消えちゃった希望
赤ん坊が俺の手を握っている
でも体は動かない
赤ん坊が俺に微笑みかけている
でも体は動かない
赤ん坊の泣き声が聞こえる
でも体は動かない
赤ん坊が死にそうになる
それでやっと体が動く
何をやっているのだろうか
でも何も手につかない
何もやりたくない
そんな絶望が
この赤ん坊が産まれた瞬間に
ポンッと現れた
赤ん坊の世話をしなければならない
それは、わかってる
頭ではわかってる
でも体が動かない
ワンオペ育児は大変とは聞いていたが
それとは違った苦しみ
この赤ん坊が
こいつが
俺の大切な、大切な
妻を奪った張本人
そう思うと怒りさえも湧いてくる
でも愛していないわけではない
最愛の妻との間に出来た
可愛い可愛い赤ん坊
でもその赤ん坊が最愛の妻を奪った
この矛盾はどうすればいい
そんなことを考えながら
児童虐待と言われそうな日々を
過ごしていた
妻が使っていたタンスを開けた
そこには
少しお腹が大きくなった時に撮った
エコー写真と
妊娠が発覚した時に撮った
俺と妻が仲睦まじく笑っている写真が
入っていた
そこで、もう涙が出そうだったが
エコー写真を見て
ある言葉を思い出した
『もしこの子が私の命と引き換えに産まれてきたら』
『その時は私の事なんか気にせずに思いっきり愛情深く育ててよ?』
『親バカって言われるぐらいにね』
出産のために入院した時に
言っていた妻の言葉
笑いながら冗談交じりに
そんなことを言っていた
それが現実になるとも知らずに
それを思い出した瞬間
自分の情けなさに笑えてきた
何がこの赤ん坊が妻を奪っただ
奪ったんじゃない
ただただ妻が
この子の命を優先しただけだ
それなのに俺は
父親の役目を一切せず
この子に最低な事ばかりしていた
名前だって決めていたのに
その名前すら呼ばずに
最低限のことだけをし
途方に暮れていた
そんなの
父親としても、夫としても
失格だった
「ごめんよ...真優」
謝っても謝りきれない
この子の名前は
素直な優しい子になってくれたらいい
という由来で名付けた
最愛の妻と一緒に考えた
可愛い名前
なのに俺は
この償いはどうすればいい
この情けない気持ちはどうすればいい
このやり場のない自分への怒りは
どうすればいい
わからない
わからないからこそ
俺はこの可愛い愛娘を
一生にかけて
守っていかなければならない
それさえ怠れば
俺は本当の地獄に落ちるだろうな




