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ゴールデンウィークは自転車に乗って

「みんなー! 準備はいい?」


 今日は5月5日、ゴールデンウィーク真っ只中である月曜日の朝9時。七王子駅前にある、レンタサイクルの店の前で、カナタたちは自転車にまたがっていた。


「ああ。準備オッケーだ」


「他のみんなもいいね? じゃあ出発!」


 ヘルメット姿の彼らは、自転車を漕ぎ始めた。


 駅前大通を、歩く人に気をつけながら走り、時々押しつつ、国道沿いの郵便局に差し掛かった頃、マキナが一つあくびをしてから口を開いた。


「ねぇ、そもそもなんで私達は自転車漕いでるわけ…?」


 マキナの目は、まだ眠たそうだ。それもそのはず、昨日は夕飯前に昼寝をしてしまったせいで午前3時に起き、7時から二度寝をし、出発直前の8時30分に叩き起こされたのだ。


「山の中にある、七王子ファミリーパークって公園にピクニックに行くんだ。着いたら、父さんと母さんとお弁当が待ってるよ」


「でもなんで駅から自転車なわけ? 車でよかったじゃん!」


「自転車で走りながら日の光と自然の風を浴びたら、すっきりするんだよ。それに、うちには自転車が一台しかないし」


「ふーん… ま、いいもんが見れると信じて、行ってやろうじゃない!」




 駅を出発してから約30分、一向は川沿いの土手の下を走っていた。


「あ~ 確かに風が気持ちいい~」


「そうだろう、そうであろう」


 その時、ゴルダンが、「あ、あそこ」と言って、ある場所を指さした。


「野球してるぜ」


「野球…初めて実際に見ました」


「といっても、これは少年野球だけどね」


 ピッチャーの少年がボールを投げ、バッターボックスに立っていた少年がそれを打つ。いい当たり。だが、打球は想像以上に飛んでしまった。ホームランは確実だろうが、ボールは川に落ちてしまう。

 そのことを察知したセルアは、自転車のシートの上に足を乗せ、そのまま思いっきりシートを蹴り、高く飛び上がった。それは明らかに常人が飛べる高さのそれを凌駕していた。両腕を伸ばしてボールをキャッチすると、上手に受け身をとって着地、ボールを子供たちのもとへ返しに行くのだった。


「ナイスセルア」


 子供たちのところから帰ってきたセルアと、カナタはハイタッチをして、再び目的地へ向けて走り出した。




 一向は、橋を渡って川を越え、ファミリーパークへ行くことのできる唯一の道である、七王子MD(マウンテンロード)の入り口へとやってきた。


「おー。ここが入口か」


 先頭を走っていたゴルダンが自転車を道路脇に止めると、後続の四人も同じように一時停止した。


「結構山ね」

「確かに」

「山ですね」


「あ、そうそう。これ見て」


 ふと何かを思い出したように、カナタはスマホを横向きにして画面を見せた。そこに映っていたのは、地図アプリだった。ちょうど、この近辺が映っている。


「見ての通り、ここの道は結構くねくねしてるし、意外と狭い。その上、木で前がよく見えない所がちょこちょこあるから、くれぐれも車には気をつけて」


 四人が頷いた事を確認すると、今度はカナタが先頭を行くのだった。




 山道を一生懸命に登っているカナタたち。登り始めてから20分は経った頃だろうか、彼らの様子は明らかにしんどそうだった。


 前から2番目を走っていたセルアは、「ちょっと、待ってくれ」と言って、先頭のカナタと後続の三人を引き留めた。


「なぁ、少し休憩していかないか? いくら体が強い僕たちといっても、流石にキツイ…」


 セルアは、息も絶え絶えに、他の四人に訴えかけた。


「そうですね。この辺りで一度休むのも、ありでしょう」


「了解。ちなみに、ここからちょっと行ったところに、屋根付きの休憩スポットがあるけど…どうする?」


 四人は少しの間、迷った。今すぐこの場で休むか、それとも、休憩所でゆっくりと休むか。

 その後、マキナは口を開いた。


「折角だし、そこまで頑張らない? それにほら、絶景スポットでもあるみたいだし」


 マキナの持っているスマホには、あるバイカーのブログに載っていた写真が映っていた。


「「「「お〜」」」」


「じゃあ…そうする?」


「僕は、呼吸を整えてから行くよ」


「私も、足がパンパンなので少し…」


「ん、了解。じゃあ、先に行って待ってるね」




 カナタたちが休憩スポットに到着してから3分後、セルアとラーシャが追いついてきた。


「2人ともお疲れ〜」


「労いを、どうもありがとう」


 ヘルメットを片手に持ったセルアが、マキナと会話している裏で、ラーシャは東屋の机の上に置いてあるものに目をつけていた。


「あら、おにぎりを持ってきていたのですね」


「おうよ、サプラ〜イズ、ってやつ。食べな」


「それではお言葉に甘えて…ちなみに具のほうは何が…」


「えーと…今残ってるのは、梅と昆布」


「ありがとうございます。では…私はこちらをいただきます」


 そう言ってラーシャが取ったのは、向かって右側にあったおにぎりだった。

 一口かじったが、塩と米の味。まだ具にはたどり着いていないようだ。二口目をかじっても、まだ米と塩。そして、ようやく三口目で具にたどり着いたのだが、これがとっても酸っぱかった。思わず、口元を手で覆ってしまうほど。


