度は最後の宿泊となる夜。

食堂には豪勢な料理が並び、酒も惜しみなく振る舞われた。


カーヴェルは杯を掲げ、仲間たちを見渡した。


「誰も欠けず、全てを成し遂げられたのは君たちのおかげだ。本当に素晴らしい仲間だ」




その言葉に全員は赤面しながらも心からの誇りを覚え、深夜まで笑いと語らいの輪が絶えなかった。


翌朝、カーヴェルの転移魔法により、一行は王都に戻った。




ジェシカとミーシャの再会


王都に帰還した瞬間、ジェシカは真っ先にミーシャを迎えた。

「団長、ご無事で……!」

再会の喜びに胸を撫で下ろしたジェシカだったが、その直後から心に重い影が落ち始める。


それは――ミーシャがカーヴェルに心を寄せていること。


戦略眼、戦術力


的確な状況判断


魔法・剣を問わぬ個人戦闘力


絶対的な指導力


そして男としての魅力



ミーシャが口にした賛辞の一つ一つは、ジェシカ自身が抱いている思いと重なり、心に突き刺さった。



ミーシャの言葉とジェシカの葛藤


ミーシャはまっすぐな眼差しで言った。


「私、あの人が旦那様になったとしたら……戦術も戦略も、色々と教えてもらいたい」




ジェシカは胸の奥がチクリと痛むのを感じながらも、必死に表情を保ち、冷静を装って答えた。


「ダメです。あの方にはもう二人も奥方がいらっしゃるんですから……団長も自重してください」




それは嫉妬と焦りの入り混じった言葉だった。

心の底では「譲る気など微塵もない」と叫びながらも、上司相手にそれを口に出すことはできなかった。





しかしミーシャはさらに続けた。


「……でも女神様が言ったんです。カーヴェル殿と協力しあって王国を救えと」




その言葉を聞いたジェシカの胸は揺れた。

「女神様……? そんなものまで……」


信じたくない気持ちと、確かにカーヴェルがただの人間ではないことを理解している自分。

両方の思いがせめぎ合い、ジェシカは心の中で強く誓った。


「……でも私は負けない。どんな相手だろうと、カーヴェル様を諦めたりはしない」



嫉妬に揺れながらも、愛する男を守り抜こうとする女騎士の決意が、ジェシカの中に芽生えたのだった。



王宮への呼び出し


カーヴェルとミーシャは王宮の大理石の廊下を並んで歩いていた。

壁には重厚な絵画や王家の紋章が掲げられ、緊張感が張り詰めている。


カーヴェルは軽く笑みを浮かべながら言った。


「どうやら王は女神様の件で慌てているな。」




ミーシャは肩をすくめ、少し照れ笑いする。


「そうかもしれませんね……。私ですら浮かれてしまいましたから。エヘヘ」




カーヴェルは横目で見て、真剣な声色に変える。


「いや、そういう意味じゃない。今の王は猜疑心に満ち溢れている。だからこそ俺たちの立ち振る舞いひとつで、信頼を勝ち取るか敵意を買うかが決まるんだ。」




ミーシャは緊張した顔で頷く。


「……やっぱり怖い人ですね、陛下は」




カーヴェルは肩をすくめる。


「女神や俺が恐ろしいんだろうな。だからこそ、こちらから安心を与えてやらなきゃならない。」




ミーシャは驚いたように目を見開き、そして少し安心したように微笑んだ。



---


王との謁見


重厚な扉が開き、王と宰相、重臣たちが待つ玉座の間に通される。


王はまず、ミーシャに目を向けた。


「此度の魔族の企みを排除し、余は嬉しく思う。……だがミーシャよ、この報告書は何だ?」




宰相が巻物を広げ、読み上げる。


> 「どうしましょう陛下、女神様が降臨されました! ピカーっとして、あっという間に街を戻して人を生き返らせて……。私は祝福を受けてしまいました。どうしましょう、どうしましょう、人生最高の日でした!」




重臣たちの間から爆笑が起こった。

「なんだこれは!」「子供の作文か!」と声が上がり、ミーシャは顔を真っ赤にして両手で隠した。


カーヴェルはすぐさま口を開く。


「笑うな。俺も彼女と共に女神を目撃した。確かにあの光景は、報告に書いた通りのものだった。」




ミーシャも顔を上げ、必死に言葉を重ねる。


「ま、間違いありません! 女神様は本当におられました!」




王は訝しげに眉を寄せたが、カーヴェルが隣にいたことで安心したように小さく頷いた。


「……そうか。女神様はカーヴェル殿ではないな?」


(うん?国王は、これは女神の光り、そうかなるほどな)カーヴェルは感じた。




カーヴェルは軽く笑って首を振った。


「ええ、違います。女神様は王国のために、私を使い、王国に仇なす者を排除するよう導いているのです。砦の一件や魔獣の侵攻も、女神様が私に差し向けてきた試練だったのでしょう。どうやら私は女神様に頼りにされてしまったようです。」




その言葉に、重臣たちはざわめいた。






王は腕を組み、目を細める。


(女神様が勇者ではなく、この男を使っている……? それはつまり、王家を超える存在を持ち込もうとしているのではないか……?)




