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666  その⑤

 俺は限界だった。

 止まらない出血により、意識が朦朧とし、体温低下が激しかった。


 死の底へ転落する崖が真後ろに迫る感覚。

 何も抵抗しなければ勢いが加速する。

 俺はその恐怖に怯えながら必死に抵抗をしていた。


 それほどまでに『死』は恐ろしいと感じた。


 恐ろしい、怖い、死にたくない、逃げたい、助けて欲しい。


 助けてくれるなら誰でもいい何でもする。

 神に祈ればいいなら祈る。

 悪魔と契約したっていい。


 頼むから助けて欲しい、死にたくない。


 そんな時だった。


 《ザッザササ――ザザザ――》


 何かが近付いて来た、ココウか?


「・・・・・・コ、ココウ・・・・・・たす・・・・・・けて」


 《ザザザッサッサササ・・・・・・》


 その音は俺の周辺をウロウロとし、顔を出した。


「い・・・・・・ぬ?」


 その犬種には見覚えがあった。

 シェパードだ。


 そのシェパードは、俺の体を《スッスッス》と音を立てて匂いを嗅いだ。

 助かったのだろうか?

 警察が捜索でこの山に?

 もしそうなら、重傷者が居ることをご主人に知らせてくれ。


 俺は顔を舐め回され、その暖かさに安堵した。

 そのシェパードは、傷口も舐めた。


「人の・・・・・・痛みが分か・・・・・・るんだな」


 シェパードは、俺の腕に噛みつくと、俺の体を引きずろうと引っ張った。

 主人の元へ俺を連れて行く気だ。

 それは無理だし時間が掛る。


「主・・・・・・人を、よ・・・・・・ん・・・・・・で」


 《ザザッスッサササ・・・・・・》

 《ザササススササ・・・・・・》

 《ザスザサザザスススザザササ・・・・・・》


 周囲から複数の音が近付いて来た。

 しめた、警察だ。


「こ・・・・・・ここ、に、いる」


 力を振り絞り、出来るだけ声を出す。


 だが、(くさむら)から飛び出して来たのは多種多様な【犬】だった。

 犬達は唸り声を上げ、お互いを牽制しながら、それぞれが俺の体へ噛みつくと、有らぬ方へ引っ張り合う。


 俺は野犬に襲われていた。


 抵抗出来る状態ではない。


 喰われる。


 それでも抵抗しないと。


 俺は最後の力で頭を振り回し、体を揺すった。


 だが、逆に活きの良さに興奮したのか、遠巻きに見ていた犬も更に噛みついた。

 体中が熱い、痛みなんて(とう)に無い、あるのは生への執着と死への恐怖。

 犬が頭や首にも複数噛みついた。

 犬の唸り声と、頭の中に、髪の毛が擦れ合う音が《ジャッジッジャシジョジャジャジャ》と響く。


 死へと続く崖から足を滑らせた俺は、底の見えない谷へ向かって、真っ逆さまに落ちた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?

 急に静かになった。

 体の感覚、方向感覚が全く無い。

 真っ暗だ――真っ暗な空間に俺は居る?

 これが『死』なのか?


 死ぬまでの苦しみと恐怖からは考えられない程、あさっりとした印象だ。

『案ずるより産むが易し』か? 全く正反対な言葉に感じるが・・・・・・。

 それとも今から何かが起きるのか起きないのか。


 考えてみてもどうにもならないか。


 俺の体はどうなってるんだろう。

 自分の掌を顔の前に持って来たが、何も見えない。

 そもそも、今腕は動いたのか?

 左手で左頬を触ってみる――まるで透けているように素通りした――しかも無限に左手が右へと進んでいく感覚。

 どうなってるんだ?


 今度は右足を蹴り上げてみた。

 右足は勢いに乗って、無限に頭上へと進んでいく。

 なんとも不思議な感覚だ。


 〔サイロク、テメェワ、シヌ〕


 わっ! ビックリした。

 死ぬ? 俺はまだ死んでないのか?

 〔シンデワイナイ、ダガ、シヌ、コノママダト、シヌ〕

 このままだと? ――その言い方だと、まだ助かる方法があるってことか?

 〔アル〕

 どうすればいいんだ? いや、誰なんだ? あんた。

 〔モノハ〕

 モノハ? モノハさん? で、いいのか?