「酸っぱい…誰か、お水を…」


「その様子じゃ、梅干し引き当てたみてぇだな」


 ゴルダンが水の入ったペットボトルを「ほらよ」と渡すと、ラーシャは水を一気に口に含んだ。


「…っ、はぁ……酸っぱすぎました…」


「ラーシャ、大丈夫だったか?」


「ああセルア、もう大丈夫です。ご心配をおかけしてしまってすみません」


「おにぎり食べな。昆布だよ」


 カナタはセルアに向かって、おにぎりを(ほう)り、セルアもそれをキャッチした。


「ありがとう。…いただきます」




 セルアがおにぎりを食べ終わった後、5人は休憩場所のある空き地から、道路を挟んで目の前にある絶景スポットに移動した。


「綺麗な景色~」


「『空気がおいしい』とは、まさにこのことだね」


「あ、あそこ」


 セルアが指をさした場所へ、4人は目をやった。


「あそこ、不動台じゃないか?」


「えーっと…」


 カナタはスマホの地図アプリで方向を確認し始めた。


「うん、不動台で合ってるみたい」


「へぇ~こんな位置関係なんだ」


「あ、一応聞いておきますけど、ここから目的地まで、あとどのくらいでしょうか?」


「んーと……ま、まだ3分の1のところだ」


「「「「つまり?」」」」


「あと4キロメートル。入口からここまでの距離の、約2倍」


「え? それ、マジなの?」


 マキナはカナタに聞いた。


「残念ながらマジでございます」




 5人はそれからまた漕ぎ、漕いで、漕いで、30分ほど漕いだ頃、一つの長い下り坂を目の前にした。


「こいつは、スピード出しすぎたらヤバそうな坂だな」


「だね…あ、ここ事故多発地点だってよ」


「ふーん…」


 その時、なんとマキナは坂道をブレーキをかけずに、勢いよく下り始めた。


「あ! マキナ! 待って、危ない!」


「平気平気! 私、こういう度胸試し的なの好きなの!」


 マキナはカナタ達のいる方を振り向いたまま、返事をした。だが、前方不注意はあらゆる危険を招くものだ。「危険」にいち早く気づいたカナタは声を張り上げた。


「マキナ! 前! ガードレール!」


「へ?」


 ここでやっと、マキナは自分の目の前に、ガードレールと森が近づいていることに気が付いた。


(うそでしょ!? このままじゃぶつかる…! いや、大丈夫。私には”これ”がある!)


「発動:volatus intermediarius/媒介飛行!」


 自転車とガードレールが勢いよく衝突する寸前、なんと自転車とそれに乗っていたマキナが空高く浮いてしまった。


「飛んだ!? え!? 今飛んだよね? マキナ飛んでるよね!? ……なんか、映画で見たことある…」


 カナタは何度も目をこすって見直したが、確かに、マキナは自転車で空を飛んでこちらに戻ってくる。


「ごめんね、みんなに心配かけちゃって」


「マキナが無事でよかったんだけど、どうやって、それ、飛んだの? やっぱ魔法?」


「ご名答! 今のは私の固有魔術『volatus intermediarius/媒介飛行』だよっ」


 マキナに続き、セルアも説明のために口を開く。


「マキナの固有魔術は、『物体を浮かせて、それに乗って空を飛ぶ』というものなんだ」


「あ! 私が説明しようとしてたのに!」


「へぇ~ じゃあ、切った木とかは?」


「いけるよ」


「ほうきは?」


「それもいける」


「車は?」


「多分…いけるかな?」


「おぉ~ すげぇぇ」


「まぁ、過度な期待はしないでね。大きすぎたり、重すぎたり、逆に小さすぎたり、軽すぎてもダメだから」


「いろいろと難しい制限があるんだなぁ」


「おしゃべりはそこまでにして、そろそろ出発しませんか?」


 ラーシャが二人の会話に割って入った。


「だな。俺、そろそろ腹減ってきちまったよ」


「それじゃあ…再び目的地に向けて、しゅっぱーつ!」


 目的地の方向を指さして、そう叫んだカナタは、地面を蹴って自転車を発進させた。勿論、坂はブレーキを軽くかけながら下っていく。

 残りの4人もそれに続くのだった。




 視点は、ファミリーパークで待っているタイチとサユコのところへ移る。二人はピクニック用の小型テントを張り、その中で待機していた。

 サユコはテントの中から、無邪気に遊具で遊ぶ子供たちの姿を、幼い頃のカナタと重ねていた。


「ねぇ、あなた」


「ん? どうした?」


「子供って、あっという間に大きくなるわよね」


「いきなりどうした? まぁ、確かにそうだよな。俺だって、つい一月前にカナタの、幼稚園の入園式に行った感覚だ」


「私もそんな感じ。あそこで遊んでいる子供たちも、いつかは大人になっていくのかしらねぇ」


「だな…それより覚えてるか? カナタが年長さんの時・・・」


 二人が息子との思い出話に花を咲かせていると、遠くから、カナタの「おーい」という声が聞こえてきた。


「お、来たか!」


 タイチもテントを立って、カナタ達のところへ駆け寄った。


「全員、怪我一つなくここにいるよ」


「おぉ~みんなよく頑張ったなぁ…さあ、昼飯にするぞ!」


 春晴家の三人+アニメの中からやってきた四人の計七人は、テントの前に敷いたレジャーシートの上で手を合わせ、昼食のお弁当を食べ始めるのだった。

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