疑念が渦巻いたが、次のカーヴェルの言葉がそれを和らげた。


「女神様は仰いました。王と協力し、帝国と魔族に対抗せよ、と。そして――王家は女神様の子孫にあたるがゆえに、子孫繁栄のために助力するのは当然だと。」




玉座の間が静まり返った。重臣たちの目が一斉に王へと向けられる。


宗務卿は震える声で「王家が女神の血筋……!」と涙ぐみ、


財務卿は「この国の正統性がさらに強まる!」と歓喜し、


軍務卿は「神の後ろ盾があるとなれば兵の士気は天を突くでしょう」と胸を張った。



宰相ですら驚愕の表情を隠せなかった。




王はゆっくりと立ち上がり、感極まった表情で言った。


「女神様は余たちを見捨ててはおられなかったのだ……。

カーヴェル殿、これからも余のため、そして王国のために尽力してくれ。そなたは女神様に選ばれし者、余にとってかけがえのない柱である!」




カーヴェルは深々と一礼する。


「承知しました。王国のために、この命をお貸ししましょう」




その場にいた誰もが、王家の繁栄を女神が約束したのだと信じ込み、歓声と拍手が広がった。


ミーシャは隣で誇らしげに胸を張りながらも、心の奥で小さく呟いた。


(女神様は、やっぱり私を選んでくださった……。でも、カーヴェル殿がいなければ何もできない……。私はこの人にすがるしかないんだ)




王の前で女神の血筋の話を聞いた宰相は、表向きは納得したように振る舞いながらも、心の奥では疑いを募らせていた。


「……やはり怪しい。あの男カーヴェルが女神そのものではないのか?」




彼は密かに部下に命じ、カーヴェルの行動を逐一尾行させることにした。




カーヴェルはすぐに気づいた。背後に忍び寄る視線、そして宰相が何かを探ろうとしていることを。

彼は念話でカリスタへと呼びかける。


「宰相が俺を疑っている。女神アルファエルの正体が俺だと考えているんだろう。……そこで頼みがある」

「……何をすればよいのですか?」カリスタの心の声は緊張していた。

「君が女神アルファエルになって、俺と会話している姿を“偶然”宰相に目撃させる。そうすれば疑いは晴れるはずだ。」

「……なるほど、演出ですね。分かりました、私にお任せください」






その夜、王宮の裏庭。

月明かりが差し込む石畳の上に、カーヴェルが立っていた。

近くの植え込みに潜む宰相の影――カーヴェルは気づいていたが、敢えて無視する。


そこに眩い光が降り、神々しい女神アルファエルの姿が現れる。カリスタが変化した姿だ。

ドレスのような光の衣を纏い、金色の髪が風に舞う。


アルファエルは冷ややかに言葉を投げかけた。


「カーヴェル、私は言いましたよね。王に、子孫であることを、決して言ってはならないと」




カーヴェルは苦い顔をして肩をすくめる。


「仕方ないでしょう、あの場合は……こっちも色々事情があったんです」




アルファエルは目を細め、厳しい声音で告げる。


「次はありませんよ、カーヴェル。よく心得ておきなさい」




カーヴェルは渋々と頭を垂れる。


「はい、わかりました……女神様」




植え込みに身を潜めていた宰相は、その光景を目の当たりにし、息を呑んだ。

女神の輝きは眩く、声は荘厳。カーヴェルがひざまずく様は、完全に「臣下」としての姿だった。


宰相は震える手で額の汗をぬぐいながら呟いた。


「……本物だったのか……。女神様は確かに存在し、カーヴェルはその従者……。これは……陛下に報告せねば……」




彼の疑念は完全に払拭され、むしろ女神と王国のつながりを確信したのだった。




アルファエルの光はゆっくりと消え、庭には再び静寂が訪れた。

カーヴェルは夜空を見上げ、ひとり小さく笑う。


「これで宰相も余計な疑いを持たなくなるだろう……。さて、次は帝国か、それとも魔族か」




月明かりに照らされた横顔は、どこか余裕を漂わせながらも、次なる嵐を予感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