 〔モノハ、デイイ〕

 そうか、モノハは、何者なんだ?

 〔モノハワ、ココウノイチブ〕

 ココウの一部で、俺に関わりがあるとなると、4面の堕居州か。

 〔ソウダ〕


 ってことは、悪魔と見て間違い無い。

 その悪魔が俺を死に際から救う方法を教えようとしている・・・・・・これが悪魔との契約だな?


 あ~そっか、助かるなら悪魔と契約してもいいなんて思ってたから現れたんだな。

 悪魔との契約って言えば、力を与える代わりに、死に際で魂を要求されるってやつだ。

 悪魔は契約を必ず守らないといけない筈で、それを逆手に取り、言いくるめて上手くやった奴もいたっけ――どう言ったんだっけか? 俺にそれが出来るだろうか。


 〔ソノヒツヨウワナイ〕


 え? 俺、今何か言いました?

 〔イッテイナイ、ソモソモ、サイショカラ、ナニモイッテイナイ〕

 どういうこと?

 〔ココワ、サイロクノ、アタマノナカダ、コトバワ、ハッシテイナイ〕

 頭の中? じゃぁ、考えたことは伝わるってこと?

 〔ソウダ〕


 なるほど、嘘はつけないし、騙せないってこと――ってことは、正直に対応せざるを得ないってことか、さてどうするか? って、これも伝わってるのね。

 なら正直に言わせてもらいます、いや、思わせてもらいます。


 大変都合良すぎるとは思うんですが、魂の取引無しで、生かせてもらえないでしょうか? あっ、いやいや、タダでとは申しません、他のことなら何でもしますんでどうか~って、ダメですよね? でしょうねでしょうね、分かってるんです、分かってるんですよ! そんな都合良すぎることが通るなんて思っちゃいないんです、でもね、『万が一、億が一』があれば素敵だなってことで考えてみただけなんです、でも~ダメですよね? やっぱりダメですよね? ヘケケ。


 〔サイロク、テメェ〕


 あー! 違うんです違うんですっ! どうせ思うことなら、正直に言ってみて、ダメって言われて諦めた方が、後々、後悔無いかなってだけなんですぅ~、だから、結局そう思うならってことで、『今』考えてみただけなんです~、どうか、平にご容赦を~


 〔――テメェ――オモシロイヤツダナ〕


 へ? あ、そう? そうですか? 良かった~、喜んでいただけて――

 大丈夫なのか? 俺助かったのか? モノハって変わった悪魔なのか?

 〔カワッタ?〕

 物好き――いえいえ、素敵なお考えをお持ちの悪魔なんだなと

 〔ソウカ〕


 で、私はどうすれば死なずに済むんでしょうか?

 〔ナニモシナクテイイ〕

 何もしなくて?

 〔ソウダ、モノハト、ドウカ、シテイルダケデイイ〕

 ど、同化? 同化と申しますと?

 〔モノハワ、サイロク。サイロクワ、モノハ、トナル〕

 おいおい、同化って、どうかしてるぜ! 俺の体が乗っ取られるってことじゃねぇのか? あぁん? あ、ヤベ、強く出過ぎちまった。

 〔テメェノ――〕


 〔すまん、遅くなった、ココウだ〕


 ココウ! ココウっ! 無事だったんだ! 無事だったんだな! あ~良かった。

 〔モノハは説明が下手だからな、私が説明する〕

 うんうん、ちょっと喋りが()()()()()()し、頭悪そうな感じがするもん。

 〔アタマワルソウ?〕

 あ! 違うんです! そんなこと思っていません、『アクマ、ワルソウ』です、格好いいってことです。

 〔ソウカ〕

 〔もういいか?〕

 はい。


 〔先ず、すまなかった。私が間に合わなかったせいで、サイロクを危険な目に遭わせてしまった〕

 いや~助かるんなら文句はねぇよ、俺の修行が足りなかったんだ。

 〔そうだな、そこはその通りだ〕

 うっ! ・・・・・・ぐうの音も出ねぇ。

 〔だが、この場に連れてきて戦わせたのは私だ、私の責任なんだ〕

 そ、そうか。

 〔で、サイロクの体なんだが、ここまで損傷を受けてしまった部分は使い物にならない〕

 それってやっぱり、モノハと同化するってことなのか?

 〔そうだ〕

 っで、最終的にモノハが本体になっちゃって、俺の自我は暗闇の牢の中に――

 〔サイロク、君は余程マンガやアニメが好きなんだな、確かにモノハとサイロクを混ぜ合わせることにはなるんだが、正確には、損傷部分はモノハの肉体、サイロクの無事な部分はサイロクの肉体、体の主導権はサイロクだ。モノハは足りない部分をサイロクに貸すだけだ〕

 もーそれってマンガかアニメだよねぇ! 

 〔まぁそう言うな、人族で言う所の、生物工学みたいなものだ〕

 生物工学? バイオテクノロジーとかってやつか?

 〔そうだ、サイロクの細胞を、同化した魔族の回復力で作り直す。その細胞が出来上がるまでを、モノハの体が補うということだ〕

 う~ん、よく分からんが、そうか・・・・・・じゃあ特に不自由なく元の体に戻ると。

 〔ああ。ただ、モノハはサイロクの体に同居する形になるがな〕

 同居?

 〔今のように、頭の中に話しかけて来ることもある〕

 あぁそうか――けど、それで元に戻れるんだ、文句は言えねぇな。

 〔そう言ってくれると助かる〕


 これからよろしくな、モノハ。

 〔アア、ヨロシク、サイロク〕

 〔では、早速だが、現実に戻すぞ、サイロクに話さなければならんことも出来てしまったしな〕

 話し?


 俺の意識は曖昧になり、暗い闇に霧散した。


 どれ位時間が経ったんだろうか、暗い水の底から意識が浮き上がり、自分が自分である感覚。

 俺は俺であることを自覚し、目覚める用意が出来た。


 ・・・・・・目の前、瞼の裏側が見えている。

 一度瞼にギュッと力を入れ、ゆっくり開いてみる。

 薄らと外の世界が目に映った。


 俺はうつ伏せで、右に向いていた。

 目の前には白い子供用の紐靴、側面に★のマーク。


「目覚めたか」


 俺はその靴と声の主を、無理矢理見上げた。

 声の主はココウだった。


 俺は両手を地面に押し当て、上体を起こすと、四つん這いになった。


 両手がある、両足も・・・・・・俺の体は元通りだった。


 嬉しい。

 生きていること、五体満足であること。


 俺は晴れやかな顔を上げ、ココウに感謝を伝えよう・・・・・・としたが、少し後ろに立つ、金髪の少女に目が移って表情が曇った。


 誰だ?


 金髪のショートカット、薄い桃色と水色のオッドアイ。

 見るからにヨーロッパ系の顔立ちの子供でありながら、大人の持つ美しさの片鱗が感じられる。

 身長はココウと比べると少し高い程度で、ココウが小学4年生だとすると、その少女は6年生程度に見えた。


 ココウが純日本人的な雰囲気を持っているため、正反対なイメージだ。

 ココウが黒髪セミロングなのもそう思わせる要因だろう。


「ええっと・・・・・・ココウさん、その少女が――モノハさん?」

「何を言っている、モノハはサイロクと同化しているんだ、別で居るわけがないだろ」


 ココウは、『何を寝ぼけてるんだ?』とでも言いたそうだ。


「まぁ、そうは言っても、サイロクが分かる筈も無い。だが聞けば驚くぞ? 私自身もかなり驚いた」


 俺はさっきまで死にかけてたんだ、今日1日の間に色んなことがありすぎて、もうどんなことにも驚くことは無い気がする。


「この者はデュミナ・(ヴラド)・ドラクル、元六魔大元帥だ」


 ココウの『デュミナ・V・ドラクル』がリフレインした――俺の心の中で。


 今、ココウが口にした名は、俺の記憶が正しければ魔界の追っ手の1人で、彼女が居たお陰で逃げ回るのに相当苦労したはず――それがどうして・・・・・・こんな・・・・・・俺の目の前で・・・・・・こんなに・・・・・・イチャイチャしてるんだ?


 デュミナはココウをバックハグし、ココウの頭に頬ずりしながら、何て言うか、キャイキャイ甘えた声を出している。

 デュミナは満面の笑顔、ココウはそれに対して無表情。

 声色も正反対だ。

 だが、ココウはココウで嫌がる素振りはなく、満更でもない様子だ。


 デュミナ・・・・・・ココウとの関係・・・・・・これはいったい?


「ええっと・・・・・・これは――ど、どう言う?」


Somn(眠れ) veșnic(永遠に)


 デュミナの青い左目が光った。


 俺はデュミナのガン飛ばしを喰らった――までは覚えてるんだが。

 気が付くと俺は暗闇に包まれていた。

 さっきまで居た、心の中とよく似た暗闇だ。

 だが、先程との違いは、無理矢理闇に吸収される感覚。

 あれ? ええ? 今見てたのって夢? やっぱり死ぬのかな――俺。

 自我が保てない・・・・・・。


 ハッとなり、意識が戻った俺は、これもさっきと同じ、うつ伏せで倒れていた。


 軽くデジャヴ。


 立ち上がった俺に、デュミナが『Îmi() parerău(めーん)』と、言っているが、何語なんだ?


「ええっと、あれ? 何がどうなった? えっ? んん? 何語?」


「すまんな、デュミナの左目は、相手の自我を失わせる力を持っていてな、抵抗力を持たぬ者は、一瞬で意識を飛ばされるんだ」


 なるほど、意識を飛ばされてたと、しかし、今のにどうやって抵抗しろと?


 でもこれって、ガン飛ばしただけで相手の意識を飛ばせるんなら、ケンカ上等系のマンガだとラスボス間違い無しだな・・・・・・



 ◆采六のイメージ


 俺達、娑婆(しゃば)校連合は、神走会(じんそうかい)ヴラドの本拠地である、自動車のスクラップ工場に集結した。

 にらみ合う両陣営、数は五分と五分の150対150だ・・・・・・いや、だった。


 ヴラド側の奥に見える、積み上げられたスクラップの頂上、そこに神走会第8代目総長、銅鑼来(ドラクル)・デュ・光奈(ミナ)が腕組みをして立っている。

 その銅鑼来が叫んだ。


「我が目を見よ!」


 その声に釣られ、見上げる娑婆校連合。

 銅鑼来の目を見つめた者は、その場で次々に気を失った。

 その数およそ80。

 半数以上が銅鑼来のガン飛ばしによって失われた。

 娑婆校連合四天皇と呼ばれる俺、仁矢(じんや)、不動、(げん)の内、不動と元は気を失って倒れていた。

 だが、それで分かったことがある。

 俺と仁矢は目が悪い、仁矢に至っては眼鏡を掛けなければ隣に立って居る俺の鼻の穴が幾つあるのか分からない程だ。


 それに比べ不動と元は、マサイ族並みに視力が良かった。

 恐らく倒れた80人は、視力が良かった奴等なんだろう。

 恐るべき、銅鑼来のガン飛ばし!

 半数以下になった俺達に勝ち目はあるのか?


 だがその時、俺達の背後から、穴の空いた原付マフラーの排気音が鳴り響いた。


 聞き覚えのある、《ビィィィ》と安っぽい音を奏でる懐かしい排気音。

 ちょっと下手くそな『吹かし』。

 来た、来てくれた、俺達の総番、与先(ヨサキ) 孤高(ココウ)が!


 孤高は俺達とヴラドの間に原付を割り込ませると、原付のスタンドを降ろし、丁寧に駐め、鍵を抜いた。


「待たせたな!」


 動揺するヴラドの奴等。


 この数の差を持ってしても、孤高の存在は大きい。

 自然と娑婆校連合の士気は上がった。

 勝負の行方は・・・・・・


「サイロク! サイロク! 大丈夫か?!」


 采六のイメージ終わり◆



 我に返った俺は、孤高――いや、石に乗り、背伸びをしたココウに両肩を持って揺さぶられていた。

「まだ完全に解けていなかったのか?」

「いや、わるい、ちょっと妄想してた」

「妄想? 何をしているんだ君は」


 そう言うと、ココウは元の立ち位置に戻り、デュミナにバックハグされた。

 どうやらこの状態で話を進めるらしい。


「あと言葉だな、デュミナが何語を話しているかは私も知らない」

「でも会話出来るんだよな?」

「ああ、魔族は産まれて最初に身に付ける能力があってな、それが言葉の意味を理解する能力だ」

「耳が勝手に翻訳するってことか?」

「いや、音に乗って伝わる意味を理解するみたいな感じだ、サイロクもやってみろ、モノハと同化している今なら出来るかもしれん」

「どうやって?」

「月鋼クナイに気を込めると言っていたな、同じ要領で、耳に入ってくる言葉の感情を、理解しようと考えろ」

「お、おお」


 半信半疑ながら、俺は耳に気を溜めるイメージをした。


「よし、デュミナ、何か言ってやれ」

Am înțeles(わかった). Kokou(ココウ) este al(はデュミナの) meu(ものだ). Dacă(手を) atingi(出す), îți() voi() arăta ce(うなる) se() întâmplă(おしえてやる).」


 ん? ちょっと分かるぞ――何か教えてくれるのか?


「両足首を・・・・・・縛り上げて吊し・・・・・・頸動脈を切って・・・・・・血をグラスに注ぎ・・・・・・目玉を一つくり抜いてつまみにして・・・・・・晩酌を楽しもう・・・・・・え?」


「ほほう、完璧だな、サイロクは魔力さえあれば上手く使えるようだな」


 いや、俺、何か恨まれてます? つまみにされるの?


「サイロク、ココウに手を出す者があればデュミナに報告しなさい? 直ちに八つ裂きにして晩酌のつまみにしてやるから」


 あ~俺じゃ無かった~良かった~。


「説明しなければな、先ず、デュミナは敵では無い」


 この状況を見れば誰でも分かる。

 だが、魔界で追っ手だったことは事実だろう。

 それについても話してくれるんだろうか?


 ココウは、精霊門の前から居なくなってから今までのことを説明してくれた。


 俺が頭を下げた瞬間、ココウは、音速で飛び付いてきたデュミナに抱き付かれ、数十メートル先まで木をへし折りながら吹っ飛んだそうだ。

 その時デュミナは泣いていたと言う。

 デュミナが落ち着いてから、ココウはデュミナの魔界での話を聞いた。


 デュミナはダールーから、ココウは人族と既に関係を持ち、人族と魔族のハーフを産もうとしていると聞かされた。

 ココウのことを、自分の手元で閉じ込めておきたい程愛していたデュミナは、ダールーから聞かされた数々のでっち上げ話に加え、中々会えない時間に不安を抱いていたことも相まって、真相を確かめもせず、怒りに任せてココウを追いかけた。


 ココウは、頭に血が上りやすく、直情的なデュミナの説得は不可能と覚り、魔界を逃げ続け、普段使っていた精霊門とは違う精霊門を発見し、この地に逃げ延びた。


 その後デュミナは、六魔大元帥同士の不可侵条約を破ったとして、審問会(しんもんかい)に掛けられる予定だったのだが、元々六魔大元帥の地位に執着の無いデュミナは、勝手に地位を放棄し、ココウを探して人界にやって来たのだという。


 六魔大元帥の地位は、強力な力を持つ2人が同じ場所に居ると、他の六魔大元帥が危機感を募らせる可能性があり、魔界を混乱させることになりかねないと、ココウに諭されて渋々担った役職だったそうだ。


 そして、やっとのことでココウを見つけたデュミナは、事の真相をココウから聞き、今に至る。


 2人は恋愛関係にあるってことで間違い無いだろう。

 因みにあの時、俺が頭を下げていなければ、首から上が無くなっていたとも聞かされた。


 本当の意味で危なかったのはあの瞬間だったってことか。

 この短期間で俺は2度死にかけていた。


「さて、これからのことを話そうと思うが、その前にサイロク、君は先程現れた、【ガスモミラ】に殺されかけた訳だが」


「【ガスモミラ】って、さっきの狼みたいな魔族のことだよな?」

「そうだ。サイロク、あれを倒せ」

「えー! 冗談じゃねぇよ! ムリムリムリ」


 常識で考えるなら、一度殺されかけた相手との再戦など、余程のバトルマニアでなければ了承しないだろう。

 しかもルール無用のデスマッチ、死にに行くようなものだ。


「サイロク、これも進化の過程だ、死なない程度で助けるからやってみろ」


 死なない程度・・・・・・ってさっき死にかけた時の状態を指すんだろうか?

 あんなこと二度とゴメンだ、人としてのプライドもズタズタだし、俺は無力過ぎる。これ以上自信を無くしたくない。もっと自分に合った出来ることをしたい。


 俺は汗、鼻水、涙を流し、歯をカタカタと鳴らして震えた。

 自然と後退りし、息子のショーン・ベンを力んで押さえた。

 こんな状態で戦っても勝ち目は無い――


 だが気が付くと俺は、白狼に面と向かって立っていた。


「え?」


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